ハルミノヒ
日常編エピソード晴美です。
「晴姉ぇ起きて!遅刻しちゃうよ!」
「…ん。起きた」
「じゃあ布団から出て!」
「ん…」
まだ眠たそうな目を擦りながらベッドから這い出てきたのは焙烙晴美。
歴史研究部部長の3年。
その晴美を起こしに来たのが妹の明日香。
時計は現在6時。
家を出るのは7時半なので慌てることもない。
ただ明日香が定時に起こしに来るのだ。
そんなわけでちゃちゃっと制服に着替えリビングへと向かう。
実際はリビングというよりはお茶の間といった方がしっくり来るのが焙烙家。
昔ながらのたたずまいながら、やたらデカい。
二階はないが、縁側がある。
いわゆる「お屋敷」といった家。
築100年を数えるのに未だに強固なこの家は、今までいかに大切に使われてきたかを物語る。
朝食や身支度を済ませると学校へと向かう。
家を出るのは明日香と一緒。
駅で別れて電車は別の両に乗る。
明日香は一年生組みで固まるらしい。
晴美は電車内は1人。
音楽を聴きながら学校へ行くのだった。
学校につき、下駄箱を開ける。
その時、小さな異変に気づく。
上履きの上に手紙が一枚。
見てみると「今日の放課後、屋上に来て下さい」と少し震えながらも丁寧な字で書いてあった。
「なっ…!」
短く声を出して驚いたあと、晴美はダッシュで自分の教室へと向かった。
そして友人の大祝楓がすでに登校していることを確認するとすぐに駆け寄った。
「どしたの…?」
勢いにキョトンとする楓。
「呼び出された!私何かやらかしたっけ?」
晴美はそう言って手紙をみせた。
「……ん~…?」
手紙をよく見てみた楓。
「…どこにあったのこれ?」
「下駄箱。しかし何故下駄箱に…?何先生に呼び出されてんだ私は?」
「……古典的なことする人もいるのねぇ」
晴美は意味が分からないといった表情で楓を見る。
「まあ、言われたようにしてあげなよ」
「…なんか怖いな」
「え?あ…。何か勘違いしてるみたいだから言っとくけど、呼び出したのは先生じゃないはずよ」
「そうなの?じゃあ直接言ってくれればいいのに」
「それができる状況じゃないのよ」
「…?」
分からないといった表情をした晴美。
「じゃあさ、一緒に来てよ!」
「ダメ!まあ影からこっそり見ててあげる。私も興味あるし」
「楓が興味あることか。心霊現象か?」
「私はオカルト好きなイメージなの?違うからね!まあ放課後を楽しみにしてればいいのよ」
「そういうもんか…」
「そーそー。でもいいな~。手紙貰えるの」
「…?いいの?」
「うん」
考えながら晴美は席についた。
あえて手紙の正体について言わなかったのは楓なりのちょっとした意地悪。
晴美の席は窓際の一番後ろ。
いわゆる主人公席。
楓は一番廊下側の前から三番目。
結構離れている。
そんなわけで、休み時間の時は楓の席まで出張していることが多い。
別に周りの席の人と仲が悪いわけではない。
「おはー!ハルミン」
毎朝隣のクラスからやってくるこの人がいるからだ。
「おはようすみれ」
晴美が挨拶を返したのは吉川すみれ。
わりと適当な生徒会員。
すみれが来たら楓の席に移動して話しこむ。
これがいつもの流れ。
話す内容はどうでもいいことが多い。
「何かこんな手紙もらった。呼び出された」
晴美が例の手紙を差し出す。
「何~?ラブレター?呪いの手紙?」
笑いながら手紙を手に取るすみれ。
「今日の放課後屋上で待ってます…?ハルミン、何やらかしたの?」
「すみれもその発想かー!」
楓がツッコミを入れた。
「あははは!んで、これどこにあったのさ?」
「下駄箱に入ってた」
「…うわっ!マジなラブレターかよ!しかし古典的な…。差出人は書いてないね。誰だろ?」
「おー、手紙の正体を知った瞬間あからさまに興味を持ったね~」
「そりゃ私を差し置いてハルミンがラブレター貰うなんて。相手に興味湧くでしょ」
楓の冷やかしがまるで届かないすみれだった。
「ラブレターなんて…。私はどうすればいいんだ?」
「とりあえず放課後屋上に行けばいい」
ちょっと考える晴美。
「あ!今日は部活で忙しいから」
どうやらできれば行きたくないらしい。
「行かないと!ね、晴美!」
「…わかったよ」
楓に言いくるめられる形で晴美が折れた。
