表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

貴方は私を殺してよ

作者: てん

初めて小説を書きます。

前書きといっても何も言うことはないので、とりあえず作品をよんで頂けると幸いです。

 自分が死ねないことに気付いたのは、小学五年生の頃だった。

 大きな大人に車でさらわれて、どこかもわからないような川辺で切り刻まれた。

 目玉もえぐられた。

 爪だってはがされた。

 あの時の苦痛は今でも覚えている。

 男は満足したのか凶器を投げ捨て、川で返り血を流し始めた。

 その時俺は体を動かすことは出来なかった。

 だが、自分の傷口から、うっすらと赤い煙をあげながら閉じていく感覚はあった。

 体の痛みが薄れて、体を動かすことができるくらいまで傷が塞がった。

 自分はその場を逃げようとしたが、男はいつの間にか後ろにいて、俺の首を握りつぶさんとばかりに両の手で絞めた。

 声にならない声をあげながら、口から唾液が流れていく。

 視界はピントがずれてぼやけていく。

 薄くなる意識の中、突然銃声が鳴り響き、首を絞めていた手の力が一気に抜けていった。

 自分はしばらく咳き込んでいた。

 呼吸が落ち着いてきた頃に、銃を携えた自衛隊のような格好の男が話しかけてくる。

「大丈夫かい?」

 俺は頷きながら返事をする。お兄さんたちは?そう聞くと、彼らは答えた。

「俺たちはU.S.I。君のような死なない人々を保護するために存在している。この男の監視も目的の1つだがな。」


 始まりは一人の飛び降り自殺からだった。

 ビルの屋上から飛び降りて、顔面から着地。

 脳味噌をコンクリートにぶちまけた。

 だが、その頭は段々赤い煙を上げながら元の形に戻っていった。

 そのあと男は病院に搬送されたが、その翌日に行方不明となった。

 そんな不死の人々は次々と発見されていった。

 そして今現在そういった人々の数は200万人にのぼる。

 その人達は政府の意向により北海道へと強制的に送られた。その後に見つかった不死の人々も同様にだ。

 北海道には急ピッチで不死の人々を隔離する施設を作り上げられた。その施設での隔離の目的は表向きでは不死の人々の増加を防ぐためと言っているがその内実は不死への畏怖や嫌悪からと、容易に推測できた。

 最近では不死になりたいと言って北海道に立ち入ろうとする人々や、海外からきた謎の宗教団体が増えていた。

 また、不死の人々の増加に伴い、犯罪件数や行方不明者数も増えていった。

 犯罪件数の増加はどうせ捕まっても死なないからという安易な考えから、行方不明者数の増加は不死の人をサンドバッグのように暴力を加える道具としようとするサイコパスの増加から来ていると考えられる。

 逆に減少したのは年間死亡件数くらいで、日本の治安は悪くなる一方だった。

 その不死の人々の犯罪の抑制と彼らの保護のために立ち上げられた組織が、

 Undead.Saving.institution、通称U.S.Iだ。

 この組織は9割の不死の人で構成されており、東京を拠点にして活動している。

 さらに北海道、宮城、新潟、大阪、広島、愛媛、宮崎の計七箇所に分かれてU.S.I支部が置かれている。

 そして現在俺は新潟支部に所属している。

 新潟なんて米ぐらいしか取り柄のない退屈な場所だ。

 正直新潟は言うほど犯罪件数は増えていないし、サイコパスなんて隠れているのかどうかは知らないが見たこともないし、特に何もなく、平和だった。

『北海道の不死者隔離施設前で暴動が起きました。』

 オフィスのテレビがニュースを流している。このような暴動やデモは増えている。家族を強制的に連れていかれた人もいるのだ。起きて当然である。

「デモがまたしでも起きましたね。あ、お茶どうぞ」

 お茶をくれた彼女は真城笑美。(23)の同期で、彼女も不死身だ。

「お前の駄洒落でこのお茶が冷めそうだよ。」

「でもお茶は少し冷めた方が飲みやすくないですか?」

「まあ、一理あるか。にしても、こんなにのんびりしてても給料が入るなんて、ある意味天職についちまったのかもなー、俺。」

「でもいざって時に何もできないと、クビになって北に飛ばされて隔離されちゃいますよ?」

「はっ。むしろそっちの方がいいのかもな。お前だってそう思うだろ?」

「あなたが飛ばされるのは…むしろいいかもしれません」

「さらっと酷いこといってくれるねーおい。俺が居なくなったらここの職員は何人になるんだ?」

「さあ?でも10人もいないのにここまでやってこれてるなら大丈夫でしょう。」

「俺のガラスハートを粉々にしたいらしいな。」

「まあまあ、半分冗談ですよ。」

「半分は本音かよ。」

「そんなに文句があるなら仕事しますか?最近この辺で不死者と思われる人がいたとの報告が来ているので、その人を探しに行かれてはどうですか?」

「文句言わせてんのはそっちだろ。まあ退屈してたから行ってくるか。」

「情報はそちらのスマホに送っておきます。」

「了解。」

 俺は椅子にかけてた上着に袖を通してその場をあとにした。



 長岡の駅前は大きなエスカレーターの着いた屋根付き歩道橋があったり、やっていないであろうボロボロの宿屋があったりと、昔と今が混ざりあわず、分離して残っているような状態になっていて、どこかだらしない風景になっていた。

 そんな風景を俺は割と気に入っている。生まれ育った街だからか、どこか安心感のある場所になっていた。

 時刻は15:00丁度になり、駅前の中央の道路の録音された「かっこう」の鐘の音色が響く。

 探しはじめてから小一時間ほど経ち、正直帰りたくなってきた頃、探していた人が。

「いた。」

 だが、その人の隣には銀髪の細身の男が一緒に歩いていた。

 二人はとあるビルの中に入っていった。いきなり飛びかかり捕まえるのも気が引けるので、すこし後を付けることにした。

 銀髪の男は遠目からみても顔が整っているのが分かり、その瞳はすこし暗い紅色をしていた。

 会社の同僚とかだろうか?まあ推測はいくらでもできる。

 とりあえず俺は彼らの後を追う。彼らは話をしながら階段を登っていき、屋上へと出た。

 そこで何をするかと思えば、銀髪の男はナイフをポケットから取り出し、自分の手を突き刺した。

 そして男は隣の不死者に続けざまに男の血がついたナイフを突き刺した。

 そのナイフを抜いた後、不死者の傷口からは少し赤い煙が上がり、すぐに消えてその場で倒れてしまった。

「何をしてやがる。」

 銀髪の男に銃を向けて言葉を強く放ちながら、近づいていく。

「何をしてると言われましても、この人を救ってあげたんですよ。」

「何を抜かしてやがる!そいつは不死者だぞ!?お前のその安っぽいナイフを刺した程度で何が救うだよ!そんなのお前の自己満足じゃねえかよ!」

「でもこの人は死にたいっていっていたんですよ?」

「だかそいつは不死者だから死なねぇだろ。」

「死んでますよ、この人。不死の人って傷口から赤い煙が上がるんですよね?確か血液が蒸発して。」

 男の言った通り、不死者は高い回復力を持つため、常人の約五倍血液の温度が高い。

 このことは生物の教科書に載っているほどの常識だった。

 男は何をするかと思えば、倒れている不死者の腕にナイフで傷をつけた。

「ほら見てください。赤い煙、上がりませんし、治りもしませんよ。だからこの人は今不死者ではないし、このまま死にます。」

 気づけば俺は銃の引き金を引いていた。下は少し騒がしくなっている。俺が冷静さを欠いたためだ。だが、

「だが!ここまで腹の立つ野郎は生まれて初めてだ!」

 放たれた弾丸は男には命中していなかった。

「急に発砲しないでください。ナイフでは弾丸を弾くのが精一杯でしたよ。」

「精神だけじゃなくて運動神経まで人間離れしてるな。」

「褒められているのか貶されているのかは分かりませんが、ありがとうございますと言っておきますね。ところで、そのスーツの襟についてるシンボル、あなたU.S.Iの人ですか?」

「それを聞いて何になる?」

「いえ、今のあなたには何を言っても通じないと思ったので、やはりやめておきます。あ、申し遅れました。僕の名前は双波零。たぶん今後何度もお会いするかもしれませんので、お見知りおきを。」

