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倭鏡伝  作者: あずさ
幕間「主よ我が加護の元へ」
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99/153

8


 翌日の天気は快晴だった。こんな森の中でもわかるほどだ、間違いない。


「気をつけて帰るんじゃぞ」


 東雲が声を掛けると、二人の少年は笑顔でうなずいた。

 一晩の内にずい分すっきりしたのだろう。春樹の様子は当初よりしっかりとしている。


(……ま、セイ坊がついているなら当然だな)


 何となく楽しげに思い、セーガを見る。

 それに気づいたセーガは柔らかく微笑ってみせた。そっと歩み寄ってくる。


――“……主人は、大丈夫ですよ”


「……そうか。ま、歳の割になかなか考えてるようだしな」


――“ええ。……東雲殿が心配していることには、きっとならないでしょう”


「それだといいが」


 苦笑し、どこか懐かしく思う。

 東雲も春樹と同様――いや、多少は違うのかもしれないが――セーガの存在を重荷に感じたことがあるのだ。

 結局東雲は反発し、そして王になることはなかった。

 それ自体を後悔しているわけではない。今の生活にも満足している。


 だが、それでも時々思うのだ。

 もし、もう少し考えてみたら。王になろうとしていたら。

 何かを変えることが出来たのでは……と。


 きっと自分は、王にならなかったことよりも、自ら可能性を狭めたことを後悔している。

 ただ反発することしかわからなかった自分に後悔しているのだ。


 そんな気持ちを味わうのは、自分だけでいい。



「おまえらもまたな!」


 ふいに大樹の声が響き、東雲は我に返った。

 見れば、彼は笑顔で何かを抱きしめている。

 その抱きしめていたものは――何と最初に彼らを襲った例の生き物だった。


「ター坊……? いつの間に仲良くなったんじゃ?」

「へっ? ついさっきだぜ」

「何じゃと?」


 笑顔で答えた彼に目を丸くする。

 この生き物は結構人見知りするタイプで、東雲自身、慣れてもらうには少々時間がかかったのだ。

 そのおかげで今は信頼関係が成立しているのだが、それを大樹はこの短時間で得たというのだろうか。


「大変じゃったろ?」

「ん? 別に?」

「だが……」

「あの、こいつって馴れ馴れしくって。所構わず仲間入りしていくんです」


 納得出来ない東雲に、春樹がそっと苦笑した。だが、大樹は不満そうに頬を膨らます。


「別に馴れ馴れしくねーもん。ただこっちから心開けばいいだけの話だろ?」

「心を?」

「そっ。ほら、相手に名前を聞くときはまず自分からってよくゆーし♪」


 わかったような、わからないような。


 東雲は微妙な気持ちで低く唸った。

 昨日のことを思い出す。昨日、彼と二人でいたときに告げた言葉。


『お主の“力”は――呪われとるかもしれん』


 ちっとも聞く耳を持たず、「いいから春兄に謝れ」と主張していた彼がどう思ったかはわからない。

 もしかしたら本当に聞いてすらいなかったかもしれない。

 だが、例え聞いていても、いなくても。


「ター坊なら大丈夫なのかもしれんのぉ……」

「へっ? 何か言ったか?」

「……いや。二人とも、また暇があったら来るといい」


 首を振り、二人に笑顔を向ける。すぐに大樹も笑顔を返し、春樹もゆっくりと微笑んだ。

 セーガに乗るよう大樹を促した春樹は、きっちりと頭を下げてくる。


「お世話になりました。お言葉に甘えてまた来ますね」

「ああ」

「そのときはヤキモチも程々にお願いします」

「…………」


 小さく笑った彼に、東雲はしばし言葉を失った。

 その間に「ありがとうございました」と告げ、彼はセーガに飛び乗り、今度こそ二人は離れていく。

 最後にセーガがチラリと振り返り――とうとう彼らの姿は見えなくなった。


「……ふーむ」


 頭も掻き、彼らが向かった先を見やる。


「バレていたか」











「春兄? 何だヤキモチって?」

「ん? ……セーガを僕に取られた気分で、東雲さんも少し悔しかったんじゃないかなって」


 悔しいという感情は厳密には違うかもしれない。だが複雑だったのは間違いないだろう。


「ふーん? よくわかんねーけど……よく春兄はわかったな」

「そりゃ、僕もセーガの主人だからね」

「?」


 東雲の立場になって考えてみれば想像するのは簡単だった。

 ――セーガを独占したくなるような気持ちはよくわかる。それだけセーガは大切な存在なのだ。


「それより大樹。おまえ、東雲さんと二人でいたときあったろ?」

「……春兄がさっさと部屋に行っちゃった後か?」

「そう。大樹は部屋に来るの遅かったけど……一体何話してたんだ?」


 尋ね、そっと顔だけ向ける。

 大樹はしばらく目をぱちくりとさせていた。そんな状態の後で首を傾げ出す。


「あー……うん」

「?」

「忘れちった」


 がくっ。


 あっけらかんとした大樹の笑顔に脱力する。さすが大樹と言うべきなのか……。

 この様子だとただの雑談でもしていたのだろうか。

 あんなイライラした状態の大樹がただの雑談で満足出来るのか疑問なところだが。


「んなことよりさ。城、見えてきたぜ!」

「ホントだ」

「あーオレ腹へったー! 眠いし!」

「東雲さん、異様に早起きだったもんね……」


 しかもそれに合わせて自分たちは叩き起こされた。

 準備して早々と出発したので朝ご飯もまだである。大樹の反応にも納得だ。


――“そろそろ降りるぞ”


「うん、ありがと」

「サンキューセーガっ♪」


 二人の礼に応えるように、セーガはゆっくり、ゆっくりと高度を下げていく。


 春樹はそっと空を仰いだ。

 確かに眠いが――吹き抜ける風が涼しく心地良い。夏の陽射しもほんの少し和らいでいる。


(たまにはこんな朝もいいかもね)


 そう独りごち、春樹は小さく笑った。



 様々な想いを乗せ、夏風がさらりと駆け抜ける。







―END―








「にしてもじーちゃんの年齢ってさ……」

「リアルに計算すると怖いよね……」







■幕間「主よ我が加護の元へ」了









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