8/153
プロローグ それは優しい、
静まり返った夜、少女はふと目を覚ました。
ぼんやりした頭に響く、美しい音色。
懐かしいメロディー。
(…………?)
落ちてくる瞼を必死に押し上げながら、少女はソレが何か知ろうとした。
まとまらない頭で考え、ようやくその正体に気づく。
オルゴールだ。自分が大切にしている。
しかし――なぜ?
オルゴールが勝手に鳴り出すはずがない。
どんなに眠くてもその事実に気づくことは出来た。
さらに、今この部屋にいるのは自分だけのはずだということも。
これは夢なのか現実なのか。
ウトウトとそんなことを考えた少女は、いないはずの人影を見たような気がした。
こちらを覗き込むように笑う、優しい影。
「……ママ……?」
――帰ってきてくれたんだ。
そう呟くとどこかホッとして、少女は心地良い眠りへ身を任せた。
そっと、優しいメロディーが止まる。