しばらくしてやってきた担任。
小太りな外見からニックネームはポンポコ。
因みに本人公認。
授業内容以外は人気がある。
「人はいいけど授業がね…」と言われていたら大抵この人。
出欠確認のあと1限。
授業は英語。
晴美は集中出来なかった。
手紙の差出人が気になる。
少し考えてみた。
昨日下校したのが部活のあと。
つまり5時半過ぎ。
運動部は活動中だった。
帰り際に野球部を見たから間違いないはず。
全ての運動部が活動していたとも限らないけど。
…ダメだ。まるで分からない。
放課後まで待つしかないだろう。
そんな調子で、午前中は全く集中することなく授業が終わった。
昼休み。
購買から戻る途中、ひなたに出くわした。
「あ、ひな!これからお昼?」
「…はい。…えっと。…購買でパン買いたいんです」
ひなたは不安げに言った。
「あ~、混むからね~。一年生は気が退けるよね」
「…はい」
……。
ちょっと続いた無言の時間。
そのあと。
「買ってきてあげようか?」
晴美はそうきいた。
「…え?あの…。…いいんですか?」
ひなは一番期待しながら、一番無いだろうと思っていた選択肢を提示されてちょっとうろたえた。
「いいよ!ただ、種類は選べないかも」
「…ありがとうございます」
ひなたが頭を下げると、晴美は人だかりのできる購買へと突っ込んでいった。
1分後…。
「とりあえず3つ」
晴美はサンドイッチ2つ、焼きそばパン一つをひなたに手渡した。
「あ、ありがとうございます…。お金は…」
「いいよいいよ!私だってたまには奢るよ!」
晴美に言われ、ちょっと考えたひなた。
「…私、3つも食べれないんで…。先輩一つもらってください」
「そう?じゃあサンドイッチ一つもらうよ」
「…はい!」
「それじゃ私そろそろ戻るね」
晴美は軽く手を振って教室に戻った。
「おー、ハルミン遅かったじゃん」
「ちょっと後輩捕まえてた」
「乙葉ちゃん?」
「いや、ひな」
購買から戻り、貰ったものもあわせて3つのパンを持ち楓の隣の席に座った晴美。
因みに席の主は不在。
あんまり知らない男子だけど、休み時間ギリギリまでどこか行ってるから使わせてもらう。
楓の席にはすみれが座っている。
席を離れた隙をついて奪ったのだろ。
楓は自分の前の席。
仲の良い女子の席に座る。
「すみれっていっつもこっちのクラス来るけど向こうに友達いないの?」
楓が弁当を出しながら聞いた。
因みにすみれも弁当である。
楓は自分で作ったものを持参。
すみれは自分の教室から弁当を持ってきている。
「いるよ?生徒会長とか」
1人しか例を出してないが、顔が広い楓のことだ。
付き合いには苦労しないだろう。
「んで晴美。さっきの手紙どうすんの?」
楓が訊くまで忘れていた。
「あ…。ん~…。行かな」
「行かなきゃダメよ?」
晴美の言葉は遮られた。
「ハルミン行かないなら私が!」
「それもダメだから…」
すみれの申し出も断られた。
「ちゃちゃっと断っちゃえばいいのよ」
楓が心無いことを言った。
「なんか悪い気がするじゃん」
「え?何で?」
「いや、なんとなく」
「んじゃ付き合えば?」
「それも嫌…」
「なんで?」
「なんとなく…」
晴美が答えを出せないまま迎えた放課後。
晴美が掃除している間、当番のないすみれと楓は待機していた。
掃除は15分もすれば終わる。
「さてハルミン行きましょうか」
後ろから肩に手を回してすみれが言った。
「うぅ…」
3人は屋上への階段を上った。
「私たちはここまでね」
屋上に続く最後の階段の前で2人は足を止めた。
「んじゃ行ってくる」
晴美だけその先へ進んだ。
屋上の扉に手をかける。
一呼吸置いて、一気にドアノブを回す。
青い空に浮かぶ羊雲。
それは多すぎず少なすぎず、バランスを保っている。
そんな空の下、屋上の真ん中辺りに人が立っていた。
反対側を向いていて、まだ晴美には気付いていない様子。
「あの…」
晴美が声をかけた。
「え?あ!は、晴美さん!」
慌てて振り向いた。
中性的な顔立ちをした、明るい黄色い短髪。
スカートを穿いた…。
女子。
「えっと…?」
知らない顔。
色々考えていた分拍子抜けだった。
「ボクは朱雀大路希美子。覚えてない?」
ん~…と考えてみた晴美。
朱雀大路…朱雀大路…?