 随分と丁寧に挨拶するため、思わず銃を下ろそうとしてしまう。

 だが、こいつは人を殺した。その事実は揺るがない。俺は銃を再び強く握る。

「お前の殺人の動機はなんだ?」

「救済です。先程も話しましたよね?」

 2発目の弾丸を放つ。これも奴は弾く。

「本当のことを言えっていう意味も込めたんだけどな?」

「その意図は察せましたし、僕は本当の事しか言っていませんよ。嘘つきは泥棒の始まりってね。」

「お前の場合は泥棒よりも先に殺人者になってるがな。」

「人を殺したことに対して強い執念を感じますが、過去に何かおありで?それともただの正義感でしょうか?」

「お前に話す義理はねぇよ。」

 脳裏によぎる切り刻まれた過去。命をまるでゴミのように扱うあの男。思い出すだけで腹が立った。

「まあいいです。今日はこのくらいにして退散しようと思います。」

「何言ってるんだ?お前は俺が捕まえる。さっさと投降しろ。」

「いえ、まだ刑務所に送られるわけには行きませんので、すこし強引に行きますね。久々に人と面と向かって話せて、楽しかったです。」

 瞬く間に男は俺の懐にはいり、目に見えない速度で鳩尾を殴った。

 ミシミシと音を立てたのは俺の肋骨。

 ブチブチと音を立てたのは俺の内蔵。

 俺は吹き飛ばされて、屋上の外へ投げ出され、そのまま落ちていく。男はそれを追いかけるように、飛び降りてきた。

 少しして地面に打ち付けられ、全身の骨が折れるような感覚を味わっている間に、俺の意識はブツリと途切れてしまった。

 後ほど駆けつけた警察いわく、俺の頭は肉塊になり、靴跡が残っていたそうだ。

 おそらく男は俺の頭部を踏みつぶしたのだろう。

 とんだクソ野郎だ。


 目を覚まして最初に見ていたのは、オフィスの天井だった。

 ソファの上に寝ていた俺は体をゆっくりと起こす。まだ頭が痛い。

 物理的には完治しているため精神的なところから来ているのだろう。

「あ、お目覚めですか?」

「…おう。」

「二、三日程飲まず食わずの状態でしたし。正確には、頭が潰れていたから飲めず食えずなんですけどね。あ、今食事持ってきますね。」

「そこまでしてもらわなくても、一人で行けるって、痛…。」

「ああ、まだ動かないでください。体の内部がまだ完治していないかもしれません。もう暫く、休んでいてください。」

 彼女は部屋を出ていった。

 あの時、いきなり襲われて反応出来なかった。

 あの動きは、明らかに不死の人間にしか成せない業だ。

 だが、不死の人間は不死の人間を殺せるのか?そんな話聞いたことない。

 それに結局あの双波零とかいう野郎の殺人の動機も分からない。

 奴の謎は深まるばかりだった。

「考え事ですか?」

 しばらくして食事をトレーにのせて彼女が帰ってきた。

「シンプルにレトルトのカレーを持ってきました。取り敢えず食べましょう?そうしないとろくに考えることもできませんよ。」

「…それもそうだな。」

「あ、できるなら現場で何があったのか、話しながら食べてもらってもいいですか?」

 俺は頷きながら、これまでの経緯を話した。不死の人間が死んだこと。俺が殺されたこと。そして、双波零のことを。

「不死の人が、死んだ?」

「まだ確信が持てるわけじゃない。本当にあの被害者が不死身かどうかをもう一度調べる必要がある。まあ不死であろうとなかろうと、あいつは人を殺したんだ。絶対にとっ捕まえてやる。」

「暑苦しいですねー。それしか取り柄がないんですか?」

「人が真剣な話をしてるってのになかなか空気を読まないな真城は。」

「ちゃんと真剣ですよ私は。」

「また半分冗談なんじゃないか?」

「いえいえ、半分本気ですよ。」

「同じだろうが。」

「そんなことより、その不死の人を殺した双波零って人が気になりますね。」

「奴は、人間ではないと思う。人間の体を借りた化物みたいなもんだ。俺はあいつを捕まえなくちゃならない。」

「珍しいですね、そんな事を言う貴方は。なにか悪いものでも食べました?」

「さっきから俺を頭おかしい奴みたいに扱うのやめてくれない!?」

「だって普段とは全然人格が違うんですもの。普段のあなたはどこか無気力で、いつも手を抜いてリラックスしているような人だったのに。もしかして、イライラしてます?」

「イライラしてないわけが無い。」

「じゃあ、まずは落ち着いたらどうですか?私しばらくあなたが食事を食べ終えるまで黙っていますから。」

 そういうと彼女は再び部屋を出ていった。彼女の言う通り、さっきから俺はどこかおかしい。

 奴のことを考えると、妙にムシャクシャするのは何故だろう。自分でもその原因は分からなかった。

 どこかで会った事があるのか?いや、今はまずさっさと食事を済ませてしまおう。考えるのはそのあとだ。


 あれから2日後、殺された不死の人についてを調べることにした。

 被害者の名前は名塚修、34歳。

 長岡駅周辺にあるそこそこ大きな会社に努めていた。

 俺はその会社へと足を運び、彼について色々な人に訪ねた。

「名塚さん?ああ、あの人はね凄く仕事ができたわけではないし、ダメダメだっていうわけでもない、いたって普通の社会人でしたよ。」

「じゃあ、名塚さんが何かに苦しめられてたり、なにかについて悩んでいたりしていませんでしたか?」

「いや、そんな素振りは全然見せていませんでしたよ。」

 他の人にも同じように訪ねてみたものの、帰ってくる言葉はどれも似たようなものばかりだ。

 だが、彼らの表情は、どこかぎこちないような気がした。

 彼は社員から嫌がらせか何かを受けていたのだろうか。

 この仮定が正しければ、彼が死にたいと言う可能性はあった。

 俺は彼の近況以外に彼の不死についても聞いて回った。

 すると、先程よりも明らかに社員全員の表情が訝しくなっていた。

 なるほど、社員は彼の不死に対して嫌悪を抱いていたようだ。

 俺は社長にもこのことについて聞いてみた。実はこの社長こそが、名塚の不死について知っている人物だった。

「名塚さんはなにかパワハラのような一種のいじめにあったりなんてことは、ありましたか?」

「名塚くんに対してパワハラなんてしていませんし、そのようないじめなど起きていませんよ。もしそんなことをされていれば私は彼のことを擁護しますよ。うちの大事な社員ですからね。」

「名塚さんの不死については知っていたんですか?」

「はい。ある日、休憩室で私と彼、二人きりになったことがあったのですよ。その時名塚くんは雑誌を読んでいました。そしたら彼はその雑誌のページで指を切ってしまったようで。その傷口からは不死者特有の赤い煙があがっていたんです。私は見て見ぬ振りをしました。彼も今の生活を奪われて、北海道での隔離生活なんて送りたくないでしょうしね。」

「寛大なのはよろしいことですが、危ないことじゃないですか?」

「なので、このことはどうかご内密に。」

 彼は口角をあげながら人差指をたてる。その後少し雑談をしたあと、俺は会社を後にする。

 今回の調査で分かった事は、この会社は全員なにかを隠そうとしている。

 まず社員は全員話すときに目を合わせようとせず、手を顔の横に添えたり鼻を触ったりしていた。これらは全て嘘をつく人特有の仕草なのだ。

 最後の社長にいたっては笑い方が不自然だった。彼を擁護するなんてよく言えたものだ。

 俺は名塚の家にそのなにかを暴く証拠が見つかると思い、すぐさま彼の家へと向かった。


 名塚修は、長岡駅から二つほど離れた駅から徒歩10分ほどの所にあるマンションの家に住んでいた。

 彼の家の扉のポストには一週間分ほどの新聞が無理やり詰められていた。

 無理言って彼の家の鍵を大家に開けてもらい部屋の中へと入る。

 少し埃っぽくてかび臭い、六畳半のワンルームだった。

 大きな袋に雑にまとめられたゴミや、部屋に散乱している衣類から生活習慣の悪さを物語っている。

 部屋の中央には1台のノートパソコンが置いてあった。それをすぐに開き、中を拝見する。

 幸いにもパスワードは設定されておらずあっさりと閲覧できた。

 ホーム画面は、ウィンドウズでよく見る草原の壁紙に、ファイルが二つ配置されているだけ。

 それぞれタイトルは『仕事』、『日記』。日記を付けるなんて、なかなかマメな男だったのだろうか。

 俺は真っ先に『日記』のファイルをダブルクリックする。


 4/25

 とりあえず入社できた。そこそこいい会社のようで、無難に人生を終わらせられそうだ。

 4/26

 今日は特にミスもなく、何もなく平和だった。こうやって人生が終わっていくのだろうか。


 このようなことがずらりと書いてあり、とりあえず流し読みをしている

 と気になる内容が書かれていた。


 10/11

 大手通りのビルから飛び下り自殺をした人が居た。その遺体からは赤い煙が上がっていた。どうやら不死の人間のようだ。本当に存在することに驚いた。

 10/12

 最近体温が上がったような気がする。体も心なしか軽く感じる。どうしたのだろうか。何か変なものでも食べたかな?

 10/13

 今日はきゅうけいちうに週間しを見ているときなにおそろいことにきずいた、まさじぶんがふしのひとになるなんて。


 この部分はどこか文字がおかしかった。きっと自身の不死の体に動揺を隠せなかったのだろう。

 自分が突然不死の体になったのだから当然のことかもしれない。

 またしばらく読んでいるとさらに気になる内容が書かれていた。


 2/15

 最近、会社の同僚からの扱いがどんどん雑になっている気がする。雑用ばかり押し付け、わざとぶつかったり、物を隠したり、小学生のような事ばかりだ。でも、どうして急に?


