プロローグ それはこんな顔でしたか
塾の帰り道、少女は一人家路を急いでいた。外はもう暗い。
最近では大分慣れてきたとはいえ、まだ油断するという気にはなれなかった。
この道をこんな遅くに通るときは妙に緊張してしまう。
(親に迎えに来てもらった方がいいかな……)
どこかぼんやりとそう思う。今はまだいいが、冬になればもっと大変なことになるだろう。
ふと人影を見つけ、少女は思わず足を止めた。
「び……ビックリしたぁ」
呟き、ホッと安堵の息を吐く。
数メートル前を歩いていたのは一人の女の子だった。
のんびりと歩いているが、彼女も塾の帰りか何かだろうか。
(…………?)
ふと感じた違和感。
少女がそれに気づくのにそう時間はかからなかった。
少女は首を傾げ、まじまじとその女の子の後ろ姿を見つめる。
もしかして――あの格好は、自分と全く同じではないだろうか?
すごい偶然もあるものだと感心する。
だがそれだけでは違和感は消え去らなかった。
少女は少し歩調を速め、もっと間近で彼女を見る。
(え……?)
ふいに鼓動が跳ねた。二の腕が粟立つような感覚に襲われる。
(……嘘でしょ?)
目の前の女の子の背丈も、髪型も、おそらく体型すら自分と一緒だなんて。
少女が戸惑っていると、唐突に女の子が足を止めた。
自然と少女も立ち止まる。
それがわかっているかのように、目の前の女の子はゆっくりとこちらを振り返った。
女の子は――自分と同じ顔で、口元だけで笑っていた。




