巨乳
「あ、アオヤマ。やほー」
早退した俺は、ある工房を訪ねていた。
顔もあげず、黙々と作業するうら若き女性。
身長はかなり小さい。が、スタイルは抜群。いわゆるボンキュッボンというやつだ。
顔もモデル並みである。そんな彼女が、拡大鏡と細工棒を器用に使い、繊細に芯金を削りだしている。
エミ魔法杖芯金工房、その主、エミその人である。
無名ながら、彼女が作る芯金は国内最高峰。彼女も、俺と同じく前社長が見出した人材。
倒産寸前の当時の芯金工房、その主である彼女の父が倒れた時、若干14にしてその後を継ぎ、才能を開花させた。天才だ。
上半身はタンクトップ一枚。じっとりと汗に濡れている。
「もう少しで仕上がるよ。多分これ、過去最高傑作。天才の私が、保証する」
「――本当に、済まない。その、芯金なんだが――」
俺は、芯金をティーナ国製に無理やり変更された経緯を話した。
「正気?あそこの芯金は――」
「そう。あまりにも、品質に劣る」
「最悪、爆発事故を起こす。それでも?」
「――上の、決定だ。本当にすまない」
俺は、頭を下げるしかない。
彼女は、うちと専属契約している。
これからどう生計を立てる気だろう。
「大丈夫。なんとかなる。私、天才。それに――」
エミが上目遣いでこちらを見る。
「いざとなったら、アオヤマの家に住む」
「む?行く宛がないなら、いいぞ。部屋も開いているしな」
彼女も結構儲けているはずだが、家の心配をするとは、散財家なのだろうか??
しかし、だいぶ世話になっている。部屋くらいは喜んで貸そう。
「――あー、うん」
なんとも歯切れの悪い返事。
なにか、間違っただろうか。
「まあ。アオヤマはそういう人。うん。で、この芯金どうする?」
目の前には、仕上がった芯金。
オリハルコニアが鏡面のように磨き上げられ、俺の設計した増幅回路が刻み込まれている。完成品だ。
ここまで美しく仕上がった芯金は、見たことがない。
最高傑作とは、言葉通りだろう。
「あー、もちろん買い取る。会社にも嫌とは言わせない」
「でも、そうするとこれは、会社のものになるでしょ」
「む……」
もはやあの会社は、明らかに組合を通じてティーナ国の息がかかっているだろう。
そんなところに、この国宝級の芯金を?
「――俺個人が、買い取るというのは?」
俺はすっかり、この芯金に魅入られてしまった。
この精度なら、今まで机上の空論だった機能を幾つも載せられる。
技術者としてのカンが、そう言っていた。
「――高いよ?」
「心配するな。俺は仕事が生きがいの男だぞ?」
実際、資産はそれなりにある。
「じゃあ、せめて値段をおまけしてあげる。半額で」
「そんなに?いいのか?」
「うん。売国企業にこの芯金が渡るよりは――それに」
彼女ははにかみながら言う。
「今日、2月14日」
「ん?何の日だ?」
「――なんでもない!!」
出来立ての芯金を押し付けられ、工房から閉めだされる。
「いったいなんだってんだ……」
俺はぶつぶつ言いながら、家路についた。




