お別れと新たな出会い 1
本編開始です!
トルルの街の街門前で魔法の絨毯から降り、小さくたたむ。
そして街門から伸びる、街の出入記録待ちの列に並んで、自分達の番を待つ。
少しずつ進んで行くと、手続きをしている騎士様の姿が見えた。
「あ、今日はセイルさん、街の見回りじゃなく街門でお仕事なんだね」
「そうみたいですね。『その日は問題がなければ半日で終わる』って言ってたのは、怪しい人物の出入りがなければって事だったんですね」
「ああ。まあ、この街ではそんな輩は滅多にいないから、大丈夫だろう」
私達は、一人一人順番に手際よく手続きを済ませていく騎士様、セイルさんを見ながら、そんな話をする。
「お待たせしました、次の人……って、クレハちゃん達か!」
「こんにちは、セイルさん。はい、身分証」
「こんにちは。俺のも、どうぞ」
「私はまだありませんよ~!」
「はは、わかってるよ。……よし、手続き終了。通っていいよ。ライルがさっき通ったけど、待ち合わせかい?」
「あ、はい。ありがとうございました、セイルさん」
私とシヴァ君はセイルさんに身分証を渡し、街へ入る事を記録してもらってから身分証を返して貰い、門をくぐった。
そしてまっすぐに、奴隷商館を目指す。
「ああ、楽しみ! 久しぶりにライル君に会えます!」
「そうだね。……しかもこれからは、また頻繁に会えるもんね? ギンファちゃん?」
「はいっ! ……でも、そのかわり、クレハ様やシヴァ君やイリスさん……他の皆さんにも、会えなくなりますけど……」
「……寂しくなったら、遊びにくればいい。俺達もそうするから」
「うん、そうだよ! それに、親愛の水晶だってあるしね。いつでも話せるし、時々は会えるよ、ギンファちゃん!」
「クレハ様……シヴァ君……。……っ、はいっ!」
私とシヴァ君は言葉に、ギンファちゃんは少しだけ目を潤ませ、笑顔で頷いた。
私が、シヴァ君やギンファちゃんと出会ってから、6年。
私は15才になった。
そして今日は、ギンファちゃんとの契約が終わる日。
ギンファちゃんは故郷に帰り、ライル君を家族に紹介し、またライル君もギンファちゃんを家族に紹介して、来年のギンファちゃんの成人を待って、結婚する予定だそうだ。
だから、ギンファちゃんとの生活は、今日で終わる。
だけど、友人としての交流は、これからも続いていく。
だから…………寂しくは、ない。
★ ☆ ★ ☆ ★
「あっ! ライルく~~~ん!!」
「ギンファちゃん!!」
奴隷商館がはっきり視界に入ると、その前にいたライル君をギンファちゃんが見つけて、駆け出した。
ライル君もまた、ギンファちゃん目掛けて走り出している。
そして至近距離まで近づくと、その勢いのまま二人はきつく抱き合った。
「久しぶり……! 会いたかった!!」
「僕もだよ! やっと会えた……!!」
……もしもし、お二人さ~ん?
そこ、一応公道ですよ~?
道行く人が見てますよ~?
いいんですか~?
「……あの二人の熱愛ぶりは、変わらないな」
「うん……本当にね」
人目も憚らず二人の世界を作るギンファちゃんとライル君を見て、私とシヴァ君は呆れたような声を出した。
次いで、私は奴隷商館の前で所在なさげに佇む女性に視線を移す。
「ライル君、ライル君。あの人が、手紙にあった人?」
「あっ、はい、そうです! すみません、クレハ様、お久しぶりです!」
「うん、久しぶり。じゃあ、紹介して貰える?」
「はい! シェリーさん!」
私が視線を女性に向けたままライル君に近づき、声をかけると、ライル君は私のやっと存在に気づいて挨拶してくれた。
私も挨拶を返して、女性の紹介を促すと、ライルは頷いて、女性の名を呼び、手招きした。
すると女性は、躊躇いがちにゆっくりと歩いてくる。
「シェリーさん、この人が、この前話した人だよ。クレハ・カハラ様。僕がこの街でとてもお世話になった人の一人だよ。隣は、シヴァ。僕の友達だよ」
「初めまして、クレハ・カハラです。ライル君から話は伺ってます。お辛いでしょうけど、生きなきゃ駄目ですよ? 私も、精一杯お手伝いさせて頂きますから!」
「シヴァです。初めまして。クレハと一緒に住んでますから、これからよろしくお願いします」
「あ……は、初めまして、シェリー・マグマシルです。……この度は、ご迷惑をおかけする事になり、申し訳もございません……」
「そんな、謝る事はありませんよ。出費する分は、しっかり働いて貰うんですから! よろしくお願いしますね、シェリーさん」
「あ、は、はい! 頑張ります! こちらこそ、よろしくお願いします!」
「はい。それじゃ、行きましょうか!」
私達は挨拶と自己紹介を済ませると、奴隷商館の中に入って行った。
ーー事の始まりは、二週間前の夜、親愛の水晶を通して、ライル君から告げられた話から始まった。
アイリーン様との契約期間を終え、故郷に帰ったライル君は、毎日朝と夜に、親愛の水晶を使ってギンファちゃんと二人の会話を楽しんでいた。
けれどその夜は、私達全員に話があると言っていると、ギンファちゃんが呼びにきた。
そして、リビングに集まった私達に、ライル君がある相談を持ちかけてきた。
内容は、両親に結婚を反対されてかけおちした一族の女性が、夫に浮気された上知らぬ間に借金を背負わされ捨てられ、ボロボロになって帰ってきたが、両親は既に事故で亡くなっている事を知り、絶望したその女性が2才の幼い子供と共に自殺をしようとした。
それはなんとか止めたけど、女性が背負った借金は高額でどうにもならない。
アイリーン様にも相談して、何か手立てがないか考えて欲しいというものだった。
相談を受けた私達は、翌日早速アイリーン様の元へ行き、話をした。
そして、ひとつの手立てを打ち出した。
2才の子供を灰色猫さんの元へ契約奴隷として売り、そのお金で借金を返す。
売られた子供は私が買って、その出費額を、女性が私の家に住み込みで働きながら、少しずつ返していくというものだ。
情に厚い灰色猫さんは、『本来ならば働く事のできない幼子を買う事はできませんが、契約奴隷の買い手であるクレハ様が納得しているのならば、そのお話、承諾致しましょう。私にも損はございませんし、何より、お得意様であるお二人の頼み事でございますからね』と、二つ返事で引き受けてくれた。
そういうわけで、今日はギンファちゃんの解放と、シェリーさんのお子さんを買う為に、奴隷商館へと足を運んだのであった。
前回の人物紹介で、灰色猫さんと精霊達の事を書く事を忘れていました。
けど、まあ……大丈夫だよね( ̄∇ ̄;) ←