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情報収集と

 盗賊の捕虜になっていた女性達を外に運び出し埋葬した。洞窟の中では彼女達も安らかに眠れないだろうから。


 俺は次の街に急いで向かう。何故こんなに急いでいるかははっきりとは分からなかったが、このままここにいたら気がおかしくなりそうだった。早く人に会いたかった。


 夜になる前に次の街にたどり着く。城門が締まるギリギリの時間だった。


 この街は伯爵邸があり、その伯爵が統治している街のようだ。町の人口は1万人はいる大きな街だ。


 まずは近くの宿屋に入り部屋をとる。まぁここでも変な目で見られたが身分証のギルドカードがあったため何とか泊めてもらうことが出来た。9歳の子供がローブを深くかぶって夜に一人で泊まりに来ているのだから不審に感じるのは仕方のない事だが。


 その後一回にある食堂で食事を注文する。この時間は丁度夕飯時で人で賑わっていた。料理の美味しそうな匂いと共に酒の匂いが充満していて少し眩暈がする。まだ子の匂いには慣れそうもない。


「はいよ!!B定食ね!!」


 カウンターの端に座っていた俺の目の前に料理が運ばれてくる。とても美味そうだ。俺は料理を食べようとしてフォークを握り……、そこで初めて自分の手が震えていることに気づく。それでも料理を食べようとしたが上手く喉を通らない。


 ああ、そうか。俺は今日初めて人を殺したんだ……。


 この世界では人の命は軽い。犯罪を犯した者は容赦なく死刑になる確率が高い。盗賊や人攫いは勿論死刑だ。俺のやったことは間違いではない。


 あいつ等は人であって人ではない。自分達の性欲の為にこれまで何人の女性を傷つけ殺してきたか分からない。そうだ。あいつ等は人間じゃない。


 そう自分に言い聞かせて納得しようとするがそれでも手の震えが消えなかった。


「どうしたの?口に合わなかった?」

「……いえ」


 店員の女性が中々食べない俺を気遣って話しかけてくるが、うまく言葉を返すこともできず俺は席を立ち部屋に戻る。暗い部屋のベッドに座り込み考える。俺のしたことは間違ってない。だが何度自分に言い聞かせたところで気持ちは晴れなかった。


 俺は人を殺した。


 その事実だけが、人を殺した時の感覚だけが、俺の頭に、体に残っていた。


 俺は無性に父さんや母さんに会いたくなった。二人ならこんな俺になんて声をかけてくれるだろうか。一人で人さらいの盗賊達を壊滅させたんだ。褒めてくれるだろうか……。


 きっと「一人で危ないことをするな!!」って怒りながらも抱きしめて褒めてくれるに違いない。きっとそうだ……。


 家族に会いたい。


 そんな簡単な願いも俺には叶えることが出来ないんだ。


 涙を拭きベットに潜り込む。もう寝よう。少し疲れた……。



 二日後、俺はようやく部屋から出る。その目の下には大きなクマを作っており少し痩せたかもしれない。体がふわふわする。


「ようやく起きたかい。心配したんだ、よ。ってあら?可愛い顔してたのね貴方」


 以前料理を運んでくれて気遣ってくれた女性が声をかけてくれる。俺は返事をしようとしたが上手く声が出ずに口をパクパクしていると女性は笑って「あまり眠れなかったみたいね。いいわ。何か食べやすい物を作るから座っていなさい。」と言って裏に消える。


 体は子供でも心は大人だ。なんだか自分が情けなくなるが黙ってカウンターに腰を掛ける。


 出てきた料理はとても優しい味のするリゾットだった。ひき肉なども入っておりほのかに香るチーズの香りが食欲をそそった。俺は一度も手を止めることなく料理をたいらげた。


「ふふ。今度はちゃんと全部食べられたわね」

「……ありがとう。」

「ふふ。ちゃんとお礼が言えるのね。偉いわ。」


 そう言うと俺の頭をカウンター越しに撫でてくれる。少し恥ずかしかったが優しい手つきについ身を任せてしまう。


「ね、ねぇ。聞きたいことがあるんだけどいい?」

「あら。何かしら。私に答えられるものならいいけど」

「……最近スタンピートがあったって噂があったけどこの街には魔物はこなかったの?」

「ああ、その話ね。来たわよ。でもその前に伯爵様が兵を総動員して待ち構えていたから全てこの街に来る前に殲滅できたみたいだわ」

「そう……」


 この街が被害にあわなかったのは喜ばしい事だ。だが俺は素直に喜べなかった。


「でもなんか変だったのよねぇ」

「?変だった?」

「うん。スタンピートって突然起こる災害みたいなものなの。なのに伯爵様は何日も前からそれを予言してたみたいに兵を集めて警備させてたの。それにここから北にある街には兵を送らないでこの街だけを守ってたの。」


 つまりここの伯爵はスタンピートが起こることを知っていたことになる。もしかしたら何か予感がしたとかそういう事もあるのかもしれないけど、だけどあまりにタイミングが良すぎる。これはここの伯爵は当たりかもしれない。


「まぁ私もお客さんから聞いた話なんだけどね。でも兵を北側ばかりに集めたり、何かと不思議だったってみんな言ってたわ。まぁ伯爵様だから何か情報を掴んだのかもしれないけどね」

