未知との遭遇
調査部隊の隊長は混乱していた。新たな国が興ったので、その実態を調査する為に派遣されたはずである。しかし、彼の目の前に突然現れたのは、武装した骸骨の部隊だった。
(何だあれはっ! 新興国の調査ではなかったのか!? なぜ骸骨が立って歩いているのだっ! しかも見たことのない様式だが武装までしているではないかっ!)
お互いに姿形が判る距離を保ったまま身動きが取れないでいた。調査部隊は想定外の出来事に、骸骨兵は命令に無い場面に直面した為だった。
(どうする、攻撃するか? 数ではこちらが有利だが、万が一にも相手国の手勢だった場合には交渉どころでは無くなるぞ。)
隊長も最初こそ慌ててはいたが、統一された武装と隊列に乱れが無いことから相手国の兵士の可能性があると判断した。
(あちらも調査のために部隊を派遣していたのか? だめだ、情報が無さ過ぎて判断できん。ここは使者でも出してみるか? ん? 何だ!?)
「うわああああっ、化け物だぁぁっ!!」
「ッ!? あの馬鹿を取り押さえろっ!」
隊長は経験豊かな歴戦の勇士だったが、率いていた多くの兵士は今回が初陣の新兵ばかりだった。上層部は調査で戦闘は無いと考えていたので、この際に新兵の初陣を済ましてしまおうと考えていたのだ。しかし、それが仇となり、パニックを起こした一人の兵士が骸骨兵に矢を放ってしまった。だが、調査とはいえ場所は死の荒野であり、初陣で動く骸骨を見てパニックを起こしてしまうのは仕方がないとも言える。
古参の部下は隊長の声を聞き、すぐに行動に移すことが出来た。しかし、パニックはパニックを呼び、あっと言う間に新兵の間に拡がっていってしまった。次々と矢が放たれ、最早これでは収拾のつけようがない。隊長は腹を決める。
「事此処に至っては致し方なし。骸骨共を殲滅せよっ!! 一兵たりとも逃がすなっ!!」
部隊の収拾が無理だと判断した隊長は、骸骨兵の殲滅を指示する。一兵でも取り逃がした場合は、戦争である。故意でなくとも
こちらから先に手を出した以上は、こちらの落ち度である。交渉でも不利になってしまう。だが、ここで殲滅に成功すれば、死人に口なし。知らぬ存ぜぬで押しきれなくもない。
しかし、この思惑は外れる。相手から攻撃を受けた骸骨兵は、命令通りに伝令を走らせた。戦闘の最中にその姿を確認した隊長は、己の失態の重さに愕然としてしまう。今さら相手に追い付くのは不可能に近い。こちらは未知の領域、あちらは勝手知ったる領域である。
だからと言ってこのまま帰るわけにはいかない。隊長は倒した骸骨の収容を命じ、装備品を鹵獲した。少しでも敵になるかもしれない者の情報を本国に持ち帰る為に。