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倭鏡伝  作者: あずさ
5話「影の自分にご注意あれ!」
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45/153

5封目 バカだからこそ風邪をひく

 ズルズルズル……


「――んまいっ」

「……どうも……」


 春樹はほとんど上の空で呟いた。もっちーから目を離すことが出来ない。

 さらに言うならば、麺やスープがヌイグルミの中に消えていくのを見ていることしか出来ない。


「……中の構造、どうなってるの?」

「ん? フツーやで。一体化してるようなもんやから」

「じゃあ胃袋とかもちゃんとあるんだ?」

「厳密に言うとちょう変わってくるんやけど……まあ、そーゆうことや」

「へえ……」


 ということは、このヌイグルミは今、生きていると言っても間違いではないわけだ。


「ふ~……ごっそさん」

「お粗末様でした」


 律儀に返した春樹は、ふと大樹に視線を移した。思わず渋面をつくる。

 目の前の、箸でラーメンを掻き回している彼にため息をつきたくなった。


「……大樹。食べ物で遊ぶな」

「遊んでねーよ」

「だったらちゃんと食べなよ。中身、全然減ってないじゃないか」

「…………」


 言われ、大樹がラーメンを見る。

 しばらく何か考えていたかと思うと、彼はおもむろに顔を上げた。


「ほとんど食べたんだけど、伸びた」

「どんな勢いで伸びるラーメンなんだ、おい」


 「増えるワカメ」も真っ青な増量だ。ありえない。


 しかしそれでも大樹の箸が進む様子はなく、春樹は今度こそため息を吐き出した。

 自分は食べ終えてしまったので、大樹以外の食器の片づけに入る。

 自分の性分上、あまりこういうことは溜めておきたくないのだ。


(……まだ怒ってるのかな……)


 スポンジを取り出しながら首をひねる。

 いつまでも怒りを引きずっているのは彼らしくなかったが、他にこれといった原因も浮かばなかった。

 ただ、その怒りのせいで食事に手をつけないというのも彼らしくない。

 そもそもそんなに怒るようなことではなかったはずだ。

 それに彼はわかりやすいので、本当に怒っているならこんな陰険な態度には出ない。


(ラーメンは嫌いじゃないはずだし……)


