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お別れと新たな出会い 2

奴隷商館には、相変わらず数多の商人と奴隷がひしめいている。

先日も思ったけど、ここの雰囲気は以前と全く変わっていない。

ここが変わる事は、ないのかもしれない。


「こんにちは、灰色猫さん」

「ああ、クレハ様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました。まずはギンファの解放から、なさいますか?」

「はい、お願いします」

「かしこまりました。では。……さあ、仕事だよ。契約奴隷の解放だ。やってごらん」

「はい、わかりました」

「え?」


灰色猫さんの元に行って挨拶を交わし、ギンファちゃんの解放をお願いすると、灰色猫さんは頷き、後ろにいた青年に声をかけた。

初めて見るその青年は、灰色猫さんの言葉に頷いて、一歩前に出る。


「灰色猫さん……? この人は?」

「私の息子でございます、クレハ様。近々私は隠居して、灰色猫の名を息子に譲りますので、今後は息子、6代目灰色猫の店を、変わらずどうか、ご贔屓下さいませ」

「え!?」


は、灰色猫さんの息子さん!?

灰色猫さんが隠居!?

息子さんが、6代目灰色猫さんに!?


「は、灰色猫さんて、お子さんがいらしたんですね……っていうか、結婚してらしたんですね……!!」

「ええ。主人は冒険者をしてまして、普段は別々に生活しているので、時々しか会うことすらありませんが、心はしっかり繋がっております。……隠居後は、ずっと一緒にいる予定です」

「へぇ……!」


衝撃の事実にびっくりしたけど、旦那さんの事を口にする灰色猫さんは今までで一番優しい顔をしていた。

灰色猫さんにこんな顔をさせる人かぁ、どんな人なんだろう?

ちょっと、会ってみたいかも。


「母さん……いえ、5代目。ノロケ話よりも、仕事をしましょう」

「おっと、いけない、そうだったね。それではクレハ様、ギンファ。こちらへ」

「あ、はい」

「はい」


息子さんに促され、灰色猫さんは私とギンファちゃんを呼ぶ。

私達が息子さんの前に立つと、息子さんはギンファちゃんの解放の為の口上を口にした。

ギンファちゃんの解放が終わると、次いで、私の新たな契約、シェリーさんのお子さんとの奴隷契約を行なった。

息子さんの対応はしっかりしたもので、灰色猫さんは満足そうに眺めていた。

うん、6代目灰色猫さんは5代目灰色猫さんと変わらず、信用できそうです。

今後も、もし契約奴隷が必要になった時は、灰色猫さんのお店を利用させて貰おう。

私達は5代目灰色猫さんに、これまでの感謝とこれからの無事を祈る事、そしてお別れの挨拶を告げて、奴隷商館を後にした。


★  ☆  ★  ☆  ★


夜になった。

家のリビングのテーブルにはたくさんの料理が並び、その周りでは絶えず賑やかな声が響いている。

皆を集めての、ギンファちゃんの解放のお祝いと、お別れの会の真っ最中である。

ただ残念ながら、フレンさんとミュラさんの姿が、ないけれど。


「はぁ、また寂しくなるわね。次にギンファちゃんとライルに会うのは、1年後かしら。二人の結婚式の時ね」

「はい! 絶対皆さんをご招待しますから、必ず来て下さいね!」

「その時にまた皆さんにお会いできるのを楽しみにしています」

「その次は、僕とアージュちゃんの結婚式だね。招待するから、二人も来てね」

「そうですね! ギンファちゃんの誕生日の少し後に、私の誕生日が来ますから!」

「なっ! ちょ、ちょっと、待って下さい! ライル達だけじゃなく、アレク様達にまで先を越されるんですか俺!? ライル達の結婚の予定を聞いた時にも散々ミュラに嫌味を言われたのに、そんな事になったらまたミュラに……!!」

「……それは自業自得だろうセイル。お前がミュラの気持ちに胡座をかいてモタモタしていたからそうなったんだ」

「うっ……!!」

「……そういえば、フェザ様や僕達の式の話が出た時も、ミュラさんにネチネチと言われたって言ってたね、セイル」

「ああ……。いないフレンさんの代わりに私達が飲みにつき合わされた時ね」

「……くっ、思い出させないでくれ、二人とも……」


ライル君とギンファちゃんに続いてアレク様とアージュの式の話が出たところで、セイルさんが悲鳴にも似た声を上げる。

それをフェザ様が冷ややかな声で一蹴すると、ソールさんとリィンさんが追い打ちをかけた。

さすがは仲間、こんな事まで息ぴったり。


「うぅ…………クレハちゃんとシヴァ君は、俺達の先を越したり、しないでくれるよな……?」

「えっ? ……そ、そうですね? そもそも、私にはまだそういう相手すらいませんし……」

「「「「「 へ? 」」」」」

「「「「「 え? 」」」」」

「?」


セイルさんに突然話を振られ、私が若干俯きながら言葉を返すと、何故か皆が一斉に私を見て、怪訝な声を上げた。

その理由がわからず、私は首を傾げる。

すると、皆の視線はゆっくりとシヴァ君に向かう。


「………………」


シヴァ君はその視線を受け止めるも、無言でお茶を口に運んだ。


「あ、あれ……?」

「……え、えっと……」

「おい……まさか」

「……そうですね。俺もクレハも、まだ相手すらいませんから。セイルさん達の先を越すのは難しいかと。……ミュラさんの出向があと4年や5年にも及ぶなら、わかりませんが」


アージュやリィンさん、フェザ様から戸惑ったような声が上がると、シヴァ君はお茶の入ったカップをテーブルの上に置いて、セイルさんにそう答えた。


「え、あ、そ……そうか……。いや……悪い、悪かった、シヴァ君……」

「……結構、わかりやすいと思うんだけど……気づいてすらないんだね……」

「……そうなんですよね。まさか、クレハ様がこうも鈍いとは」

「……私はてっきり、クレハちゃん達はそういう関係だと思っていたわ。違ったのね……」

「はい。……クレハちゃんが恋に目覚めるのは、いつでしょうね……」

「え、何? 私が何?」

「「「「「 ……何でもない…… 」」」」」


顔を見合わせて小さく呟かれる声は聞き取りづらくて、聞き返せば、誤魔化された。

皆、突然、どうしたんだろう?


「え、ええと、とにかく。ミュラが帰ってきさえすれば、俺の問題は全部解決するんだよなぁ。1年以内に帰って来たなら、ライル達よりも早く式を上げられるのに……! ミュラ~~……!!」

「おやおや。大丈夫かい、セイル君?」

「ふふ。ミュラちゃん、早く帰ってくるといいわね」


ミュラさんの名を呼びながら、セイルさんはテーブルに突っ伏した。

その様子を見て皆が苦笑し、話題はまたセイルさんとミュラさんの事に戻っていく。

私は僅かな疑問を残しつつも、セイルさんをからかう皆の話に、セイルさんを傷つけないよう適度に相槌を打った。

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