 なるほど、彼へのいたずらは2月あたりから始まっていたらしい。彼の言う通りなんて幼稚な行為だろう。

 だが、これぐらいのことで死にたいなんて発想には至らないはず。それとも彼の精神が弱かった?まだ不明な点は多い。再び読み進めていくと、今回の一連の原因のわかる記述がそこにはあった。


 4/21

 突然社長に呼び出された。そして彼は明日、駅前のタリーズで会ってほしい人がいると言われた。その人からの質問にははい、とだけ答えるようにとも。俺が一体何をしたというのだろう。会って欲しい人とは、一体誰だろう。


 日記はここで途切れていた。つまり彼はこの次の日に彼は殺されたということだ。

 無論彼が殺されたのは4/22、間違いはなかった。

 だが、双波零に繋がるようなことはここには書かれていないようだった。

 この『日記』以外にも名塚についての物品は見つからないかと思って俺は部屋の中を散策することにした。

 トイレや置かれてるテレビの裏、押入れなどなど、いろいろ探してみたが、

「ん?」

 それは灯台もと暗し、というやつだった。

 パソコンの下に一つの開封済み封筒が見つかる。

 名塚宛としか書いておらず、相手の住所はなし。封筒の中には、

『こちらのURLからアクセスしてください。』

 という一文と、URLのみ書かれている紙が一枚のみ入っていた。

 俺は自分のスマホを使いURLを入力する。開かれたサイトには度肝を抜かれた。『死ねないあなたのために』というタイトルのサイトにつながったのだ。

 URLには.jpと入っていなかった事から、どうやら海外のサイトのようだが、不死の人のために開かれたサイトであることはなんとなく推測できた。

 スクロールしてみると、名塚修、完了とだけ書かれていた。

 そしていきなりサイトは閉じてしまった。

 驚いた俺は何度か同じようにURLを入力してみたものの、同じようなことしか起きなかった。

 他の人に閲覧されるとまずいということだろうか。

 だか、サイトの名前だけは分かったし、このサイトを立ち上げたやつが、おそらく双波零だろう。

 このサイトを使えば奴に会うことができるかもしれない、ということだ。

 好都合。

 そう確信した俺はこの時奴のことにしか頭になく、とても重大な人物を見逃していたのだが、それに気付くのは少し後の話。

 その後はというと、俺は急いでU.S.I支部へと戻り真城に一通りのことを話した。

 彼女は

「なるほど。で、そのパソコンは?まさか持ってきてないとか間抜けで腑抜けな漫画に出てくるドジな女府警のようなミスを犯してはいませんよね?」

 この後めちゃくちゃ叱られてから、また急いで名塚の家へと戻ることになった俺。

 言わなくてもわかるだろうが、これが重大な、だけど小さなミスだった。


 現在、01:25。深夜に行かされたのは勿論彼女からの罰。

 深夜の駅前は街灯がぽつりぽつりと付いていて、昼間とは違う景色が少し不気味だった。

 俺は駅の入口まで歩いてからやっと気付く。

「あ、そもそもこんな時間に走る電車なんてないじゃん。」

 まあ、二駅ぐらいなら歩いていけるだろう。

 帰りは他の人を呼び出して車に乗ろうか。

 歩きはじめて1時間と半分、名塚の家に到着した。

 彼の家はまだ鍵があいていたので、大家さんに叱られる前にパソコンの回収に当たる。

 と言ってもワンルームだから、入ってすぐの所にパソコンはあるから数秒で終わる作業、のはずだった。失礼します。

 そういって小走りで中に入ろうとして、玄関の段差に足を引っ掛ける。

 決してドジを踏んだわけではなく、部屋が真っ暗で気付けなかっただけだ。…だれに向かって弁明しているんだ俺は。

 その転んだ拍子に入口の右の壁がががこんと外れて、俺の方に倒れて下敷きになる。

 壁を持ち上げて立てかけた後を見ると、壁が取れた場所には空洞があった。

 中をスマホのライトで照らしながら覗くと、裸で手足を縛られた銀髪の女が、そこにはいたのだった。

 容姿から20代前半といったころか。

 俺はひとまず警察に連絡して、やってきた警官に状況を説明した。俺は彼らが保護するものかと思っていたが、彼らいわく、「彼女は失踪していた不死者の1人」だそうで、仕方なくU.S.I支部まで連れていくことにした。

「それで、あなたはそういう口実を作って彼女をここにつれてきた、と。双波と同じくらい悪趣味ですね。」

「断じて違う!てかまず首を締めないで!痛い痛い痛い!聞けって!」

「体位体位?ああ、もう少し腕を上げろってことですか。じゃあ遠慮なく。」

「あっ!まって!首が!!落ちる落ちるっ…っはぁ、ハァ…ケホッ…」

 彼女からスリーパーホールドを決められ、危うく落ちかけて咳き込む。

「まあ、童貞であるあなたがそんなことをする度胸があるとはどうてい、いやとうてい思っていませんけどね。」

「童貞は関係ないだろ!ていうかわざとらしく言い間違えるな!」

「いま深夜の3時ですよ?元気ですね。」

「さっきの首絞めとお前の悪口に元気をほとんど奪われたよ。」

 そんな俺の発言になにも反応することなく真城はソファで寝ている彼女を見ながら言う。

 ちなみに彼女には真城の普段着を着せている。

「でも、この子どうするんですか?今全然意識ないですよ、幸い脈はありますし、息もしてますけど。」

「どうするも何も、このまま意識が戻らなければ病院に連れていくしかないだろ。植物人間のようになってるかもしれないしな。」

「でも、警官の方々が言うには彼女、不死者なんでしょう?だったら壊れた脳だって元に戻る筈では?」

「それもそうか。じゃあ彼女は不死者じゃないとか?」

 彼女には申し訳ないが、俺は爪楊枝で彼女の腕を少しだけさした。刺した後からは赤い煙が上がり、塞がった。

「やっぱり不死者なのか…。ん?」

 今の刺激で、彼女が目を覚ました。

「おい、大丈夫か?」

「…お兄ちゃんは?」

「お兄ちゃん?そのお兄ちゃんってのは?」

「…名前は他人に言うなって言われてる。」

「そうか。…気のせいならいいんだが、そのお兄ちゃんの髪の色って、あんたみたいな色してるか?」

「…そういうことも言うなって。」

「とことん秘密主義か。まあいい。今は意識が回復したことを喜ぶべきか。」

 彼女は辺りを見回す。

「ここはどこ?」

「ここか?ここはU.S.I新潟支部だが?」

「U.S.I?……ハァ…ハァ…」

 突然彼女の体がガタガタと震えだした。まるで何かに怯えるように。

「おい、あんた、大丈夫か?」

「やめて!!お父さんを殺したのは貴方たちなんでしょ!!」

「は?お父さん?」

「お父さんは私が小さい頃にU.S.Iに殺されたのよ!目の前で!銃で撃たれて!」

「そんなことが…」

「だから貴方たちがこわい!怖くてしょうがない!」

 彼女の態度は豹変していた。

 U.S.Iは確かに保護をするためには手段を厭わない。

 だが、民間人を攻撃するときは麻酔銃を使用する筈なのに、どういうことだ?

「待て待て、まず落ち着いてくれ。俺達はそんなことをしていない。それにそのお父さんは不死者じゃないのか?不死者の子供は不死者である筈だぞ。」

「不死者だったわよ!なのに死んだ!どうして!?答えてよ!なんでお父さんは、殺されなくちゃいけなかったの。なんで…死ななくちゃいけなかったのよ…」

 まだ寝起きで、叫び疲れたのか、彼女はその場で泣き崩れてしまった。

 俺達はしばらく彼女の嗚咽を聞いていることしか、できなかった。幼くしてU.S.Iに父親を殺されたらしい、彼女。

 この女がこれから起こる大きな出来事の鍵となるのだが、それはまた後ほどお話するとしよう。


「落ち着いてきたか?」

「…はい。いきなりごめんなさい。本当に貴方達がお父さんを殺したわけではなかったのですね…ごめんなさい。いきなり怒鳴ったりして。」

 彼女が申し訳なさそうに顔を伏せると、真城がお茶をテーブルに置きながら語りかける。

「大丈夫ですよ。気にしないでください。これぐらい怒鳴られるのなんて、なれてますから。それに、女の人に罵られるの、この人好きなんですよ。」

「そんな性癖もってないし持ちたくもないぞ。」

「じゃんじゃん罵ってあげてください」

「無視か?最近俺の扱い方どんどん雑になってきてないか?なあ。」

 お茶を一口すすりながら彼女にいちゃもんを付ける。

「そういえば、貴方、お名前は?」

「私、ですか。私は、えと、双海要と、言います。」

「要さんですか。私は真城笑美です。よろしくお願いします。それで要さん、あなたはお兄さんを探していたんですか?」

「いえ、逆です。お兄ちゃんが、私を探しています。だから、私が見つけてあげないと。」

「へえ、妹さんが兄貴を引っ張ってくタイプの兄妹か。珍しいことじゃないな。」

「お兄ちゃんがダメってわけではないんです。むしろ悪いのは私です。私があの時、あんな人についていかなければ。」

「その事を、詳しく聞かせてもらえませんか?」

 真城と俺はメモ帳をひらき、彼女の話を聞く。

「今って、何月何日ですか?」

「4/26だが?」

「じゃあ、一年近く前ですね。私は普段通り仕事から帰っているときでした。男の人に声をかけられたんです。いわゆるナンパ、というやつでした。私は押しに弱いみたいで、彼について行ってしまったんです。お酒もあまり強くない私は、思いっきり酔ってしまったようで、曖昧な記憶ながら、強姦されたことは、不幸にも覚えていました。あと、彼に拘束され、暴力を加えられたことも。」

「その人の名前、分かりますか?」

「…確か、名塚、修?」

 青天の霹靂というやつか、俺は思わずペンをメモを記していた手が止まってしまった。

 名塚修が、そんなことをしていたのか?