 台所で考え込み、慌てて我に返る。

 とりあえず片づけてしまおうと、春樹は次に洗剤を取り出した。そこへもっちーがやって来る。


「春樹サン」

「え? ……どうかした?」

「大樹サンのことなんやけど」

「…………?」


 もっちーの口調が少々真剣みを帯びていたので、春樹は片づけを後回しにした。

 ひとまず手を洗い、きれいになったところでしゃがみ込む。

 その方が目線の高さが近いので話している気になるのだ。


「大樹がどうかした?」

「熱かったんや」

「……熱い?」


 妙な言葉に眉を寄せる。

 そんな自分に、もっちーは曖昧そうな顔をしてみせた。


「ワイ、最初に抱きしめられたやろ?」

「そのときにそう思ったの? でも……」

「子供は体温が高いもんやし、ワイも特に気にせえへんかった。けどさっき部屋で待っとったときはずっとぼんやりしてたし、そんときはさらに熱くなってた気がするんや」


 もっちーの言い方はいくらか遠回しだった。

 春樹はただじっともっちーを見つめる。

 その丸くて黒々とした目と真っ直ぐ視線が合うと、もっちーはさらに困ったような顔をした。声を低める。


「もしかしたら大樹サン……具合、悪いのとちゃいますか?」

「え……?」


 春樹は思わず、大樹のいる食卓へ顔を向けた。弾けたように立ち上がる。


「――大樹っ!!」


 駆け寄った自分に、食卓に突っ伏していた大樹はのろのろと顔を上げた。

 よほどだるいのか動き全体に力が入っていない。

 その体に触れた瞬間、春樹は息を呑まずにはいられなかった。確かにすごい熱だ。


「はるにー……?」

「このバカ!! いつから熱あった!? 何ですぐ言わない!?」

「ダイジョーブ……ちょっと頭クラクラして調子悪いだけだし」


 噛み合わない答えに頭を抱えたくなる。

 とりあえず、彼には熱があるという自覚すらないのだろう。天下無敵の鈍さだ。


「じゃあその調子悪いのはいつから? いや……原因、わかるか?」

「……昨日ユキちゃんと水遊びしたから?」

「…………」


 春樹は無言で最大級のため息をついた。

 よく「バカは風邪をひかない」と言うがきっちり訂正してやろう。

 バカだからこそ風邪をひくこともある、と。


 ふと、葉の言葉を思い出す。

 彼も大樹の熱に気づいていたのだろう。

 だからこそ「今日は早く寝ろ」などと言っていたのだ。相変わらずさりげなさすぎてわかりにくい。


「全くもう……世話が焼けるんだから……。早くベッド行くぞ。立てるか?」

「クラクラして気持ち悪いぃぃ」

「うわっ、しっかり立て! 体重かけるな!」

「――ワイが運びましょ」

「え?」


 成り行きを見守っていたもっちーの申し出に、春樹は怪訝な気持ちで瞬いた。

 いくら何でもそんなヌイグルミの姿では無理だろう。潰されるのがオチだ。


 その気持ちを読み取ったのか、もっちーが勝ち誇ったように笑った。

 ヌイグルミから一度離れたもっちーがぐにゃりと形をつくり上げる。

 その突然の行為に目を瞠った春樹は、目の前で出来た人物にさらに目を見開いた。


「葉兄!?」


 意地の悪い笑みを浮かべるのが得意な、目つきの悪い長身の男。

 それはもはや見慣れた姿で。さらに言えば先ほど見たばかりの姿で。


「そんな……いつの間に?」

「二人が学校から帰ってくる前や。確かマグカップに憑いたときやったろか?」


 それで納得する。

 葉もこちらに住んでいたことがあるので、そのときの、まだ残っている彼の所有物にもっちーは憑いたのだ。


 もっちーはひょいと大樹を抱き上げた。

 確かに葉の姿ならそれも軽い。考えたものだ。


「どこに寝かします?」

「あ、下のベッドでいいよ」


 本当は二段ベッドの上が大樹の寝床だが、今はこだわる必要もないだろう。

 大樹を抱えたままはしごを上るより下に寝かせた方が楽だ。


 言われた通りに行動したもっちーが、作業を終えたとたん元の姿に戻った。

 ちなみに今度は固体バージョンである。やはりしっぽのような何かがユラユラしている。


「こんなもんやろ」

「お疲れ様」

「こんなもん大した……、……渡威や」

「!?」


 突然無表情になったもっちーの言葉にハッとする。

 何拍か遅れて封御のセンサーが反応し、光を灯した。

 春樹はボーゼンともっちーを見る。


(センサーより早く気づいた……?)