「まあ無理もないか…。晴美さん、ボク意外も見てなきゃいけなかったからね」
「…?」
「覚えてないかなぁ。幼稚園の時、晴美さんが遠足の班で班長やってて、ボクはその時の班員だったの」
これで思い出した。
「あ…!思い出した!確か一番後ろ歩いてた…」
「そうそう!」
希美子が語るには…。
友達と班が別れちゃって友達が居なかったボクに、班長だった晴美さんが声をかけてくれた。
そのおかげで楽しく過ごせた。
簡単に言えばこんな感じ。
「それで、何で手紙を…?」
晴美がきいた。
希美子は訳を話してくれた。
「同じ学校だって今更知って、どう声かけていいか分からなかったし…。忘れられてたら気まずいし…。ゆっくり話したかったからさ…」
「そんな気にしなくても良かったのに」
「だって…実際忘れてたし…」
「あはは…」
晴美は苦笑して見せた。
「ねぇ…」
「ん?」
ちょっと緊張したような顔をする希美子。
それもつかの間、覚悟を決めた目をして叫んだ。
「ボクの友達になってください!」
「お?うん、いいけど…」
「けど!?」
「いや、なんか突然過ぎてビックリしただけ。いいよ!こちらこそ!」
その後2人はアドレスを交換した。
「んじゃ私は部活だからまた」
「あ、そうなんだ!何入ってんの?」
「歴史研究部。希美子は?」
「ボクは弓道部!まぁ部員も少ないしユルユルなんだけどね」
そう言って希美子は笑った。
「それじゃまた明日!」
「うん!晴美さん!」
晴美は屋上を出て言った。
階段の下ですみれと楓が出迎えた。
「ねえ、誰だった?」
「私も気になる!誰?」
言い寄る2人。
「朱雀大路希美子だった」
「あれ?女子?」
すみれがキョトンとしている。
「うん。希美子。友達になってって」
「ラブレターじゃなかったんだ…」
残念そうな楓。
「でもさ~、火の鳥も手の込んだことするね~。直接話しかければいいのに」
すみれが言った。
「火の鳥?」
「朱雀大路のこと。同じクラスだし最近私も仲良いよ。なんか…ムードブレイカーな感じ?」
「すみれって顔広いわよね~…」
楓が感心していた。
「ていうか、やたら私にハルミンのこと聞いてきたのは仲良くなりたかったからか~」
「聞かれたの?」
「うん。幼稚園がどこだとか。私も知らないってーの」
呆れ気味にすみれが言った。
「幼稚園が同じだったんだよ」
「あー、そゆこと」
そんな会話をしながら晴美は社会科資料室に向かうのだった。
翌日。
「おはよーハルミン!楓!今日からは火の鳥も一緒だよ!」
「すみれさん。ボクは朱雀であって火の鳥ではないんだよ!」
隣のクラスからやってくるのが2人になり、ちょっとだけ騒がしくなる晴美のクラスの朝だった。
朱雀大路希美子。
我ながら凄い名前だよね…。
ボクっ娘は特に意味があったわけじゃありません。
いろんなキャラ出してみたいなと。
まあそんな感じです。