「真城、メモは俺が全部記すから、名塚のパソコンの中身、探ってみてくれないか?」

「本来ならあなたがやるべきなのでは?」

「俺にはラクラクスマートフォンを使うのがやっとだよ。PC関連のものはさっぱりだ。」

「普通の泥を使っているくせに。まあいいでしょう。」

 彼女は名塚のパソコンを開いてキーボードを打ち始める。

「すまんな。続けてくれ。」

「えと、その前に、名塚修って人を、ご存知だったのですか?」

「ああ、最近殺された人だ。あんたの親父さんと同じように、不死者だったのにな。」

「私のお父さんと同じように、ですか。」

「ああ。気の毒だがな。続けてくれ。」

 まあこれから彼女が話す内容によっては気の毒からざまあみろに変わるのかもしれないのだけれど。

「はい。私が目を覚ましたとき、暗い場所にいました。周りが全く見えなくて、手足は拘束されたままで、さらには全裸で、動けませんでした。外からは車の走る音が僅かながら聞こえてきました。そして辺りが静かになった頃、鍵を開ける音がしたのです。部屋奥でガシャンと音がなったあと、私の目の前の壁が外れて、名塚修が入ってきたのです。そこからは正直、思い出したくもありません。彼は私のことを強姦したんです。気持ちが悪くて、何度も吐きました。妊娠しなかったのが本当に幸いです。彼は満足したのか、動けなくなった私を放置して、部屋の奥に歩入っていったんです。すこしして、彼は包丁を手に握り締め、私を突き刺し始めたんです。何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も…」

「おいあんた、大丈夫か?顔色が」

「い、いえ、気にしないでください。」

 彼女はテーブルのお茶を一口飲んで、深呼吸して続けた。

「その後はというものの、同じことの繰り返しでした。犯されては殺され、犯されては殺されの繰り返し。頭がどうにかなりそうでした。」

「それって、どういう風に?」

「それはもちろん、不快で。不快というよりも嫌悪とか、畏怖とか、もうそれ以上に悪い事を表す言葉とか探したいくらいです。」

 彼女は首の横をすこし掻きながら話した。

「そうなんですか。聞いた俺が言うのもあれですが、申し訳ありません。」

「本当に。失礼ですよ。」

「デリカシーの無さを痛感しました。本当に。それで、その後のことは覚えていますか?」

「そうですね、たぶん、半年以上たった頃ではないでしょうか、彼が家に帰ってこなくなりました。多分その日に名塚修は殺されたんでしょうね。不死者なのに。そして居なくなってから私はしばらく眠ることにしました。なにせ、しばらく飲まず食わずでしたから。しばらくと言っても一年近くなんですが。その時に限って不死の体が憎いと思いましたよ。空腹で死にそうでした。そして、目を覚ましたとき」

「ここにいた、ということか。」

「はい。久々の光で眩しくて、意識も朦朧としていました。だから、私あんなに大声を出して、」

「もう気にしないでくださいよ。俺だって気にしてませんから。」

「本当にごめんなさい。あ、後ひとつ思い出しました。」

「なんですか?」

「名塚修って、本名じゃないみたいです。」

「その本名、思い出せますか?」

「いえ、彼はただ私を刺す時に、偽名を使ってんのになんでこんなことに、って言ってました。」

 彼女の発言を記録していると、真城が戻ってきて、俺のことを手招きして呼んだ。

「ちょっと失礼。」

 席を立ち、真城の方にむかう。真城は声を潜めながら話す。

「どうやら、名塚修というのは偽名のようです。『仕事』と書かれたファイルの中のプレゼン用の資料ですかね、製作者の名前が名塚修ではなく、尾長宏と書かれていました。尾長宏について調べたところ、尾長は大量殺人によって指名手配されていた男のようで、顔写真が名塚修のものと一致しました。」

「化けの皮が剥がれたみたいだな。あいつは、殺されても良かったのかもしれねえな。」

「そんなことを言わないでください。不謹慎な。本当はきちんと捕らえて、法の下で裁かれるべきなんですよ。」

「んなもん分かってるよ。だが、どうやら奴は自身の間抜けなミスによって正体を晒しちまったようだな。」

「どうやらそのようですね。馬鹿言う馬鹿は己のバカを知らぬ馬鹿って、便利な言葉ですよね。」

「毒づくのはやめてくれよ。」

「なんのことですか?私はただこの日本語が素晴らしいと思っただけですよ。」

「よく言うぜ。さて、一旦彼女のところに戻ろうか。」

 そう言って俺達は要がいた場所へ戻ると、そこに彼女はいなかった。いない代わりに、

「おいおい、嘘だろ?」

 窓は大きく開かれていて、吹き抜ける風がカーテンを揺らしていた。


 さて、どこから探したものか、長岡は小さな街ではあるが、それなりに広い。

 ここら一帯を探すとなるとかなり時間がかかる。

 要が飛び降りたあとには赤い煙が少し上がっていた。

 U.S.I支部内で俺たちが使っているオフィスは5階にある。

 そんな高さから飛び降りて、死なないことはまずないだろう。

 それに、死ななかったとしても折れた骨や潰れた内蔵の痛みは尋常ではない筈なのに、そこからすぐに動いたのか?だとすると、彼女の回復力が通常の不死者よりも高いということなのか?クソッ、分からないことばかりで嫌気がさしてくる。

「そっちはどうだ?」

 探し始めてから小一時間。真城に電話を繋げながら捜索を続ける。

『ダメです。全然見つかりません…』

「まいったなー…。ん?」

『なにか見つけましたか?』

「一旦携帯切るわ。」

『え、ちょ』

 ブツッ

「まさかお前の方から顔を出すとはな。なあ、双波零。」

「先日から何か探られている様子だったので何が目的なのか聞こうと思いまして。それと、職場から帰る最中だったので。」

 彼は黒いスーツを身にまとっていた。

「へえ、殺人鬼がまさか普通に働いているとはな。そんな格好して人を殺す職業をやってるのか?」

「ハハッ、そんなんじゃありませんよ。ただの公務員ですよ。アオーレ市役所で事務をしているだけです。」

「冗談も甚だしいな。」

「冗談もなにも、本当の事ですよ。ほら、職員証。」

 彼が首に下げていたものを見せる。たしかに職員証だった。

「いいのか?そんな情報バラして。俺が警察にお前が人を殺したという情報を流せば、一発で捕まるだろうし、今の職場を失うことにもなるだろう?」

「それはないですね。記録では、僕は北海道にいることになっていますし、それに僕は今『双海陸』と言う人になりすまして生きていますからね。」

「ん?北海道に?てことはお前、」

「はい。そちらの業界でいう、脱北者、というやつです。」

 脱北者。希に見る、北海道の隔離施設から抜け出して本州に身を潜めながら暮らしている人たちのことを指す。

 だが、そんな情報を開示して何を考えているんだ?

「脱北者ってことは、俺がU.S.Iとして通報すれば、」

「いえ、ぼくが北海道に戻されることはありません。申し訳ありません。今の僕は『双海陸』ですので。」

「こんなに近い距離にいるのに、何も出来ないってことか。クソったれ。」

「今はまだ捕まるわけにも、殺されるわけにも行きませんので。僕にはやらなくちゃいけないことがある。」

「はっ、死にたがりの不死者を殺すことか?笑わせんな。」

「僕は本気で言っている。」

 彼の突き刺すような紅い瞳に、思わず一歩、下がってしまった。

「本当に死にたいと言っている人はいるんです。だから僕はやらなくてはいけない。殺してあげないといけないんです。」

「死にたい奴を殺していい法律なんて存在するのかよ。」

「法律の有無の話をしているわけではないんですよ。」

 彼から発せられる殺気のような何かが俺に襲いかかる。だが、ここで引いた所で、次にこいつに会えるかどうかは分からない。絶対に逃がしはしない。そう思った時だった。

「双海くーん!」

 遠くから女の声が聞こえてくる。

「あ、塩原さん。それでは、ここで失礼します。おっと、こんなところで暴力に訴えて、どうにかなるとお思いですか?こんな街中で騒ぎを起こしたいんですか?」

 彼はそう告げて、後ろの女の方へと向かっていく。また逃がしてしまった。まさか、二度も同じ事をしでかしてしまうなんて。

 一生の不覚なんていう比ではない失敗だった。

 悔しさのあまりその場に立ちすくんでいると、俺の持っていたスマホが振動する。真城からの電話だった。

『あ、繋がった。今どこにいるんですか?おーい?聞いてます?』

「…あぁ、聞いてる聞いてる。」

『もう、ぼーっとしないでください。彼女を探さなくちゃいけないのは当然ですが、名塚修についてまだ分かっていないこと、あるんですから。』

「分かってるよ。分かってる。」

『だったらいますぐ、U.S.I支部まで戻ってきてください。一旦彼女の捜索は諦めることにします。』

「え、いいのかそれで。」

『現在の時刻、20:00になりますよ。暗い中の捜索なんて、よく言う砂漠の中の砂金を探す、みたいな物ですから。』

「…それもそうだな。」

『さっきからどうしたんですか。いつもの暑苦しさが足りないですよ。シャキッとしてください。』

「…双波零を、逃した。」

『どこにいたんですか!?』

「アオーレの前だ。」

『あの時電話を切ったのは双波零が目の前にいたからですか?』

「携帯をかける挙動や仕草をみせたら、やつに逃げられちまうだろ。」

『それはそうですけど…。じゃあ次会った時は連絡してください。速攻で追跡に向かいますので。』

「了解。」

「それと、双波零を捕まえたいと思っているのは貴方だけではないんですからね。」


 そして、支部に戻ってからというもの、名塚修と双波零との繋がりが分かるような証拠は何も見つからなかった。

「どうします?パソコンの方も調べては見たんですが、尾長宏という本名以外、情報は得られませんでしたよ。」

「じゃあ、後探せばいいところはどこだ?」

「そうですね。例えばあなたのスーツのポケットに入ってる封筒はどうですか?」

「あれ、いつの間に…まさかあの時か?」

 双波零がさりげなく仕込んでいたのだろうか。何にせよ、ポケットから封筒をのぞかせている状態で街中を走って戻ってきていたことを俺は少しばかり恥じた。

「早速開けてみるか。」

 封筒の中には紙が1枚入っていた。紙にはこう書かれていた。

 社長をもう一度訊ねろ。


「これはこれは。まだ名塚くんについて聞きたいことがお有りで?私としてはもう大体のことは話したつもりなのですが。」

「すみません。ほんの些細なことを、お伺いしたくて。」

 社長室のソファに腰をかけながら話を続ける。

「まず、改めていう必要もないことだとは分かっておりますが、これから話すことはどうか口外厳禁で、お願いします。そして、正直にお答えください。録音などは一切しておりませんので。」

