4話
だいぶ空きましたね……すいません(´・ω・`)
「んー……」
私はそこかしこに付けてしまった焼け跡、そして元は赤色のスライムだった大量の塵屑を見回し「私有地だったらどうしよう?」などと、今更な心配をしていた。まあ、今自分がいる場所さえわからないんだから考えても仕方ないのだが。
結局、私は何かあったらその時に考えようとそこからさらに森の奥へと進んでいった。
それから何時間歩いたろうか。歩を進めても進めても、いっこうに食糧は見つかっていなかった。リンゴのような実さえ、一つとして見当たらない。
……リンゴのように赤い、スライムなら簡単に見つかるのだが。
「……スライムって食べられるのかな」
『キューー!!』
「ミディアム」
『きゅッ!?――』
ボンッ!! と、私はたったいま焼いてみた背後の食材候補に目を向けるが……
「……さすがに食えないわ」
女の子には多少ギリギリでも超えちゃいけない一線があると、私は思う。
――ピコン
「ん?」
その時、何やらステータスに反応があった。
「なんだろ。レベルアップにはまだ早い気がするけど……」
あれから私は何匹ものレッドスライムと戦ったのだが、現在の私は以下の通り……
綺堂未無
LV3→LV4
筋力:20→25
体力:90→95
強度:50→55
敏捷:30→35
魔力:100→115
称号:異世界からの転生者
となっている。
レベルアップをしたのは最初に戦った「キング」の名がついたレッドスライムを倒した時と、その後十匹のレッドスライム(キングよりもだいぶ小ぶりだった)を処理した時だけ。その後にもう一度同じように十匹狩っても私のレベルが上がることはなかった。
これは私の推測だが、おそらくこの世界にも王道RPGでいうところの経験値のようなものがあるんだろう。ステータスウィンドウにそういった経験値の表示などは無かったが、二十五匹目のレッドスライムを倒した時点でまたレベルアップしたのを考えると”レベルが上がるにつれ次にレベルアップするための必要経験値も上がっている”という線が可能性としては濃厚だ。
だからいま三十匹目のレッドスライムを倒したところでレベルアップは無いと思うのだが……。
「ま、視ればわかるでしょうけど………と?」
なんゾいとステータス画面を開いてみた私だったが、そこには私の予想外の画面があった。
【~お知らせ~ <創造魔法> 第一次成長ライン突破! 特典として<熟練度表示>を解放します → 】
「熟練度……って」
もしかしなくても、あの熟練度? 前世で見たファンタジー作品にはよく出てきた、何かしらの魔法を使うごとにその魔法が強くなっていくポイントシステムとかそんなやつ。
「これは本格的にRPGっぽく……って、ん?」
<創造魔法>? <火魔法>じゃなく?
「初戦以外は私ずっと火魔法使ってたと思うんだけど……」
とりあえずは画面の『→』ボタンを押す私。
ピコン、という電子音とともにそれは現れた。
綺堂未無
LV4
火魔法 P0(ポイント ゼロ)
創造魔法 P2(ポイント ツー)
「ん~?」
どういうこと?
火魔法 P0 創造魔法 P2
これらが私の熟練度を表していることはほぼ間違いない。しかし、今まで私が使ってきた魔法は初戦を除けば火魔法のみだ。それなのに火魔法のPが0で創造魔法のPが上がってるなんて……。
「あ」
ここで、私は転生する前おじいちゃん(神様)が言っていたことを思い出した。
『ギルガイアの大気にはエナジーというものが含まれておる。魔法はこのエナジーと体に宿る魔力を合わせることで発動するんじゃ。普通の属性魔法はこのシステムを理解してんと使えんから気をつけるんじゃぞ?』
「つまりちゃんと魔法の仕組みをイメージしてないと発動しないっていうこと……? でも、じゃあ何で……今まで使えてたのはいったい……」
と、私が熟練度の映る画面を見て考え込んでいるときだった。
――ピコン
「あっ、ちょ……何よコレ?」
先ほどと同じ電子音のようなものが頭に響くと同時に画面から熟練度の表示が消えて、代わりに赤色の『!』マークが現れていた。
私はこのマークもこれまで出ていた『→』ボタンと同じようなものと思い触れようとしたのだが、私が触る前にそのメッセージは(マークのすぐ下に)現れた。
【クエストボス レッドマスタースライム出現】
「……クエストボスってことは、これで最後ってこと?」
……まあいいわ。とりあえずこいつもちゃっちゃと倒しちゃいましょう!