 自分の食い入るような視線に気づいたらしい。

 もっちーが顔を上げ、苦笑に近い笑みを浮かべた。


「渡威同士、近くにいたら何となくわかるんや。特別な電波みたいなもんがあるのかもしれへんな」


 キキ――ッ


「……!?」


 急ブレーキ。人の怒鳴り声。悲鳴。ざわめき。

 それらが膨れるように耳に飛び込んできて、春樹は思わず窓へ駆け寄った。外を覗き込む。

 最初は勢いを増しつつある雨でよくわからなかったが、状況を理解するのにそう時間はかからなかった。


「何、あれ……メチャクチャだ……」

「……信号機に憑いとる。はよ何とかせんと事故が起きるで」


 それは言われなくてもわかった。

 信号機がやたら点滅しているのだ。当然人々はパニックになっている。


「封印してこないと……」

「オレも行くっ」


 がばり、とすごい勢いで大樹が起き上がった。

 だがとたんに頭を抱え出す。

 勢いが良すぎて自滅したようだ。顔色が悪い。


「無茶言わないでよ。今だってそんな状態のくせに」

「やだ! オレも行く!」

「大樹!!」


 きつく叱りつけると、ビクリ、と大樹が体を強張らせた。

 熱のせいもあるだろう。みるみると彼の瞳が潤んでくる。

 だが、彼をなだめている時間がないのも確かだった。


「大樹。頼むから。今日は待っててよ」

「だって春兄っ」

「今おまえが動いても意味ないだろ」

「でも!」


 何が不満なのか、大樹は決して譲ろうとしない。

 もっちーもハラハラとしているようだった。

 時々困ったように頭を掻いている。


「あの、春樹サン……一応病人やし、あんま興奮させへん方が……」

「わかってるけど……」


 春樹だって彼を大人しくさせておきたい気持ちは山々だ。

 だが、どうすればいいのか。


 こうなったら仕方がない、と春樹は居間へ向かった。

 そこに置いてある電話の受話器をつかむ。

 そして手馴れた手つきである番号へとかけた。

 コールが一回、二回、三回――。


『はい、沢田ですー』


 コール音に続けて飛び込んできた、のんびりした声。

 それが目当ての人物だと一発でわかって春樹はホッとした。


「もしもし、ユキちゃん?」

『あ、ハルさん。どうかしたんですか~?』

「うん……悪いんだけど、今からこっちに来れないかな?」

『今から、ですか?』


 通話口がふさがれたのか、雑音が混じる。

 耳を澄ませているとすぐに反応が戻ってきた。


『大丈夫ですよー』

「本当? 良かった……ありがとう」

『いいえー。でも、どうしたんですー?』

「それが……」


 時間もないので手短に説明する。

 大樹が熱を出したこと、渡威が騒ぎを起こしていること、ついでにもっちーのことも。

 自分の言葉にどこか切迫したものを感じたのか、彼はこれといって訊き返してはこなかった。

 「じゃあすぐ行きますー」と快く言ってくれる。

 それにもう一度礼を述べた春樹は、電話を切ると再び部屋にとって返した。


「もっちー」

「何です?」


 振り向かれ、少し言葉に迷う。なぜかためらわずにはいられなかった。


「……もう少しで、大樹の友達が来るから。沢田雪斗っていう」

「沢田雪斗やね。ほんで?」

「大樹のこと、看ててもらうように頼んだから。だから……それまではもっちーが看てて」

「それは構いまへんけど……」

「僕はまだもっちーのこと完璧に信用してるわけじゃないけど、……もしこれが無事に済んだら、ちゃんと信用する」


 ポツリ、と呟く。

 するともっちーが楽しそうに笑った。

 さらに冗談めかしたようにこちらの顔を見てくる。


「ワイ、病人に何かするほど悪者やないで?」

「だといいね。……じゃ、行ってくる」


 声を潜め、大樹をちらりと見る。

 彼は電話している内に再び横になっていた。

 もっちーが何とか言って寝かせたのだろう。

 ウトウトしているらしく、春樹が部屋に戻ってきたことに気づいていないようだ。


「でも、一人で行く気かいな?」

「仕方ないよ。このまま放っておくわけにはいかないし」

「……けっこー相手は強うなっとる。気をつけた方がええ」

「わかってる。……じゃ、大樹をよろしくね」


 言い、一度窓の外を睨む。春樹は短く息を吸った。


「セーガ」


 呼びかけに応じるように現れた生き物。それは言うなら、黒い犬に翼が生えたようなものだった。


 倭鏡の人間には生まれつき不思議な力が備わっている。

 それは一人一人によって違うが、春樹の場合はこれだ。「セーガ」という名の生き物の召喚。


 事情はわかっているらしく、セーガの行動は素早かった。

 春樹が窓を開けると同時に翼を広げ、体を低くする。

 その背に春樹が飛び乗ると―― 一気に外へ飛び出した。


「うわ……っ」


 思ったよりも外の天気は荒れていた。

 天気予報ではこんなこと言ってなかったのに、と恨めしく思う。どうも最近の天気予報は当てにならない。


 ――“風が強い。……しっかりつかまってなきゃ振り落とされるぞ”

「わかってる!」


 けれど片手には封御を持っているのだ。限度というものがある。正直、ヒヤリとして仕方がない。


 ――“……で、どうするんだ?”