「わかりました。でも、私も忙しいので、本当に手短にお願いしますよ。」

「はい。では質問です。名塚修は偽名だということはご存知でしたか?」

「はい。尾長宏、ですよね。本名で不死者が仕事を行えるはずありませんから。」

「では、彼が偽名を使っていることは、いつから気づいていましたか?」

「彼が入社した時からですよ。一年も前のことですからね。でも、彼は不死者でしたから仕方ない、という言い方は変ですかね。とにかく、彼を雇いました。」

「では、彼の不死はいつからお気づきでしたか?」

「それは以前お話しましたよね?」

「はい。だからこそ、ですよ。」

「10/13ですよ。」

 やはりな。

「では、あなたはなぜ不死者になる前の彼を雇ったのですか?」

「…誘導されましたね。私。」

「彼を雇ったのは、彼が不死者だからでも、彼を匿うためでもないですよね?」

「…」

 彼は黙ったあと、口を開く。

「彼が、殺人鬼として、私を脅してきたんです。ただ俺を雇えと。雇わないと殺す、とまで言ってきたんです。だから、私は仕方なく、雇いました。突然の脅迫でしたから、私は冷静に対応することができませんでした。冷静に対応できていれば、今頃こんなことには。」

「では、最後の質問です。あなたは双波零を、知っていますか?」

 社長は急に立ち上がりながら

「どうして、その名を…」

「そういう時はとぼけるのが定石なんじゃないんですかね?彼からこの情報を頂きました。あなたは双波零に名塚修を殺させたんですよね?」

「ここで否定したところで、なんの意味もないのでしょうね。」

「では、肯定したとして話を進めます。あなたはどうして名塚修を殺させたのですか?」

「…これからお話することは、世間に公表されるのですか?」

「いいえ、残念ながら。これは私個人がU.S.Iとしてあなたに訪ねているだけですので。」

「分かりました…ではお話します。私は先ほど、彼に殺人鬼として脅迫されて雇ったといいましたが、それは表向きの話です。我が社では、数年ほど前からいくつかの不正行為を重ねてきました。そのことは、名塚修にはバレていたようで、それを盾に私を脅してきたのです。それで私は彼を仕方なく雇いました。雇わされた、と言った方がいいでしょうか。だが、彼を雇ってから私は彼に怯えていました。情けないことですがね。それで私は彼を雇ってから半年で、彼を誰にも気づかれる事無く殺す方法を考えていたのです。そしたら、あの10月、彼が不死者であることが分かりました。だから私はどうすればいいのか、分からなかったんです。彼の弱みを握るためにも色々調べて、彼が名塚修ではなく尾長宏という凶悪な犯罪者だということが分かったのですが、彼は私が調べていたことに気付いていました。私が通報しようとした時に、さらに圧力をかけて脅してきたのです。私はとっていた受話器をおろしました。情けないですよね。なんてずるい奴なのだろう、もうどう仕様もないのか、そう思いました。だけど、見つけたのです。彼を殺してくれるかもしれない男を。それが、双波零でした。彼との出会いはひとつのサイトでした。」

「『死ねないあなたのために』ですか?」

「そんなことも知ってたのですね。私はそのサイトで、書き込みました。どうしても殺して欲しい人がいると。彼は答えました。『僕は死にたいと思っている不死者しか殺しません。』と。そこをなんとかと、引かずに押してみたものの、彼は似たような返事を返してきました。やはりダメなのか、そう思いました。だから私は、名塚修になりきり、彼に死にたいとだけ告げたのです。すると、彼は日時と場所を指定するよう、話してきたのです。だから私は、4/22の昼間、○○ビル、長岡駅前のタリーズに、とだけ書きました。その後名塚修に同じようにメールを送りました。その後は、あなたもご存知かとおもいます。」

「聴けば聴くほど、反吐の出るお話ですね。」

「どうとでも言ってください。私にはそうすることしか出来なかったのですから。」

 彼は今にも死にそうな枯れた笑い声で笑う。

 これで俺は名塚修が殺された理由がわかった。だが、ひとつ疑問が残る。

「では、どうして名塚修は双波零にあっさりとついて行ったのですか?あと、社長を脅していたやつが、どうしてあっさりと命令に従ったのでしょうか。確かメールの内容では、彼にははい、とだけ返事させるようにしていたんですよね?」

「そのことなのですが、私が」

 それは一瞬の出来事だった。窓ガラスが割れ、ナイフを持った双波零が入り、社長の頭を貫いた。

「あ…」

 本当に一瞬だった。俺は反応することが出来なかった。

「なるほど。彼が思いつめたような顔をせず、どこかふざけたように返事をしていた理由が、今分かりましたよ。そう言う事だったんですね。」

「…双波零。」

「あなたに情報を与えたのは、僕です。私はあなたが名塚修について調べてるのを知って、利用しようとしたんです。僕は彼に会ったとき、彼の態度の意味が分からなかった。あの時僕は名塚にひとつだけ聞きました。『死にたいですか?』と。彼はにやけながらはい、と答えました。はじめはそんなに気になりませんでした。でも、ビルに入ってから、もう一つ聞きました。『本当に死にたいですか?』

 と。彼はやはり、にやけながらはいと答えました。だから僕は彼が死にたかったのに死ねないから、僕に頼んだのだと、思ったんです。でも違った。事情はあなたにつけた盗聴器で全て聞いていました。」

 いつの間にそんなことをしていたんだ。こいつは多分情報を与える代わりに俺を追跡できるようにしていたのだろう。本人の同意なしの取引のようなものなのだろう。

「彼はきっと、僕を暗殺者だと勘違いをし、僕に殺させてから蘇り、僕を驚かせようとしたのでしょう。だか、生憎僕は不死者を殺せる。だから僕は彼を殺してしまった。僕はあなたを利用する前にこの人に利用されていた、ということだったんですね。滑稽です。」

「確かに。お前は馬鹿だよ。クソがつくほどのな。」

「僕は死にたいと思っている人だけを殺してきました。だけど、この人のせいで僕は死にたいと思っていない人を殺してしまった。」

「だからこいつを殺したってのか。笑わせんな!」

 彼の正面に迫り顔面を殴りとばす。

 ガシャンと音を立てて、彼は社長室のデスクに叩きつけられる。

「お前はただ逆上してこいつを殺しただけだ。お前は絶対に捕まえる。U.S.Iとして。そしてお前を正す人間として!」

 倒れた彼に追い討ちをかけるように拳を振り下ろす。

「この台詞、三回目ですよ。僕にはやらなくてはならないことがある。」

 ガシッ。彼は俺の右腕を止めて腹を蹴る。

「ウグァッ」

 蹴った足を左手で止める。そこから彼は口から針を吹き出す。飛び出た針は目に刺さり、俺の力が少し抜けたところにもう一度蹴りを入れる。

「ガハッ、」

 天井に叩きつけられるほどの威力。浮いた体が地面に叩きつけられ、少し動けなかった。立ち上がろうとしたとき、彼は銃を俺の頭に向けていた。

「なんだ、モデルガンか?」

「いいえ?本物ですよ。あなたを殺して得たものです。」

 ハッとして、自分の内ポケットの銃のホルダーを確認すると、確かに銃は無かった。

「終わりです。」

 彼が引き金を引こうとした時、俺は瞬時に銃口に自分の親指を押し付ける。彼が引き金を引いた時、弾は発射されず、暴発した。彼の手の指が何本か失われていた。勿論俺の親指も。俺たちは互いに一歩ずつ退いた。

「ひどいな。こんなことになるなんて。日本の銃はもう少し改良されるべきですよ。」

「銃なんか持ったこともないくせに何をいいやがる。」

「ははっ。」

 すると彼はいきなり自分の右胸をドンと叩いた。

「何をした。」

「血液を自分で巡らせました。僕の心臓は止まっているので、時々自分で押してあげないといけないんです。」

「心臓が止まっている?」

「はい。あと、僕の血液は特殊でしてね。…すみません、話したいのも山々なんですが、生憎今の僕には時間がない。この続きはまたいつか。」

「させるかよ。お前は多分後ろの割れた窓から飛び降りて逃げようとしてんだろうが、遅いよ。下には俺の仲間がもういる。」

「…いつ呼ばれたのですか?」

「お前が入ってきた時にだ。」

 下からは警察のサイレンが鳴り響く。

「チェックメイトだ。双波零。」

「参りました。」

 彼がその場で両手を挙げ用としたとき

「と言うとお思いで?」

 彼は後ろに飛んで窓から飛び降りた。

「!?なにを考えてやがる!?」

 慌てて上からのぞき込むと、下では白い煙が立ち込めていた。どうやら彼は囲まれることを想定して、あらかじめ煙幕を仕掛けておいていたようだ。

 やられた。

 俺はなくなった親指から上がる赤い煙だけ見つめていた。


「だめですね、彼が逃げた痕跡は何処にも見当たりません。目撃情報も全然上がりません。逃走経路もすべて用意していたようですね。」

 彼が逃走してから1時間が過ぎた。これだけ探してもいないということは、彼はもう既にどこかで身を潜めているのだろう。

「仏の顔ってのは三度までらしいな。」

「まーた逃がしたことを引きずってる。今回は相手の方が1枚上手でしたし、それに私だって下で待機していながら双波零を捕らえることが出来なかった。ごめんなさい。」

「なんで謝るんだよ。」

 オフィスのテレビは、名塚修が就いていた会社の社長が死んだという、市政ニュースを流していた。社長の遺体はその後、丁寧に火葬された。だが、不思議なのは

「あんだけのことがあって、社員は普通に働いていたらしいぞ。」

「先程調べたところ、社員はなんというか、見て見ぬふりをしていたみたいです。彼らは社長の不正の隠蔽に関して反対していたため、呼ばれない限りは社長室に行かないし、なにか大きな音が鳴っても、だれも社長室を覗きに行こうとはしなかったみたいです。」

