昼下がりの電話
某日の昼下がり、とある主婦の元に一本の電話がかかってきた。
電話に出てみると、受話器からは沈んだ調子の男の声が聞こえてきた。
「もしもし」
「……母さん。俺だよ、俺」
「あら、こんな昼間にどうしたの」
「ちょっと、相談があってさ」
「相談って、何?」
「実は昨日、車で事故を起こちまってさ」
「まあ! それは大変」
「相手に車の修理費を払わなくちゃならなくてさ。その……俺の持ち合わせだけじゃ、足りないんだよね」
「あら、いくら必要なの?」
「ああ……三十万、くらいかな」
「三十万ね。わかったわ、私が払ってあげる。で、どうしたらいいの?」
「今から一時間後くらいに俺の友達が金を取りに行くからさ、そいつに渡してくれないかな。それまでに、母さんは金を引き出しといてくれよ」
「わかったわ」
「じゃあね。今回は、恩に着るよ」
「あなたも、次からは気をつけなさいよ」
主婦は電話が切れたのを確認し、そっと受話器を置いた。そして、まもなくしてもう一度受話器を手に取り、番号を一・一・〇とプッシュしながらこう呟いた。
「まあ、さっきの人に次があるかどうかはわからないけどね。普通は、狙った家に息子がいるかいないかくらい調べてから詐欺を働くものだと思うのだけれど……」