王国軍の目的
先手を取ったのは、王国側だった。境界付近の戦いの結果を知った王国は、直ちに動員できるだけの兵を編成した。そして、動員完了と共に、死の荒野に向けて進軍を開始した。
「ッ! 早すぎる。もう派兵してきやがった。まだ編成も終わってないし、戦場の選定も終わってない。どうする?」
不死王としても、相手側が派兵してくるのは予想済みだった。しかし、その速さが予想外だった。自陣営が有利な地点で、適正な兵数を用意してぶつけるつもりだった。だが、兵の編成が完了していない状況で、攻め込まれてしまった。
「あそこには砦が近くに有るはずだ。その後ろには城を築いていたはず。よしっ、有るな。取り敢えず、すぐに動かせる奴らを連れて移動だ」
砦と城の有無を確認し、城に向けて出発した。不死王にとっては、初陣である。期待と不安から、行軍速度は少し早目であった。しかし、そこは疲れ知らずのスケルトン、何の問題も無かった。
一方の王国軍は、砦の見える範囲で陣を張っていた。その砦は王国とその周辺国では、見ない形をしていた。お互いに城の縮小版という点では一致していたが、構造がまるで違っている。
「閣下、随分と変わった形をしていますね」
「ああ、私も見たことは無いが、一筋縄ではいかなそうな事は判るな」
王国軍の将軍とその副官が、砦を目の前に会話をしていた。周辺の情報を探るために斥候を放っており、その情報が入るまでの時間を潰す為である。しかし、二人の頭の中では、砦を攻略する為の算段も立てられていた。
「閣下、後方の城らしき建造物に軍勢が入ったとの事です」
「数は」
「はっ、およそ三万との事です」
出していた斥候が、後方の城に入る不死王軍の姿を捉える。その事はすぐに将軍へと知らされる。
「三万ですか。……厄介ですね」
「そうだな。前線の砦でこれだ、後方の城はさぞかし堅そうだな」
王国軍が今回の派兵で動員できた兵数は、五万である。それに対して不死王が動員したのは、三万であった。数的には王国軍が有利だが、拠点の攻防では不死王軍の方が圧倒的に有利である。
「それにここの環境も最悪だ。この量の魔力はきつい」
「最浅部でこれとは……。最深部は考えただけで恐ろしいですね」
死の荒野は、生者の立ち入りを頑なに拒み続けていた。肉体を持つ者には、過剰な量の魔力が満ちている。最深部では、呼吸すら困難であろう量の魔力が存在している。そんな所に不死王は己の知識を総動員した城を建築している。完成にはまだまだ時間がかかるが、完成すれば二重の意味で難攻不落の城が出来上がる予定だ。
「まあ、今回は攻略が目的では無いんだがな」
「はい。本当に良かったです」
そう、王国軍の目的は、死の荒野の攻略ではない。これには、派兵前に教国から届いた返書が関係していた。その書状の中には、十二の種族が誕生した事と骨人種に関する簡単な説明が書かれていた。
「使者を出せ。我々の任務を全うしようではないか」
「はっ」
王国軍の目的は、王国の外交官を送り届けることである。教国の返書には、こう書かれていた『骨人種は本来は大人しい種族である』と。このことに一縷の望みを託して、今回の派兵は行われた。