「なるほど、どうりで誰も来なかったわけだ。まあそのおかげで社内が混乱しなくて良かったけどな。」

「ただでさえ街中は割と騒ぎになっていましたからね。そこで社内が混乱しても、こちらでは抑えることはできなかったでしょうし。彼らのドライっぷりに感謝しておきましょう。」

「それで、どうするよ。これから。名塚修についてはいろいろ分かった。だけど、部屋の中にあった、この封筒。中の紙には双波零が立ち上げたであろうサイトのURLが載ってた。一体どうして、名塚の部屋にこれが置いてあったのか、わからない。」

「名塚宛と書かれた封筒に、サイトのURL。あ、」

 彼女は何かわかったかのように口を開けた。

「これはあくまで私の推測ですが、私たちにわざと自分の存在を気付かせようとしたとか?」

「どうしてだ?」

「だって彼、普段は『双海陸』という人で生きていながら、北の隔離施設にはいることになっている。そんな芸当できるなんて、かなり頭のいい人なんじゃないですか?さっきだって、逃げるための準備まで全て周網にされていたでしょう。」

「つまり?」

「それぐらい頭がキレるってことは、名塚だって、あなたにバレることなく殺すことは出来たんじゃないですか?」

「……確かに。」

 なぜ気付かなかったのだろう。そうだ、確かに真城の言う通りだ。

「これはあくまで私の推測です。私の心は悪魔とは真逆ですがね。」

「ここにきてわかりにくいボケをするな。」

「これは私が素で言ったんですが。」

「え、嘘だろ?ないわ。」

「まあ全部嘘ですがね。」

「嘘かよ。」

「どちらにしても、いま私が言ったことは本人に聞いてみないと分からないことです。ここはひとつ、このサイトに偽名と集合場所を載せて彼を呼び出しましょう。」

「それはいいんだが、このこと全部あいつに聞かれたんじゃないか?俺の服には奴の盗聴器がつけられているらしいし。」

「ああ、その心配はいりません。もう解除しておきました。」

「い、いつの間に?」

「あなたが上着を脱いだ時にです。普通に黒ぽちがついてたから虫かと思って潰したら、盗聴器でした。」

 虫をつぶすならもうすこし躊躇えよ…。

「では、早速連絡を取ってみてもらってもいいですか?」

「そうしたいのも山々なんだが、まだやらなくちゃならんことがある。」

 溜息をついて、そっとつぶやく。

「双海要を探さないと。」

「え!?どうしてこんな時に!?何を考えてるんですか!」

「多分だが、彼女は双波零と関わりのある人物だ。下手すれば奴の身内かもしれない。」

「それは、本当何ですか?」

「まず、偽名とはいえ、苗字が奴がと同じなんだぞ。おなじ『双海』だ。それに、髪の色だって銀髪だし、要の目の色見たか?」

「たしか…、紅い、あ…」

「まあたった三つの共通点があるだけだ。もしかしたらただの偶然なのかもしれない。でも少しでもあいつのやらなくてはならないことに関わっているなら、連れて行かないといけないと、思うんだ。」

「…あなたがそう言うなら、見つけましょう。そのあと、彼のサイトを使い、誘き寄せましょう。」

「…本当にいいのか?」

「ええ、何を今更。」

「…ありがとう。」

「なんですか気持ちの悪い。早く行きますよ。」

 真城はその後俺と顔を合わせなかった。


 お父さんは不死の研究をしていた。お母さんは、私を産んだ時に死んでしまったらしい。これは兄から聞いた話だから、たぶん本当のことなんだろう。だが確証が欲しかった自分は、お父さんに何度も聞いた。その度にお父さんは『忙しいから後にしてくれ』の一点張りだった。時には暴力を振られた。そんなある日、お父さんは不死の力の生成に成功した。その力をお父さんは自身に使った。お父さんは自分の手首を切った。傷口は赤い煙をごうごうと上げながら塞がっていった。その時の自分には衝撃的な場面だった。次にお父さんは自分に不死の薬を打ち込み、自分が不死になったことを確認してから、殴った。蹴ったりもした。掴んで投げ飛ばしたりもした。その度に自分はどうしてと問い詰めた。お父さんは答えた。『お前がうるさかったからだよ。お母さんお母さんって、マザコンかよ。鬱陶しい。』その言葉は、とても重く苦しいものだった。振られたどの暴力よりも、痛かった。

 お父さんは毎日、気が済むまで自分に暴力を加えた。兄はそれを部屋の隅でただ泣きもせず、悲鳴一つあげずなぜか羨ましそうにみていた。そんな兄が不思議だった。だから自分は聞いたのだ。どうしてそんな羨ましそうに自分を見るのかと。兄は答えた。

『だって、お父さんの相手にされてるじゃん。』


 近くの警察にも協力してもらい、要の搜索に当たってから、一週間が経過していた。これだけ探しても見つからないとなるといよいよ焦りがこみ上げてくる。

「やっぱり、あの時要さんを見つけることを優先した方が、良かったのかもしれませんね。」

「それはどうだろうな。あの時は時間も時間だった。だから、仕方がなかった、と思う。でもまだ一週間って考えれば、まだ見つかる可能性はある。また明日搜索に当たろう。」

 俺はそう言ったが、ひとつだけダメ元で行っていない場所があった。

「そうですね。今日は一旦寝ます。」

「いま21:00だぞ?早くねえか?」

「夜更かしは肌の大敵ですから。」

 肌が荒れても不死の力で治るのにな。きっと彼女はそれだけ疲れているのだろう。だから俺はあえてこのことを口に出さなかった。

「では、お疲れ様でした。」

 そう言って彼女はオフィスの扉を開けた。

「おつかれさまー。……さて。」

 彼女が居なくなったことを確認してから、俺は席を立つ。多分だが、あそこにいる。

 名塚の家に。


 お父さんの相手にされていることが羨ましい理由が分からなかった。人殺しのような顔をして自分に暴力を加えてきたんだから、相手になんてされたくなかった。あんなクソ野郎の相手なんて。だから、答えに言い返した。相手にされても、嬉しくないと。そしたら兄はさらに言い返した。『いままで見向きもしなかったんだぞ。本当に羨ましい。僕だって、お父さんに殴られたい。叩かれたい。蹴られたい。』

 初めは何を言っているんだろうと、純粋に思った。狂気の沙汰だ。でもあるとき自分は思い始めた。ここまでお父さんは自分に執着して、自分に暴力を加えている。一年たってもそれは続いた。もし、自分が突然居なくなったら、お父さんはどんな顔をするんだろう。お父さんはどんなリアクションをするんだろう。だから自分は家からこっそりと抜け出した。


 大雨が一頻り降っていた。その中を駆け抜ける。名塚の家に向かうために。風はほとんど吹いていないから、雨粒はそこまで気にならなかった。彼の家に着いた時にはすでに22:00を回っていた。家の扉は容易に開いた。大家さんが勝手にについてけるわけもないし、ましてや名塚に愛人のような鍵を持つ人物は彼にはいなかった。つまり、この家に誰かがいるということだった。中に入ってはじめに、俺は右の壁を外した。

「そんな格好していたって、だれも来やしない。なあ、要さんよぉ。」

 その後ろのスペースには、双海要が以前見つけた時と同じ姿で横たわっていた。

「そんな風に汚く唾液垂らして、呼吸荒らげて、あいつを待ってたのか。」

 彼女は答えない。ただ、ハァハァと息を荒らげていた。

「返事なしかよ。まあいい、勝手に話を進めるぞ。なにから話始めたもんかね。じゃあまずはお前の性癖からだな。」

 その時彼女はピクリと少しだけ反応をみせた。

「結論から言うと要さん、あんたは死ぬことに快楽を覚えてるよな?」

「……」

 首を縦にふる。ビンゴだな。

「どうして分かったんですか。」

 彼女は初めて口を開いた。

「あんたが名塚に加えられた危害について話してるとき、俺は『顔色が』って聞いたろ。あれは顔色が悪いから聞いたんじゃない。むしろ逆だ。興奮して恍惚としてたから、聞いたんだ。あの時は殺されている時のことを思い出して、顔を赤くしてたんだろ?」

「…中々の洞察力をお持ちですね。」

「そんな全裸で褒められてもなんも嬉しくないけどな。それにあんた、窓から平気で飛び降りただろ。なんの躊躇いもなくな。そうじゃないとあんな数秒で逃げることなんてできないはずだ。まさか逃げるときにまで自分の欲求を満たそうとするなんてな。」

「…なんでもお見通しなんですね。」

「一応聞くが、どうしてそこまで死にたいんだ?」

「こんな私の話を聞いてくださるんですね。お優しい方。では、お言葉に甘えて。小学5年生の頃、私が不死だということは、すぐに分かりました。だって、この不死の体はお父さんに与えられたようなものなんですから。」