「そう……伯爵様って凄いんだね」

「ふふ。そうね。でもね、こんな事子供の君に話すべきじゃないかもしれないけど貴族には気をつけなさい」

「貴族に?」

「そうよ。今この国はとても危険な状態なの。先代国王様まではこの国も平和だったらしいんだけど、今の国王様になってから何かと貴族同士で小競り合いをしたり盗賊が増えたり治安が悪くなったりと色んな事があってね。貴方もできれば旅なんかしないで街にいた方がいいわ。何だったら家で雇ってあげようか?あなた可愛いし人気出るわよ?」

「そうなんだ。ありがとう。でも俺には行くところがあるから」

「俺……?そう。残念ね。でもいつでも大歓迎だからね」


 お姉さんはそう言うと今来た他のお客さんの接客に行った。


 俺の勘では恐らく当たりだ。ここの伯爵は「スタンピート計画」について何か知ってる。そんな気がする。


 あとはどうやって伯爵と会って話をするかだ……。


 とりあえず俺はギルドに行くことにした。ここに来るまでに何度か魔物を仕留めたのでその売却をするためだ。因みに仕留めた魔物は魔法のぽ袋に入ってる。魔法の袋の中は時間が止まっているらしく死体が腐ることはない。本当に便利なものだ。


「いらっしゃいお嬢ちゃん。お使いかな?」

「違うよ。魔物の売却にね。」

「魔物の……?それなら奥のカウンターだ。」


 魔物の売却は死体の一部の部位などを買い取ってもらうので、匂いが辺りに充満しないように奥の部屋で売却を行うようだ。


 奥のカウンターに行きこれまで倒したワーウルフなどの死体をいくつか取り出す。因みにアニの街で倒した魔物は入っていない。それらを見たらアニの事を思い出すため全て燃やしてきた。


「こいつは驚いた……。これ全てお嬢ちゃんが?」


 10数匹にも及ぶワーウルフの死体を見て店員は驚く。ワーウルフはE級クエストの魔物だが9歳の子共がそれをこなしていることに驚いたんだろう。俺はギルドカードを提示する。


「……なるほどな。意外とクエストをこなしているのか。……いいだろう。少し早いかもしれないが、ああ、男の子だったか。坊主はEランクに昇格だ。それとこれが料金だ。」


 銅貨一枚と鉄貨4枚を貰って俺は再びホールのクエストボードを見に行く。


 因みにこの世界のお金は、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、に分かれている。日本円にして鉄貨から1円、銅貨が100円、銀貨は10000円、と上がっていく。


 だが物価が安いため屋台などで食事をする場合、鉄貨で足りるし宿屋に宿泊する場合銅貨で食事付きで泊まれる。


 平民はほとんど金貨を使う事はない。使うと言ったら商人か裕福な家庭だけだろう。


 クエストボードを見渡すとEランクのクエストはほとんどFランクと変わらず、多少魔物討伐クエストが増えただけだった。


「今はあまり戦闘はしたくないな……」


 まだ人を殺したあの感覚が俺の手に残っていて剣を握る気にはなれなかった。一度ギルドから出て街を散策することにした。


「お嬢ちゃんお使いかい?しかしよくこんなに溜め込んだものだ。」

「うん。家の倉庫に沢山あったんだって。だけどもう引っ越すから売って来いって。」

「なるほどな。品物はどれも悪くない。これでどうだ?お嬢ちゃんが一人で頑張って持ってきたんだ。色を付けといてやる。」

「うん。大丈夫。ありがとう。」


 俺は一度魔法の袋の中身を整理するために道具や食器、武器など使わなそうなものを売って周った。ただいらない物を全部同時に売るとなると怪しまれるので数個ずつ色々な街で売っていくつもりだ。俺はそこそこお金持ちになった。



そろそろ宿屋に戻ろうとしてた時、大きな屋敷が大通りの先に見えた。近づき近くの屋台に立ち寄る。


「いらっしゃい。ワーウルフの串焼きはいかがかなお嬢ちゃん。」

「ん。一つ頂戴。それと質問いい?」

「ん?なんだい?」

「あそこの大きな家って誰の家?」

「なんだい。お嬢ちゃんは最近この街に来たのかな?ここは伯爵様のお屋敷だよ。いつかはこんな大きな屋敷に住んでみたいもんだ……。っと、ほら焼きあがったよ。鉄貨一枚な。」

「うん。ありがとう。」


 口に含み切れない大きさの肉にかぶりつきながら通りの中心にある噴水のわきに腰を掛け思考する。口の中には肉汁が溢れシンプルな味付けだがしっかりとした味が広がる。


 まず目的は伯爵と話すことだ。そして証拠の書類を持っているか確認したい。


 だがこちらの身分がばれたら大変だ。アニの生存者は兵士が探していたところを見ると辺りの貴族はそのことを知っているだろう。


 一応いくつかの方法は考えた。


 まず思いつくのは屋敷に忍び込むことだ。だが屋敷の警備は厳重そうでここから見えるだけで、門の前の二人、庭に4人、庭師が一人いる。屋敷の中にも何人もいるだろう。だがこの方法が一番よさそうだ。


 他にも先ほどギルドのクエストボードに伯爵邸の周りの道の舗装作業の手伝いなどがあった。怪しまれずに中を覗き込むことは出来そうだがそれ以上の成果は望めないだろう。


 恐らくだが伯爵邸の中に入り作業している人達、つまりは庭師や家の舗装などをしている人は皆専属の雇われたものだけだ。前パランケ伯爵邸に行った時そう聞いた。怪しい者が入り込まないように屋敷内に入れる人間は限定していると……。


 俺はあそこに忍び込んでうまくやれるのだろうか?

 

 

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