転生女神のお仕事 物語は私が作る! ~ 血と乙女ゲーム編 ~
本作には視点変更があります。
皆さまこんにちわ。
僕は転生の女神に仕えるゴ・コウと申します。
コウとお呼び下さい。
僕は忠実なるご主人様のしもべです。
体は直径40センチの球体。
主な仕事は、ご主人様を後ろから照らすことです。
これは、僕のご主人様のお話。
地球の転生ものが大好きで、コネを捏ね繰り回して念願の転生神になった女神のお話。
今回はいつもと違って、僕がお話したいと思います。
至らぬ点もあるかと思いますが、精一杯頑張ります。
よろしくお願い致します。
この世界には、創造神、管理神、調整神など様々な仕事をする神がいます。
ご主人様は転生神で、死んだモノを生まれ変わらせる"転生"を行う仕事をしています。
転生される方を転生者と呼び、ご主人様が担当する転生者を犠牲者と呼びます。
ご主人様の職場は、真っ白で境界が曖昧なこの部屋です。
他の転生神の方の部屋も同じような作りだと聞いています。
ご主人様の名前や容姿は、これを読んだ方が転生される際に気付くと不憫なので伏せます。
転生神は指名制ではないのです。
ご主人様を語る上で欠かすことができないのが口癖です。
「物語は私が作る!」
私のご主人様は、転生者の人生でストーリーを描こうとする、作家きどりな方なのです。
ご主人様の前職についても説明します。
創造神です。
転生先にいない生物、存在しない能力、世界すらも創ることができます。
普通の転生神は自分で作らず外注します。
お分かり頂けたでしょうか。
うちのご主人様すごいんです。
ある時のことです。
「血で魔法陣を描き、魔法を使う勇者……ありふれている。しかし、カッコイイからいいのよ!」
と何やら葛藤の末叫びました。
「ブラッディなんちゃらとか言ってみたいじゃない!」
一面真っ白な世界で独り言、いつものことです。
「ベースは人族の血、色は魔族の緑。そこに魔力をタップリ注く。人族の希望として生まれた勇者の血が、実は敵である魔族と同じ色」
とニヤニヤしながら呟き、転生者用の体を作っていました。
粘土のようなものを捏ねながら一人笑っている姿は、それはもう美しいものでした。
ご主人様が作った体は、タイチという名の方が使用することになりました。
転生前に彼はこの真っ白い部屋へ呼ばれ、ご主人様から説明を受けました。
「血で魔法陣を形成すると、ズギャンて魔法が使えるわ」
この言葉を聞いて、少年のように喜んでいたのが印象に残っています。
タイチさんが異世界へ転生された後、ご主人様の命令で彼の様子を映しました。
プロジェクターとして真っ白な壁に転生者の様子を映す。
これも僕の仕事です。
彼は血の色が違うことで人々から迫害されていました。
ご主人様の狙い通りです。
しかし、彼はそんな境遇なんかには負けませんでした。
勇者として、世界の脅威である魔王を倒すという使命を、命がけの冒険の末達成しました。
そして、世界の人々に祝福されながら王女様と結婚しました。
そんなタイチさんが織りなす冒険活劇な人生をみて、
「あーいい仕事したわー。ブラッディやっぱいいじゃない!」
とご主人様は大満足でした。
僕はずっとご主人様と一緒にハラハラドキドキしながら見ていました。
別の意味でハラドキです。
暫らくするとタイチさんにお子さんが生まれました。
お子さんは凶暴な魔物でした。
ご主人様はハッピーエンドが大好きです。
なので、これはわざとではないんです。
「あれ?あっそっかあの血、人族の血と混ざると……」
ちょっとドジなだけなんです。
リアルなドジっ子神バージョンなだけなんです。
そんな僕のご主人様が最近ゲームに嵌っています。
僕を使って壁に何やら美男子を映してハアハア言っています。
犬みたいなご主人様は可愛いですよ?
ご主人様がやっているのは、『君のためならこの身など』っていうタイトルのゲームです。
地球の管理神に頼んで取り寄せてました。
「転生は最近の流行を取り入れなきゃダメなのよ、研究大事!」
とか一人で叫んでました。
誰に対する言い訳なんでしょうか?
ずっと見ていて理解しました。
というか僕が映しているんで嫌でも目に入るんですが。
このゲームの概要を説明します。
(次の5行は乙女ゲームについてです。知っている方は飛ばしてください)
主人公の女の子が貴族や王族が通う学校に転校するところから始まります。
プレイヤーは、会話の内容や勉強、お稽古、お出かけみたいな行動を選んでいきます。
選んだ解答によってイベントが発生して、各キャラとの親密度が深まります。
その親密度や消化したイベントによってエンディングが変わります。
ハッピーエンド、ノーマルエンド、バッドエンド、トゥルーエンド様々なエンディングが用意されています。
ここまでが概要。
ここからはこのゲームを解析した結果です。
このゲームのプレイヤーは、"好きな男キャラ"との"理想のエンディング"があるはず。
"きっと存在する"と信じて、何周も何周も徘徊する"求道者"にジョブチェンジ。
そして、最終的には悟りを開く。
そういうゲームです。
たぶん合ってます。
「ザイル様、どうして、どうしてなのよ」
ご主人様は神のくせに、悟りをまだ開けてないみたいです。
因みにザイルっていうのは、無精ひげでワイルドな感じのベテラン騎士です。
「必殺上目使い!」
ご主人様気合が入ってますね。
このゲームの女主人公について説明します。
彼女は健気で前向きアピールや、あざと可愛い仕草をします。
制作者の『男はこういう女が好きなんでしょ』っていう憎悪が透けて見えます。
男が全員ブリっ子女が好きだって思われるのは心外です。
ブリが許されるのは二次元までです。
リアルでやられると後ろから蹴り飛ばしたくなります。
二次元へ帰れ!
