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プロローグ

 やっと塾が終わって時刻は夜の十時。外に出ると夏とは言え、日はとっくに落ちて真っ暗だ。空を見上げると雲一つない快晴で、天の川が隠すとこなく見えた。そういえば今日は七月七日だ。織姫様と彦星様は無事出会うことができたらしい。


 家までは徒歩十五分。そのまま真っ直ぐ帰ってもいいが、途中にある公園前の自動販売機でコーラーでも買うことにした。買って歩きながら飲んでも良かったが、公園のベンチに座って飲むことにした。


 空を見上げながらコーラーをチビチビ飲んでいた。ある女の子のことを考えながら。


 ある女の子―――――そのある子とは十年前、つまり俺が六歳だったころに俺としょっちゅう遊んでいた子のことだ。彼女のことは今になってもよく覚えている。髪の色はフォクシー・ブラウンで長さは腰の長さまであり、目は鳶色で、可愛い顔して結構あの歳にしては大食いでメロンパンが大好きで―――――、言ったらキリがないくらい覚えている。幼稚園の頃に知り合って、小学校一年までほとんど毎日俺たちは遊んでいていたからな。それにたぶん、俺は彼女のことが好きだったんだと思う。こんな毎日がずっと続けばいいのにって思っていた。


 だが、十年前の七月七日、彼女は突然消えた。単なる迷子か、それとも誘拐か? 警察にも頼んで捜索してもらったが手掛かりすら無し。彼女の母親が泣き崩れ、父親がそれを宥めようとしながら自身も泣いていた。初めて大人が泣くところをみた瞬間だった。

俺もそれまで必死に彼女を探していた、が、それを見て諦めたくなかったのに、諦めようとしていた。もう彼女はいないんだと。


 そのまま諦められたら楽だったことだろう。けど、俺は時々思い返しては無性に会いたくなって、実はまだどこかにいるんじゃないか? と思おうとしている。

 正に今の状況だ。




 一気にコーラーを飲み、そろそろ帰ろうかとしていたちょうど時、コツコツと靴の音が聞こえた。

 周りを見渡すと、公園の前の歩道を歩く女性の姿が見えた。


 夜だと静かだから靴音も目立つなー


 そんなことを思っていたらその女性の十五メートルほど後ろにフードを被った男(?)らしき人がいるのに気付いた。

 直感的になんだか危ない感じがした。

 俺はその直感を信じ、ちょっと様子を見ることにした。


 そしてその五秒後、直感はあたった。


 その男らしき人はポケットから何かを取り出した。

 よくは見えないが、街頭に反射して光っている。恐らくナイフだ。

 そしてその男らしき人は前を歩く女性に向かって走っていった。


 ここで俺は見捨てるべきだったのかもしれない。

 走って行って男の前に立ちふさがっても恐らく自分が刺されて終わりだろう。

 しかし、目の前で襲われそうになっている人を見て見捨てることなどできなかった。Youtubeで護身術を勉強したこともこの決断の材料になったのかもしれない。


 俺は全力で走り男らしき人の前に立つ。

 そして構える。

 男らしき人は依然スピードを落とすことなく一直線に走ってくる。こんなナイフ持って猛突進してくる奴相手にする護身術なんて動画になかったな、とか思いつつ俺は賭けにでた。


 結論を言うと引き分けた。しかし、ボクシング的に言うと俺は判定負けになるのだろう。

 俺のストレートは完璧に相手の顔面を捉えた。そして相手を大きく吹き飛ばし、脳震盪を起こさせた、だろう。そして俺の方は右横腹にナイフを喰らい、倒れた。傷口はそこそこ大きいようで血が出てきた。


 血の量の表現をしないのは俺に表現力が無いからとかではなく、言わなくても想像できるだろうからわざと言わなかっただけだ。


 しかし今はそんなことどうでもいい。ああ、俺は死んでしまうんだろうな。

 自然と両親の顔が浮かんできた。そしてあの彼女のことも浮かんできた。

 意識が朦朧としてきた。だがまだ完全に希望を捨てたわけではない。さっきの女性はもう自分の後ろであった戦いに気づいているはずだ。そして俺をみて、救急車を呼んでくれるはずだ。だから、まだ、あきらめ……な、なに!?


 脳震盪を起こしたはずの男だと思われる奴は立ち上がった。やばい、このままだと、俺の負けだ。

 俺は負けたくなかった。気合で体を起こす。


 かかってこい!(心の中で)


 相手は瀕死の俺に向かってまたナイフで攻撃してきた。なんて非道な奴なんだ!

 俺は最後の力を振り絞り、相手の腕をつかんだ。そしてナイフ護身術で習った(見た)通り相手を転かし、ナイフを奪った。

 ここまでくれば勝ったも同然。だがこのままほっといては後ろの女性が危険だ。

 だから、仕返しも兼ねて相手の太腿にナイフを突き刺した。これで俺もお前の仲間だな。

 でも安心してくれ、動脈は外しているはず( ・ ・)だ。だから後ろの女性が救急車をよんでくれれば死にはしないはず(・ ・)だ。


 だが、俺はきっともう駄目だろうな。さっき相手の腕を掴むとき、俺の腕にナイフが当たった。もはや傷口を確認する力もないが、恐らく怪我はしているだろう。


 そうして俺の視界は真っ暗になってゆく。

 あ、そういえば相手があのとき立ち上がっても最初にナイフで攻撃してきた時点でボクシング的に言えば相手は反則負けで俺の勝ちは決定していた、ということに今気づいた。

 ……真っ暗になった。

読んでくださった方本当にありがとう御座います!

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