 自分のお父さんは、誰も知らないような山奥で研究をしていた。家から飛び出した自分は、あてもなく彷徨い歩いていた。夜の森はとても暗かった。木に何度かぶつかりそうになった。歩いていると、閑静な住宅街にでた。ここは通学路になっていたから、なんとなく分かった。静かな街はどこか不気味な雰囲気を漂わせていた。そして、お父さんはいまどんな顔をしているんだろう。自分を探しに来るんだろうか。考えるだけで楽しくなった。しばらく歩いていると、車の音が聞こえてきた。こんな時間に何事だろうと、そう考えた。車は自分の隣で止まり、中から黒いTシャツにジーンズを履いた男が、自分の両手足を縛り、車へ投げ込まれた。男は車を急発進させ、しばらく走らせた。これから私は何をされるのだろう。そう考えると、不安だった。数分後、自分は車から投げ出された。そこは見たこともない川辺であった。自分は仰向けになり、空をみていた。男は車からナイフを取り出し、自分の方へ近づいてきた。どうやら、自分はこれからみしらぬ誰かに殺されるらしい、そう思った。だが、『手こずらせやがって。』その声には聞き覚えがあった。よくよく顔を見ると、それはお父さんのものだった。私はすべての負の感情が一気に悦びの感情へと変わった。お父さんは自分をさらってまで殺しに来てくれた。そこに自分はひとつの愛を感じた。それは、余りにも歪んでいて、醜い、化物のような、獣のような愛。自分の体は刻まれた。切られる度に溢れる赤い煙はまるで自分の高揚感を表しているようだった。幸せだ。お父さんは満足したのか、一旦川で体を洗い始めた。自分はその傷が治る間、痛みという快楽の余韻に浸っていた。人間は幸福な感情で満たされると、こんなに動けなくなるんだと、思った。ある種の勘違いでもあった。やがて動けるまで体が治ると、自分はこのことを、兄に伝えたかった。自慢したかった。自分はお父さんからの愛を受け止めていると。そう思い立ち上がり、駆け出そうとしたとき、お父さんは自分の後ろから首を締め付けた。苦しい。意識が遠くなる。でも、幸せ。自分は幸せだ。兄より圧倒的に、絶対的に、幸せだ。そう思いながら意識を失おうとしたその時、銃声が響き、お父さんが倒れた。その後やってきたお兄さん達は、物騒な格好をしていた。銃をもつお兄さんが大丈夫かと尋ねた。自分は大丈夫だった。むしろ大丈夫じゃないのはそっちではないか。こんなに幸福だったのに、邪魔をされた。どうして邪魔をしたのか。そう聞きたいのは山々だったが、空気を読むことにした。仕方ないことだ。それにお父さんは不死だ。銃で撃たれたところでしにはしない。よく見ると、搬送されていくお父さんの弾痕からは赤い煙が上がっていた。やっぱり。お父さんは死なない。この一連の総動が終われば、またお父さんは自分を殺してくれる。何度も何度も。そう思っていた、翌日。近所の病院で医師から、お父さんの死を告げられた。信じられなかった。自分はその場で泣き叫び、しばらく暴れていた。そこから先のことは、なんにも覚えていない。


「あら、おはようございます。今日は早いですね…って、目の隈が酷いですよ。どうしたんですか?」

「ん?ああ、インターネットで色々見ていたんだ。ヤフオクとか、知恵袋を適当にな。」

「こんな時にどうして?」

「どうしても眠れなくてな。仕方なく。」

「そうですか。このあとまた要さんの搜索に向かうんですから、顔でも洗ってきたらどうですか?」

「ああ。そうする。すまないな。」

 俺は徐に席を立ち、洗顔所へ歩いていく。目の隈が酷いのはヤフオクや知恵袋を見ていたからではない。決着を付けるための準備をしていたからだ。あの、双波零と。

「あ、朝食置いておきますね。」

 おう、とだけ返事をする。これからの予定としてはこうだ。まず、今日の搜索を夜まで行い、深夜0時に真城には内緒で、双海要を連れて双波零に会いにいく。要はネカフェに籠ってもらうように言ってある。真城には、申し訳ないが、

「ほら、早くしないと朝ごはん、冷めちゃいますよ。」

「分かってるって。今行く。」

 朝食はパンにベーコンエッグ、ブロッコリーと牛乳。なんと定番の洋風朝食。どれも美味しい。そもそも、真城が作る料理は全て美味しかった。

「うわ、何いきなり泣いてるんですか。引きます。」

「え?」

 気付かぬうちに、俺は涙を流していた。これが最後の真城のご飯になると思ったからだろうか。双波零と対峙するから、生きて帰れる保証はない。だからなおさら、悲しくなったんだろう。

「こんだけ探して要が見つからなくて、辛くてな。」

「何弱気になっているんですか。ほら。」

 真城は泣いている俺をそっと抱きしめた。

「きっと見つかります。大丈夫です。」

 彼女の珍しく優しい言葉に、俺は声を呑むことが出来なくなっていた。オフィスに、自分の嗚咽が虚しく響いた。


 深夜0時。俺は大手大橋の高架下に着く。

「時間ぴったりに、着きましたね。」

「当たり前だ。今日は、お前を殺さなくちゃならない。捕まえたところで、お前は牢屋を力づくで抜け出すだろうしな。それなら殺してやる。」

「僕にはやらないといけないことがある。だから今日は僕も、あなたを殺します。僕のサイトで、あなたは仮にも死にたいと、言ったのでね。」

「お前に殺されるかもしれないなら最後に、ひとつ聞いてもいいか?お前のやらなくてはならないことって、なんだ?」

「…この際、お話しましょうか。どうせ最後なんですからね。僕のやらなくてはいけない事はね。」


「妹を、殺すことです。」


 お父さんが死んでから、1ヶ月が経った。私は自分の腕を鉛筆で

 刺していた。刺さった部分はただ痛いだけ。赤い煙があがり、傷は消えてなくなる。そしたら自分はまた刺す。それを半永久的に繰り返した。兄は、そんな自分をずっと見ていた。気味が悪かった。だから聞いたのだ。何を見ているのかと。『そんなに死にたいの』兄は問う。自分は死にたいと答えた。兄はやはり問う。『本当に?』自分は首を縦に振った。『そう。』兄はそれだけ呟いた。なんでそんなことを聞いたのかと、問い返す。兄は言った。『僕は不死身の人を殺せるんだ。お父さんだって、僕が殺した。』自分はそれを聞いたとき、マグマが地底から溢れ出るように、怒りを顕にする。どうしてそんなことをしたの!!殺されたかったのに!!お父さんに殺されたかったのに!!!!どうして!!自分は声を荒らげる。『前にも言ったでしょ。羨ましかったんだよ。嫉妬したんだよ。だからお父さんを奪ってやった。ざまあみろだ。』

 兄はアッカンベーをした。その顔面を自分は殴った。倒れた兄に馬乗りになり、追い討ちを掛ける。何度も何度も、何度も何度も何度も何度も、顔を殴った。兄の顔に滴るほどあふれる涙を拭わずに。散々殴り、力が抜けた時に、兄は自分の顔に手をそえて言った。『ごめんよ。本当に。ごめんよ。お父さんの代わりに、僕がお前のことをちゃんと殺してやるから。ごめんよ。』自分は、うんとだけ言って、兄を許した。兄は悲しそうな顔をしていた。そうして、この喧嘩は収まった。それからというもの。自分は兄に支えてもらいながら、生活してきた。していけた。それが、不思議なくらい。


「妹を、殺す?」

「はい。妹は、僕の手で殺してあげないといけないんです。」

「そんなの、妹が許すわけ無いだろ。」

「いいえ、妹も望んでいます。僕に殺されることを。」

 そんなの、

「正気じゃない。」

「なんとでも言ってください。本当の事なんですから。」

「じゃあ、それは本人に聞くしかないな。」

「妹がどこにいるかご存知なんですか!?」

 彼はいつにもなく大声で俺に聞く。

「たぶんだがな。要さん。」

 俺が呼ぶと、双海要が、脇からこちらへ歩いてくる。

「…百。」

 彼は金縛りにあったようにその場に突っ立っていた。

「もも?」

「僕の、妹です。百、いままでどこにいたんだよ!」

 なるほど、双海要はやはり偽名だったか。本名は双波百ということか。

「百。さあ、行こう。」

「させるかよ。」

 俺は二人の間に立つように双波零の正面に立つ。

「そう簡単には行きませんよね。」

「そりゃな。まずは俺を殺してからにしな。」

「待ってください、お巡りさん。」

「俺お巡りさんじゃないんだけど。なんだ?」

「私からも最後の質問。お兄ちゃんはどうしてお父さんを殺せたの?」

 要が零に問う。

「僕には、不死になる力は与えられなかった。その代わりに、不死者を殺せる力をお父さんがくれたからさ。お父さんは言ってたよ。『もしも、俺があいつを殺すことに飽きたら、お前があいつを殺せ。その力を使って。』ってね。」

 え?それって、つまり

「どちらにしろお前をちゃんと殺すつもりでいたってことだよ。お父さんはね。」

「…そっか。」

「…気は済んだか?要さんよ。」

「はい。でも、お巡りさん。」

「だからお巡りさんじゃいって。それで、なんだ?」

「どうか、お兄ちゃんに殺されてください。」

 彼女の余りに真っ直ぐなお願いに、身じろいでしまう。

「殺されてもいいのかなとは思ったけどよ。これからもこいつは不死者を殺し続ける。どんなに死にたいと、願ってる不死者がいたとしても、殺すのはやっぱり間違ってると思う。だから、俺はこいつを殺して止める。」