登場する男共についても触れますね。
ブリ女にスケジュール、好み、コンプレックス、トラウマなどを徹底的に調べられます。
スケジュール情報を掴まれると奇襲され、好みがばれるとそこを突かれて懐に入られます。
「まだよ、まだ二つもムービー枠が残っているわ」
えーっと。
コンプレックス持ちの男は、自重気味に話をするときがあります。
その際に『私はそんな貴方も魅力的だと思うな』的なことを言われるとコロッと落ちます。
トラウマ持ちは、女主人公に古傷を抉られ重症を負います。
そこですかさず、女は『私は分かっているわ貴方のこと』的なことを囁きます。
男を地に叩きつけてから、スクイあげるアッパーをプレゼント。
男の態勢が整わない内に止めの必殺ブロー『大丈夫、私は貴方の前から絶対いなくなったりしないから』。
3コンボでKOです。
皆チョロイです、チョロ男です。
ブリ女とチョロ男が織り成すラブストーリーです。
「遂に私の愛が試されるときが来たわ」
ご主人様が無事、最終イベントまで到達しました。
この最終イベント、女主人公が必ず死にそうになります。
必ずです。
女はトラブル体質の爆弾女だったのです。
しかし、もうダメだっていうときに、チョロ男が颯爽と現れ爆弾女を助けます。
あるときは、連続殺人鬼パラッパーの銃弾をその身に受け爆女を守り。
またあるときは、戦場で一人敵兵に囲まれている爆女の元へ駆けつけ、無数の剣に貫かれながらも守ります。
チョロ男は毎回瀕死になるのに、女はかすり傷一つ負いません。
なんとチョロ男は、女の優秀な盾、チョロ盾だったのです。
チョロ盾はちょっと可哀そうですね。
せめて人にしましょうか、チョロちゃんにします。
チョロちゃんは盾として頑張りボロボロになった後、女を見つめていつもキメゼリフを吐きます。
『君のためならこの身など』
チョロ度が上がるだけです。
「アンタじゃないわよ!」
あー今回も狙った男が来なくて、勘違いチョロちゃんが来てしまったようです。
求められてないのにヒョッコリ盾をしに来ちゃったチョロ度Maxな勘違いチョロちゃん。
『君のためならこの身など』
彼のこの台詞は、僕の繊細な涙腺には刺激が強すぎます。
画面が真っ暗になりました。
この後のムービーで生きていればハッピーエンドです。
頑張れチョロちゃん!
ゲームがリセットされました。
このルートのエンディングムービーは回収済みでした。
ごめんチョロちゃん!
なんとか一通り説明することができました。
伝わったか分かりませんが、このゲーム想像以上に面白いです。
まあ一番面白いのは「いやっそんな」とか「このシチュたまらん」とか叫んでいるご主人を、冷静に観察することなんですけどね。
「これで全ルート制覇……それでザイル様とのハッピーエンドは……どこ?」
大変です、愛の求道者が迷子です。
慰めの言葉ですか?
僕は忠実なるご主人様のしもべですよ。
分はわきまえてます、働けとしか言えません。
「何度やってももうザイル様の新しいお姿が見れない……」
あーこの世の終わりっていう顔してますね。
でも大丈夫、うちのご主人様に限ってここで終わる訳がありません。
「そうよ、完全再現した世界を創ればいいのよ。『君のためならこの身など』の世界を、私が創るわ!」
この世がないなら創ればいいじゃない!
もう何も言えません。
まあ元々喋れないんですけど、心の声って届かないんですよね。
「待って流石に審査通らないわ」
ですよね、やめましょう。
「名目は『定められた運命を切り開く過程で、転生者の魂をより良いものへと導く』イケるわ!」
イケません、やめましょう。
『定められた運命』って大げさに言ってますけどゲームシナリオですよね?
「お爺さまー」
上司に申請を通す前に根回しを欠かさない、流石ご主人様です。
はあ、声が届かないって切ないですね。
いっそグレてみましょうか。
「あのさー背景設定で分からないとこがあって、ゲーム制作者の記憶を見たいんだけど送ってくれない? ありがとう今度おごるわねー……これで足らないとこは自作して」
行くぜー野郎ども!