「こんな人前で何かやるわけにはいかないよ。少し……人に気づかれない程度まで信号機の周り、飛んでくれる?」


 暗いので大丈夫だと思うが、こうやって飛んでいる今も人に気づかれればアウトだ。

 スクープとして新聞の見出しを飾るハメになってしまう。そんなのはきっぱりすっぱり遠慮したい。


 ――“けど、飛んでるだけじゃ……”

「あっちが動くのを待つ。……きっと動くはずだから」

 ――“……?”


 よくわからない、という反応を見せたセーガだが、彼は大人しく春樹に従った。

 信号機の周りを大きく旋回し始める。

 それを二、三度くり返したところで――ふいに信号の点滅が止まった。

 モヤモヤとした何かがゆっくり出てくる!


「来た……っ! セーガ、近くの空き地に行こう。あそこなら人がいない」

 ――“御意”


 真っ直ぐに渡威が追ってくるのを確かめながら、セーガは方向を転換した。

 空き地に降り立とうと少しずつ高度を下げる。


 ――“それにしても……よくわかったな。渡威が動いてくるって”

「当然だよ」


 静かに地に着地すると、春樹は肩をすくめた。

 封御を構え、追ってきた渡威を睨む。


「あっちの狙いは、僕らなんだから」



◇ ◆ ◇



 ガバッ


「あ……大樹サン。まだ寝てないと……」

「もっちー……春兄は?」


 問われ、もっちーは言葉を詰まらせた。言えない。渡威を封印しに行っただなんて。

 しかし沈黙が逆に真実を教えてしまったらしく、とたんに大樹の顔色が変わった。


「オレも行くっ!」

「あああ! 起きたらあかんって!」

「うるせーっ!」


 わめかれ、途方に暮れる。

 もしかしたら大樹自身、熱のせいで何をしているのかわかっていないのではないだろうか。

 これだけの熱ならありえそうだ。


「これから雪斗サンって人が来るさかい。大樹さんがいなきゃ一発でバレるで」

「……ユキちゃんが……?」

「せや。春樹サンが呼んだんや」

「…………」


 黙り込む大樹に、もっちーは心の中でガッツポーズをしておいた。

 どうやら効果はあったようだ。あとは大人しく寝ていてもらえば……。

 しかし、そうは問屋がおろさない。


「……もっちー」

「はい?」

「オレに化けること出来るよな?」

「…………」


 まさか。むぅわさか!?


「ユキちゃんが来たらてきとーにごまかしといて」

「やっぱりかい!」


 自分の想像通りの言葉に悲鳴を上げる。

 ちなみに嘆き七割、呆れ三割くらいの悲鳴だ。ここまで想像通りだと泣けてくる。


「そう言うと思っとった……。でも無理や。雪斗サン、渡威のことも知ってるんやろ? ワイが大樹サンに成りすましても、核を見れば一発で……」

「額を隠せばいーじゃん、タオルか何かで。熱あるんだから不思議じゃねーよ」


 きっぱり言ってくる彼にたじろぐ。

 これはあれだ。本気と書いてマジだ。その証拠に目が据わっている。


(何で……何でこないときだけ頭回るんや……)


