1話
どうも、岸田和魔です。
本日は作者のリアル誕生日なのでオリジナルの新連載を始めようと思います。
更新は基本不定期ですが月に一度だけ完成している話をあげていくつもりなので、どうか長い目で見守りください。
気が付けば私は真っ黒い部屋に居た。
真っ暗ではない。黒いのだ。
だから私は自分の身体が見れるのだろうし、ここが密閉された四角い部屋だということが判る。
しかしどうにも妙だ。
これだけ視界がはっきりしているというのにどこを見回しても光源が見当たらない。
この部屋が黒一色に染め上げられている密室であることからして、これは明らかな異常だ。
人間の視覚というのは光を感知できなければ視界にあるものの色も形状も判別することが不可能なのだから。
窓も出入り口も見えないこの四角く区切られた空間で、視覚が機能する筈が無いのだ。
まあこのような答えの出ない問題はさて置き、今は自分の状況を整理して把握するところから始めてみよう。
私の名前は綺堂未無18歳、高校は卒業間近だけど何とかJK(女子高生)だ。
ここまでは良い。
問題はここからだ。
そんなまだ青春中でも良い筈の私は、施設に保護を受け生活していた。
それが何故かといえば、私以外の家族が全員同時に死んでしまったからだ。
といっても、私一人を残した心中というわけではない。
ただ運が悪かったのだろう。
三年前の兄の誕生日、パーティーが始まろうとしていた時。
目だし帽を被った男たちが家に押し入ってきたのだ。
……――。
これは、遠い日の記憶。
バン! バン!! と、冗談のように大きな発砲音が耳を叩く。
夕暮れ時。日常という色が抜け落ちたリビングルームに立ち込めているのは火薬と消炎、そして気が可笑しくなりそうな鉄錆の臭いだ。
その臭いの元に目を向ければ、それまで両親だった肉塊が崩れ落ちている。
そしてその肉塊を作り上げた男に捕まっている私の未来も、きっとアレなのだろうと頭は冷静にそれらを捉えていた。
しかし、残念ながら私の身体の防衛本能というべき場所は納得出来ていなかったらしい。
全身が震え汗も止まらず、終いには涙まで溢れてきた。
強盗たちにお金を用意するよう銀行へ行かされていた兄が帰ってきたのはその時だ。
さぞ驚いたことだろう。
なんせ、兄が家を出るまでは母は気絶していただけで生きていたのだから。
それが初めの見せしめで打ち殺されていた父の上に重なって、グチャグチャになっていた。
父を殺され、せめて私と母だけでも助けようという一心で兄は強盗たちの要求に従って銀行に行ったというのに。
そこから先は、よく憶えていない。
ただ、兄の泣きそうな表情を見て何とかしなきゃって思ったら急に目の前が暗くなって……。
気づいたら私の身体が自由になっていて、拘束が解かれている代わりに血塗れになっていたのだ。
いったいこの血は何だろうと思ってみれば、なんのことはない。ただの返り血だった。
では誰の血だ? そう思い至り、私は足元を見た。そこには――。
全身の骨という骨が潰れて鮮血を撒き散らす、強盗たちの姿があった。
何が起きたのか、本当に解らなかった。
だが、直感的に判った。
これは、私が作り出したものなのだと。
思考がそこまで到っても不思議と心は落ち着いていた。
自身が築いた人間の死体を見て吐き気も催さなければ、殺人を犯してしまったことへの罪悪感すら沸いてこない。しごく冷静と言えるだろう。
しかし、そうであれば説明のつかないことがある。
なぜ、脅威が去った今も私は震えている? 涙が止まらない?