ブォーンブォーン
「どうやって各人にシナリオ通りの行動をさせようかしら? 『運命システム』は縛りが大き過ぎるし……確か世界を崩壊させるような行動だけ制限する仕組みが……これを改良すれば」
走り出したら止まらない暴走女神のお通りでーい。
パラリラパラリラー
「名付けて『運命線システム』!これで主人公がシナリオ外のことをしたら、少しずつ各人の人生が変わる自然なものになったわ。これを元に世界を構築っと」
元創造神は伊達はじゃないぜーい。
パラリラパラリラー
「主人公が入学する時まで時間を早送りして、仕上げに諸々微調整……出来たわー!」
無駄に高スペッーク!
パラリラパラリラー
「後は転生者を決めるだけね。プレイしたことある人じゃないと意味がないから……あっごめん今食事中だった? あのさーお願いがあって、そうそう新しい転生者についてなんだけど……」
野郎ども止まれー!
キッキー
地球の皆さまへ御挨拶だー
うちの主人がご迷惑をおかけします、変わってお詫び申し上げます。
申し訳ございません。
「仕事が早くて助かるわー。さてこのリストの中から誰がいいかしらね。あら? さり気無く男が混ざってるわね……ダメよ! 乙女のための世界なの。男を主人公にはできないわ……ある意味乙女のための世界かしら」
『君のためならこの身(男の身体)など(関係ない)』ですか?
ご主人様、お願いですから普通に女の子にしましょうよ。
「ヒイラギ・エリカ、私と同じでザイル様に恋に焦がれた女子高生。定められた運命通りでは結ばれることない非攻略対象を愛してしまった女の子。好き過ぎて自作グッズで部屋は埋め尽くされ、最高傑作のザイル様銅像が、地震によって倒れ、下敷きとなって亡くなる」
刮目せよ!
これが神に願いが届く瞬間であーる。
「同士エリカ、貴女に決めたわ。転生して夢を叶えなさい!」
あれ?フラグ回収されなかったですね。
しかもなんか珍しくいい転生になりそうな。
「あっでもザイル様が他の女といちゃついているとことか……いやっ見たくない! でもザイル様と全く関係ない道を選ばれると困るのよね。経過観察というお題目でザイル様のお姿を見ることが出来なくなる……ピンと来たわ!」
僕はご主人様の忠実なるしもべ。
僕は悪くない。
聞こえなーい!聞こえなーい!
……ごめんねエリカちゃん。
―――――ヒイラギ・エリカ 視点――――――
「いつの間に……」
横になっていた体を起きあがらせ、ぼやけた頭で考える。
「えっとそうだ、あのとき突然ザイル様が熱い抱擁を」
そのまま押し倒されて、その後が思い出せない。
開きかけていた目をギュッと瞑り、私は頭を抱えた。
意識は一瞬で覚醒した。
思い出せー私、頑張れば出来る……。
ダメだ、こんな美味しいシチュ思い出せないとか。
「くそう、泣きそうだ」
天を仰ぐ。
このときになって初めて目に周りの景色が映った。
「え?」
私の部屋じゃない、日本でもない。
でも、知ってる。
私が間違える訳がない、ここは……。
「ここは『君のためならこの身など』の世界だ……」
大好きなゲームの舞台となる学校、その中にある木製のベンチに私はいた。
後ろにはまるでお城のような校舎があり、目の前には花のアーチ。
その先には『天使の憩い場』と呼ばれる水と光でできた幻想的な空間。
口を開けたまま呆けていた。
夢かと思ってつねってみた。
痛い。
ちゃんと痛くて涙が出た。
夢が叶った。
嬉しくてまた涙が出た。
「お百度参りして良かったよぉ~ありがとうございます、ありがとうごぜいます」
ぐちゃぐちゃの顔で神様にお礼を言った。
ここは、私が一番好きな場所。
ザイル様との出会いの場所。
涙が溢れる。
愛しい人の声が聞こえたからだ。
「神様、なんで私がザイル様なのぉ」
私の声が愛しい人のものだった。
目覚めてすぐに私の恋は終わった。
―――――ゴ・コウ 視点――――――
「エリカちゃんは大好きな世界でザイル様とお近づきになれてハッピー! 私はザイル様のお姿を見れてハッピー! これぞ一石二鳥、ハッピピッー!」
プツッ
僕はエリカちゃんの様子を映すのをやめた。
「……テヘッ」
しょうがないなぁコイツー。
蹴り飛ばしたいです。
僕はご主人様の忠実なるしもべ。
皆さまに出会わないことを切に願います。
あ、これフラグ立てちゃいましたかね?……テヘッ。
追伸
この転生はすぐにご主人様の上司に見つかりました。
エリカちゃんの魂はなぜか非常に徳が高く、幸せな転生をさせるべきであり、これは不適切な転生と判断されました。
エリカちゃんは、ザイルになったときの記憶を消され、主人公の女の子として再転生しました。
その後、見事に憧れのザイル様を攻略し、幸せに暮らしているそうです。
本件なんとかなりましたのでご心配なく。
因みにご主人様は、
「お前は人の人生をなんだと思ってんだ」
とキッチリ上司に絞られ、給料も絞られたそうです(ニヤッ)。
お読みいただきありがとうございます。