「……」

「わかったら、どっか安全なところで隠れてな。」

 そう告げると彼女はどこかへ隠れていった。

「いいですか?」

「ああ、先に行っておくぜ。じゃあな、双波零。」

「それはこっちのセリフです、よ!」

 先に手を出したのは零だった。彼はナイフを顔面へと突き出す。その刀身には彼の血がこべりついていた。少しでもかすれば俺が不死者でなくなることの証だ。俺は顔を傾けて避ける。彼は足払いをかける。飛んでその足を避けながら蹴りを入れる。彼は片腕で防ぐ。続けざまにナイフを突き出す腕を抑え、背負い投げをしかけるが、両の足で彼は踏ん張り逆に投げ返す。地面に叩きつけられ、腕がミシミシと音を立てた。ハッとして、目の前に迫るナイフを慌てて払いのける。彼のナイフは宙を舞う。俺は懐に隠していた護身用のナイフを取り出し脇腹へと突き刺しに行く。彼はそれを膝で同じようにナイフを宙に舞わせ、俺がナイフに気を取られているうちにはじき飛ばされた自身のナイフを奪取しながら、胸を思い切り叩いた。俺はナイフを取り戻し、彼の方へ向き直る。

「なあ、あんたはどうして自身の胸を叩くんだ?前も似たようなことをしてたよな?」

「これは血液を全身に巡らせるためです。僕の血液には人より異常な量のヘモグロビンが含まれているんです。しかもそのヘモグロビン、酸素を多く蓄えられるんです。その代わりに、血液が全く流れなくなったんです。だから、自分で心臓を叩いて、巡らせるんです。」

「へえ、そんな仕組みになってたんだな。驚きだ。でもよ、それって。」

 俺は彼に向かいまたナイフを突き立てる。

「胸を叩かせなければいいんだろ。」

 それを避けると、カウンターのようにナイフを突き刺し返す。すんでのところでナイフをおさえる。だが、その刃を抑えきることは出来ず、俺の頬を掠ってしまった。それはつまり俺の不死がなくなった証拠だった。かすり傷からは赤い煙が上がらない。ただ血が流れ出ていた。だが、不死の力を無くすということは

「グハァッ!」

 それだけの力を失うことを意味していた。彼の蹴りで体が浮き、2mほど後方に吹き飛ばされた。さらに彼は上から腹へかかと落としを決める。口から多量の吐血。内蔵が潰れた。俺に戦う力は、もう微塵も残ってはいなかった。

「これで終わりですね。」

 彼はかなり息が上がっていた。もう一度胸を叩こうとする。

「…?なんですか、この手は。」

 俺はその腕を止める。さて、ここが正念場だ。彼は俺を払い除けようと腹に胸にと次々に拳をぶち込む。その度に俺は血反吐をぶちまけた。だが、その拳は次第に勢いを弱めていき、

「くっ。ただの人間に戻った筈なのにどうして?」

「ハァハァ………人間……なめんな。」

 やがて彼は殴れなくなるほど衰弱していき、倒れてしまった。

「もう、動けません。自分の胸を………叩くのに必要な酸素が……ありません…。」

「ハァ……それを聞いて………ハァ…安心したよ……。」

 俺は最後の力を振り絞り、立ち上がる。体中が、全身が痛いし、力が入らない。意識も朦朧として今にも倒れてしまいそうだった。俺は立ち上がり自分の銃を取り出し、零の頭に向ける。

「はは……新しい銃を…持ってきたんですね…。」

「…ちゃんと……ハァ……暴発しない………ハァ…奴をな。」

 俺は痛む全身に力を込めて、引き金を引いた。


 河川敷に銃声が鳴り響く。それも、2発の。俺は自分の首に弾痕ができていることに驚いた。俺の放った弾丸は一発、彼の額に命中していた。もう一つの弾丸は、彼の手に握られた銃から放たれたものだった。彼は満足したようにニコリと笑い、ゆっくりと瞼を閉じた。その顔だけ見て、俺は倒れた。この後のことを俺はもう語ることは出来なかった。


 銃声が聞こえ、慌てて高架下へと戻ると、二人の男が倒れていた。近づくと、血まみれになった二人がいた。お兄ちゃんと、U.S.Iの人だった。二人とも安らかで、穏やかな表情をしていた。

「お兄ちゃん、起きてよ。」

 私はお兄ちゃんの横にしゃがみこんで、軽く叩きながら話しかける。

「お兄ちゃん?嘘だよね?まさか、死んだなんて言わないよね?だって、お兄ちゃんにわたしは殺されないとなんだよ?そんなお兄ちゃんが……………お兄ちゃんが先に死んで、どうすんのよ!!!!ッ……ウゥ……ウアアアアアアァアァアァアアアアアアアアアアアァアァアアアァア!!」

 私の号哭の声は、いつまでも、いつまでも、虚しくその場でこだました。

「私を殺してよ!!私は…お兄ちゃんに殺されたかった!!!私は!!お兄ちゃんの愛が、欲しかったのに!!…ばかっ……。」

 お兄ちゃんの頬に私の涙が落ちる。あの時と、一緒だ。あの時も私は、こうやってないて、涙を落としたっけ。


 一件の通報があった。大手大橋の下で、不死者がいたと。寝起きながらも、私は急いで向かった。車で数分、私は大手大橋の高架下に向かうと、倒れている人が二人と、それを見て膝をついて泣いている双海要がいた。

「要さん!どうしてここに?てか、どこにいたんです…か……。」

 私は彼女の目の前に倒れている二人をみて言葉を失った。一人は銀髪の男。おそらくこの人が双波零だったんだろう。そして、もう一人は同僚だった。私と同い年の、同僚だった。

「そんな……」

 彼は、双波零に、殺されてしまったようだった。じゃあ、今朝泣いていたのも、自分が死ぬかもしれないと、分かっていたから?私は後悔した。今朝、泣いている彼から、双波零に会うことを察すること蛾できていれば。あの朝、もっと美味しいご飯を作ってあげていればよかった。それよりも前に、私はこの人に好きだと、伝えたかった。彼は幸せそうな顔をしていた。そして私の脳裏に色んな問いが駆け巡る。どうして、私に話さなかったんですか?私って、そんなに、頼りないですか?そんなに、貧弱に見えたんですか?私だって不死者なのに、どうして?この後私は救急車を呼び、二人は病院へ搬送された後、正式に死んだことが、分かった。途方に暮れながら、オフィスに戻り、あの人の席を見つめると、机の上に、ひとつの封筒が置いてあった。そこには真城へと書かれていた。わたしは封筒を開ける。中には手紙が入っていた。


『ええと、何書けばいいのか分からないから、とりあえず思ったことだけを書いていこうと思う。まずドラマや漫画でよく聞く、これを読んでる頃には俺が死んでたらごめんと、書いておきます。あと、黙って出ていったことは、怒っているだろうし、悲しんでもいるだろうけど、俺はどうしても、あいつに殺されて欲しくはなかったんだ。目の前でとなると、なおさらだ。だから、申し訳ないけど、置いていった。わがままでごめんよ。あと、俺は結構お前のことを頼っているつもりだったよ。毎日のように朝飯を作ってくれたし、俺のミスに対しては毒吐きながらも注意してくれたし。感謝してるよ。ありがとう。改めてこういうこと書くと照れるな。本当に何書けばいいのかわからないので、最後にひとつだけ。今まで本当にありがとう。お前のこと大好きでした。さよなら。』


 後日譚を私に語る資格があるのかどうか分からないけれど、頑張って話していこうと思う。

 搬送された双波零の血液は研究された後に正式に不死の力をなくすことできると分かった。

 続けてそれを利用したワクチンも作られ、北海道の隔離施設にいた住民は、治療が施された後に開放された。

 ほどなくして、不死者は消えたと判断されたのか、U.S.Iは解体されることになった。

 だが、まだどこかに不死者が潜んでいる可能性があったため、警察は対不死者特別係なるものを立ち上げたが、それも解体されたのは、二年後のお話。


「あ、ここかな。」

 季節は夏。カンカンと照らす太陽。青く澄み渡る空。

 新鮮な空気を胸いっぱいに受け止めながら、わたしは彼の墓があるお寺へと足を運んだ。

 かぶっていた麦わら帽子のつばを抑えながら墓の前にしゃがみこむ。

「久しぶりですね。といっても、一年ほど来てなかっただけですが。U.S.Iがなくなってから私は、不死の力をなくす治療を受けたあと、近所のスーパーで普通に働いています。結婚は、今のところ、相手がいません。ふふっ。まさかあの時勝手に一人で出ていくなんて、思わなかったですよ。…いや、もしかしたら気づいてたけど、勝手に気づかないふりをしていたのかも、しれませんね。それとあの日から双海さんは行方不明になってます。彼女には失踪癖でも、あるんでしょうかね。」

 クスクスと笑いながら、私は墓を見つめていた。

「そろそろ、お暇しますね。また一年ぐらいたったら、またここに来ますから。」

 私はゆっくりと立ち上がり、彼の墓に背を向けた時だった。

『おう。また来いよ。』

 思わず後ろを振り向いた。彼の声が聞こえた気がしたからだ。

 私は固まっていた。そして、涙ぐみながらニコリと笑い、その場を後にした。幻聴が聞こえるなんて、疲れているのかな。あ、そういえば今日は午後から仕事、入ってたっけ。私はすこし駆け足になりながら、帰りのバスに足を踏み入れる。

 これから先のことをすこしだけ考えながら。

いかがだったでしょうか?作品に満足して頂けたでしょうか?まずあれほど適当な前書きを踏まえながらこれを読んで頂き、ありがとうございます。短編と書きましたが、そこそこ長くなってしまったので、ちょっと詐欺をしているような気分になりますね。趣味で書き始めたら止まらなくなってしまいました。また時間があるときに短編を書いてみようかなと、思います。では、また次回があればお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