まだまだ暑い季節の筈だが、なんだか酷く寒かった。
そんな言い知れぬ不安感を感じた私は、何かに縋りたい想いに駆られて兄の居た方へ視線を戻したのだが……。
『ビチャ』
「…………え?」
小さい頃、よく私の頭を撫でてくれた兄。
私が泣いている時、すぐに駆けつけてくれた兄。
いつも優しく、私に笑いかけてくれていた――私の兄。
そこに、兄は居なかった。
「否……」
あったのは、血溜りを作り続ける兄の肉塊だった。
「――――否ああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!!!」
そこで、私の意識は途切れた。
後から聞いた話によると私の悲鳴を耳にした近隣住民が警察に通報し、その一時間後に警察と救急車が到着したらしい。
私はすぐさま最寄の病院に搬送されたが、そこから一週間も目を覚まさなかったそうだ。
意識が戻った私は警察から取り調べを受け正直に答えたが、その内容は余りに荒唐無稽で非科学的なものであり嘘を付いている様子も見られないことから私はショックで気をおかしくした被害者ということでこの事件は警察の独力による捜査が行われることとなった。
しかし、私の証言が真実である以上それを認めない警察が事件を解決出来る筈も無く。
かといって、複数人が殺されている殺人事件を迷宮入りさせてしまえば国民に要らぬ不安を与え警察の面子も潰れてしまう。
そう考えた警察は多くの不審点には目を瞑り、全て強盗たちの犯行ということにしたようだ。
綺堂家の両親、綺堂正和および綺堂渚は強盗たちの持っていたショットガンによる銃殺死。
長男の綺堂魔琴および強盗半たちは死因不明のため解剖班が偽装工作を施し、世間に公表されたのは金銭目的による強盗たちの殺人と仲間割れによる同士討ちという内容だった。
閑話休題。
なぜ一般市民に過ぎなかった私がこのようなことまで知っているかというと、一人生き残った被害者として表向き事情説明を受けたからだ。
私は黙って話を聴くポーズをとりつつも、実際は警官の思考を盗み見ていた。
事件後、意識を取り戻した私は自分におかしな能力が発現しているのを自覚した。
その能力はどうやら世間的に超能力と呼ばれる類のようで、手で触れず物を動かしたり壁の向こうを見通したり人の心を読んだり出来るようだ。
何も無い所に火を付ける。という定番のものも試したかったが、万が一ボヤなど起こしてしまえば追及は免れないため控えていた。このような能力を発現したと公になれば絶対面倒な事になる。私は面倒事が嫌いなのだ。
とにかく私はそのような事情から、本件に関する警察の汚職概要を把握した。が、だから何をするというわけでもない。
面子を守りたいという大人の事情も分かるつもりだし、何より元々孤児院で引き取られていた子どもだった私に、次に自分が保護を受ける施設の詳細な資料から選択権までくれたのだ。
感謝こそすれ、文句など言えよう筈も無い。
私は数多くある資料の中から、自分が入っていた施設を見つけた。
義兄――綺堂魔琴と出会ったのもそこであり、本当の兄妹のように過ごした大切な場所だ。
そう、私たち兄妹は二人ともこの施設で育った。
まあ血の繋がりは無かったし施設に入ってきた時期も違ったから、本来なら深く関わることなど無かったろう。
けど、私たちには偶然にも珍しい共通点があったのだ。
髪と瞳の色である。
と言っても、同じというわけではない。むしろ、真逆と言って良い。
兄の髪はまるで女の子のような……というよりも女の子が嫉妬しそうなほどにさらさらとした綺麗な銀髪で、瞳は深い蒼色という正に美少年といった様相だった。
対して私はというと、燃え上がりそうなほど真っ赤な髪色で目の色も同じ。まあ能力が発現して以来なぜか目は碧色に変わってたんだけど、顔は整っている方だと思う。
これだけなら外人系の子どもというだけで特に珍しくはないのだが、日経外国人というのだろうか? 何故か二人とも髪色や目の色に反して日本人顔なのだ。
それが原因で、周りに居た他の子どもたちも私たちとの距離を掴み損ねていたのだと思う。
虐められるようなことは無かったが、私たちに進んで関わろうとする人は居なかった。
私たちが家族というレベルまで仲良くなれたのは、これも大きな理由だろう。
子どもが出来なかったという動機で私たちを引き取ってくれた綺堂夫妻が自分たちを選んでくれたのも、その辺りが決め手だったと聞いている。
本当に、優しい兄だった。
残された家は私に所有権が譲られた。
私が未成年であったこともあり相続財産の件については相当揉めるであろうことが予想されたが、その予測に反してこれはすんなりと話が済んだ。
なんでも一度強盗に襲われているような家は誰にも売れそうに無く、どの親戚も相続放棄をしたそうだ。
まあだからと言って直接の被害者である子どもに所有権を押し付けるのも人としてどうかと思ったが、私にとっては暖かな思い入れの方が強かったためこれで良かったのだと自分に言い聞かせ自立が出来る年齢になったら帰ろうと決めた。
それからの私は施設に暮らしながら学校に通い、アルバイトの出来る年齢になるとそちらも両立を始めた。
昔から早起きは得意だったという理由で選んだ新聞配達の仕事が大当たりで、就職も決まり高校を卒業する頃には施設から受けていた保護費の全てを返すことが出来た。
「これでようやくあの家に戻れるんだ」
そう言って施設生活最後の日を終えて布団に潜ったところまでは憶えている。
「(それでなぜこんな不思議空間で目を覚ますことになる? わけがわからない!!)」
と、ついに私が発狂しかけたその時。
「すまんすまん。儂が呼んだんじゃよ、お嬢さん」
仙人風の老人が話しかけてきた。
続きます。