 ため息をつき、大樹を見る。

 だが大樹の意思は固いようだった。行く気満々だ。


「なあ? あんま無理せん方が……」

「オレはダイジョーブだからっ。もう治った!」

「んなわけあるかいっ!!」

「……っ!」


 思わず声を荒げた自分に、大樹が目を瞠った。そんな彼を睨むように見る。

 ここまで聞き分けが悪いと、他にどうしようもない。自分にも限度というものがある。

 それに自分は彼の身を心配して忠告しているのだ。

 この際、春樹の信用問題すらどうでもいい。


「もっと考えてみい。今大樹サンが行ってどうなる? そないな状態で何か出来ると思うんか? そのまんま倒れるのがオチや。無茶したって意味ない」

「だ、だって……春兄だってよく無茶するし……っ」

「春樹サンのこと言うてるのとちゃう。今は大樹サン自身の話や」

「でも!」


 ふいに大樹が顔を歪めた。泣き出す前兆のように。


「――――」


 絞り出された言葉に、もっちーは目を丸くした。

 小刻みに震える彼の肩を見て、やがて自分の肩の力を抜く。

 顔に出るのは苦笑いばかりだ。全くもって、自分はこういうのには弱い。


「……ワイの負けや」

「……も……っちぃ?」

「今回だけやで? ……雪斗サンの方はこっちで何とかするさかい」

「もっちー!」


 パッと大樹の顔が輝いた。彼は嬉しそうに自分を抱きしめる。


「もっちー、サンキュー!」

「気をつけるんやで。無理や思うたらそのまま戻ってくるんや」

「わかってる!」


 本当にわかっているのだろうか。

 そう疑いたくなるような笑顔で大樹が飛び出していった。

 それを見送ったもっちーは苦笑する。

 確かに、今の反応だけを見ればなかなか元気なようだ。

 きっと一時的なものに過ぎないだろうが。


「……春樹サンが帰ってきたら、きっと怒られるやろなあ……」


 これで信用はゼロにまで堕ちただろう。下手をすれば首が飛ぶ。


 ピーンポーン

 呼鈴の音にハッとする。おそらく例の少年だろう。

 大樹が出ていってからまだ数分しか経っていないので、大樹にとってはぎりぎりセーフな訪問だ。

 急いで大樹に変身すると、もっちーは駆け足で玄関へ向かった。もちろん核を隠すのも忘れない。


「はーい」

「こんばんは~」


 入ってきたのは、割と背の高い少年だった。

 へにゃり、と気の抜けた笑みを向けてくる。

 それはどこか緊張を解く力があるようで、もっちーは無意識に頬の筋肉を緩めた。


「……あれぇ? ダイちゃん、寝てなくていいのー?」

「おう。もーダイジョーブ! てゆーか春兄が大袈裟すぎるんだよ」

「あははー」


 自分にアカデミー賞を送りたい。

 大樹を演じながら、もっちーは本気でそう思った。

 自分の能力も相まって元から演技は得意な方だったが。


「だからさ、ユキちゃん。せっかく来てくれたのに悪いんだけど……」

「で? ダイちゃんはどこにいるんですー?」

「――え?」


 もっちーはきょとんとして雪斗を見上げた。彼は相変わらず笑みを崩さない。


「ゆ、ユキちゃん? 何言って……」

「だから~、本当のダイちゃんはどこにいるのかなあって」

「……バレてました?」

「うん、何となくだけどねー」


 あははー、と再び雪斗が笑った。

 もっちーも力なくそれにならい、変身を解く。

 自分にアカデミー賞はやはり無理だったのだろうか。


「ダイちゃんならじっとしてられないだろうしー……きっと今も、ハルさんの後を追ったんでしょう?」

「ビンゴや」

「僕のことはいいから、ダイちゃんの方についてあげてください~」

「……おおきに」


 にっこり笑う彼に一礼し、もっちーは家を飛び出した。



◇ ◆ ◇



「…………」


 不思議な生き物――もっちーと呼ばれていると聞いた――が出ていくと、雪斗は小さくため息をついた。

 次いで苦笑する。


「ダイちゃん……」


 本当に彼らしいというか何というか。

 じっとしていられないのも、すぐに無茶をするのも昔のままだ。

 それにしても。


「いつからの付き合いだと思ってるんだろー……?」


 幼稚園の頃からずっと一緒だった彼のことをわからないはずがない。

 そんな思いで苦笑気味に呟くと、雪斗は「お邪魔します」と中へ足を踏み入れた。

 今自分が帰ってしまえば、この家は無人になってしまう。しかも鍵が開いたまま。


 それはさすがにマズイだろう、ということで雪斗は留守番も兼ねて待っていることにした。

 ついでに、帰ってくるみんなのために、温かいココアでも作る準備をしよう。

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