「――あれ?」
気づいた時には、私は宙を舞っていた。
「ぐへッ?!」
固い土の地面に落ちた衝撃が背中に伝わる。
私はその時になってようやく自分があの怪物に弾き飛ばされたのだと知った。おそらくはあれが今回のクエストボス、レッドマスタースライムなのだろう。
全身が紅い液状になっているところまでは先ほど燃やし尽くしてきた奴らと同じ、大きさも初戦のレッドキングスライムを少し大きくした程度だ。しかし、その薄く内部が見える体の中には今までのレッドスライムたちには無かった無数の眼球がギョロギョロと蠢いている。うん、正にボスモンスターらしいデザインだ。でも……
「不意打ちとはやってくれるねぇ」
上体を起こす……碧色だった瞳を目の前の敵のように赤くして。
「ちょーど実験がしたかったのよ」
創造魔法なら、これくらい出来るわよね。
「『身体強化』」
私がそう新たな魔法を試みている間にもレッドマスタースライムは初めに出してきた野太いハンマーのような触手をその体内へ収め、代わりに今度は先端を鋭利な刃のように尖らせた(目算二メートルはあるだろう)計四つの触手をその身体の側面から二本づつ伸ばしてきた。
それに対し私は焦ることもなく空手などによく見られる正拳突きの要領で右の拳を後ろへ引き、
「ッらア!!」
放った。
次の瞬間――
ズドンッッ!!!!
まるで何かが吹き飛んだかのような重い音が森の中に響き、衝撃で舞った土煙が辺り一面を覆い隠した。
「フゥ……」
振り切った握り拳はそのまま、私は短く息を吐いて自身が渾身の拳圧で吹き飛ばした何か(レッドマスタースライム)がいる方向を食い入るように睨みつける。
ほどなくして、土煙が晴れると数メートル先に転がったレッドマスタースライムを視認できた。
私は警戒を解くことはしないながらも拳は下ろし、そこに足を進める。
そして未無は終始気づかなかったが、昔のように赤く染まっていた目もいつのまにか元の碧色へと戻っていた。
魔琴side
「久しぶりじゃのう。元気にしとったか」
そう言ってこっちに振り向いてきたのはこれでもかというほど胡散臭い仙人のような出で立ちをした白鬚白髪の老人、というか神だった。
つかお前アイツはちゃんと送ったんだろうな?
「おう、今しがた送ったところじゃい」
「しかし……」と、神は続ける。
「あの娘もとんでもないモンを抱えとるのう。流石はお主の妹じゃて」
だからこそ、アイツをあの世界に逃がしたんだろ。
「……そうじゃな」
だがこれも単なる時間稼ぎでしかない。『奴等』がこっちへ手を出してくる前にアイツ――未無にはあの能力を完全なものにしてもらわなくちゃならない。そのためには……
「ああ、少々荒療治じゃがこの際仕方ないじゃろう」
トン、と神が片手に持つ杖で軽く足元をつくとその神の目の前に此処とは違う場所の様子を映し出すウィンドウが現れた。
其処にはなんと、レッドマスタースライムの触手によって胸部を貫かれている未無の姿があった。
そして魔琴も、自身の力でそのことを知っていた。
――後はお前次第だ。頑張れ、未無。
本日はここまで……次回も書けたらいいな(´・ω・`)