シヴァの悩み事
「ねぇシヴァ君、私そんなに頼りない? 悩み事も相談して貰えないほど、ダメかな?」
「え……」
数日が経って、今だに何も話して貰えない事についに痺れを切らした私は、シヴァ君の部屋を訪れ、話を切り出した。
シヴァ君は私の突然の行動に、目を見開いて驚いている。
「……突然、ごめん。でも、いつまでも何も言って貰えないのは、寂しいよ。私にとってシヴァ君は大切な家族なのに。……もし、悩んでる内容が女の子には話せないような事なのなら、フレンさんやフェザ様、ソールさんもいるんだし……その、とにかく、一人で悩まないで、さ。誰かに相談しようよ? ね……?」
「……クレハ……」
本音を言えば、私に相談して欲しい。
でも、女の私には話せないから何も言わずに一人で悩んでるって可能性もある。
それなら無理に話さなくていいけど、フレンさん達には相談して欲しいと思う。
「ね、シヴァ君? 誰かに相談すれば、解決するかもしれないしさ?」
「……そうだな。わかった。……なら、クレハ。聞いてくれるか?」
「! 私でいいの!? 勿論聞くよ! 何っ?」
「錬金術の材料で、まだ手にした事のない物が欲しいんだ。だから、旅行に行かないか?」
「……えっ? ……な、悩み事って、それ……?」
「ああ。……クレハは、ユージンさんの歌を聞きたがっていたから、言い出せなかったんだ。ごめん」
「あ……! そ、そっか……! ううん、私こそごめんシヴァ君! いいよ、旅行に行こう! ユージンさんの歌は確かに聞きたいけど、シヴァ君のほうが大切だもん!」
「!」
「すぐに皆に伝えて、支度しよう! あ、でも、どこに行く? まだ行っていない所だと……? う~ん、結構、遠くになる? どこがいい、シヴァ君?」
「え、あ……フ、フレンさんに、聞こう。旅に出てたフレンさんなら、いい場所を知ってるかもしれない」
「あ、そうだね。フレンさんは確か、リビングにいたよ! 早速聞きに行こう!」
「ああ」
シヴァ君が頷いたのを確認すると、私は部屋を出て、二人でフレンさんがいるだろうリビングに向かった。
……それにしても、ただ新しい材料が欲しかっただけかぁ。
私はてっきり、もっと深刻な悩み事なんだと思ってたよ。
私があまりにもユージンさんの歌に夢中になってたから言い出せなかったんだろうけど……うん、これは、ちゃんと伝えておいたほうがいいかな。
「ねぇシヴァ君。初めての吟遊詩人さん来訪に夢中になってた私も悪いけど……行きたい所とかやりたい事があるなら、次から遠慮せずに言ってね? シヴァ君達以上に大切な事なんて、私にはないんだから」
「クレハ……! ……ああ、わかった。ありがとうクレハ。次からは、そうするよ」
「うん!」
後ろを歩くシヴァ君を首だけで振り返り自分の思いを伝えると、シヴァ君ははにかんだように微笑んで、頷いてくれた。
良かった、これできっと、遠慮して一人で我慢するなんて事は、もうないよね!
★ ☆ ★ ☆ ★
「クレハちゃんとシヴァ君がまだ手に入れてない材料のある場所?」
「はい。何か心当たりはないですか? フレンさん?」
「あるなら、その場所に旅行を兼ねて行こうと思うんです」
「へぇ、旅行に。……となると、それなりに遠い所がいいよね、シヴァ君? ……う~ん……」
リビングでフレアちゃんと遊ぶフレンさんに、まだ見ぬ材料のある場所について尋ねると、フレンさんは何故か一瞬悪戯っぽい笑みを浮かべてシヴァ君を見た。
次いで心当たりを探るように目を閉じて考え出す。
「そうだなぁ……君達がまだ手にしてないとなると、珍しい材料だよね。というと……うん。……ねぇ二人とも。レアメタルと万年氷、どちらがいい?」
「「 えっ!? 」」
少しの間の後、フレンさんが発した言葉に、私とシヴァ君は目を見開いて驚愕の声を上げた。
レアメタルと、万年氷。
それはどちらも稀少な材料だ。
その在処を、フレンさんが知っている……?
「ど……どどど、どうしよう!? どっちがいい!? どっちにする、シヴァ君!?」
「ク、クレハ、落ち着いて、落ち着こう! ……フ、フレンさん、本当に、その二つの在処を?」
「うん、知っているよ。どちらも、旅の間に立ち寄った場所の近くにあるって聞いたんだ」
「「 !! 」」
知ってるんだ、本当に!
さすがフレンさん、何年も旅に出てただけはあるね……!!
そんな稀少な材料の在処がわかるなら、私もちょっと旅してみたいかも……!!
シヴァ君の問いかけに自信満々に頷くフレンさんを、私達はキラキラと羨望にも似た眼差しで見つめた。
「それで、どうするの? どっちの在処が、まず知りたい?」
「あ……! そうですね……えっと。……うん。今回の行き先は、シヴァ君が決めていいよ? 新しい材料をって言い出したのは、シヴァ君だし」
「えっ……。……そ、そうだな……じゃあ、万年氷を。今の寒い時期なら暖かい格好をするから、持ち運ぶのに冷たくても、そうは苦じゃないだろうし」
「あ、そうだね! 逆に暑い時期だと、途中で氷、食べたくなっちゃうかもしれないし」
「そう、じゃあ、万年氷だね。万年氷は、隣国の北方にある氷山にあるよ。風邪をひかないように、準備して行っておいで」
「はい! ……って、え? "行っておいで"って、フレンさんは行かないんですか?」
「うん、僕はやめておくよ。フレアを置いて行きたくないし、連れていって風邪をひかせたくもないからね」
「あっ、そうですね。わかりました」
「なら、フェザ様達にも声をかけよう、クレハ。二人だけで、初めての隣国まで、しかも氷山に行くのは厳しいだろうから」
「う、うん、そうだね」
フレンさんの留守番発言を受けて、私達はフェザ様の部屋へ行って、旅行する事を伝えた。
これを聞いたフェザ様は旅行に乗り気で、すぐにイリスさんを誘い、次いで親愛の水晶を使って、アレク様にも声をかけた。
結果、アージュも行く事になり、初めての隣国への旅行は、六人で行く事となった。




