43話 〈五月上旬〉雨上がりの拠点
雨が降った翌日の朝。
竪穴式住居の外に出た稲夫は、思わず眉をひそめた。
「これは……」
五稜郭の測量の際に平らにしたはずの地面に、水溜まりができている。見渡せば拠点のあちこちの地面に水溜まりができていた。
「やっぱり、土木素人には厳しかったか……」
稲夫は、水溜まりの前にしゃがみ込む。
昨日の雨は、決して強くはなかった。にも関わらず、水が溜まるのでは、大雨が降った日には拠点全体が水びだしになりかねない。
(高低差は埋めるとして、溝を掘って水が排水されるようにする必要があるな。そうなると意図的に斜面にする必要もあるか?)
「稲夫様、今よろしいでしょうか?」
稲夫が水溜まりの前で考え込んでいると、背後からツチハルが声をかけてきた。
「ん?ああ、ツチハルさんか。どうしましたか?」
「実は、見て頂きたいものがあるのですが、ついて来てもらってもよろしいでしょうか?」
「もちろん、大丈夫ですよ」
稲夫は快諾し、ツチハルの案内に従い拠点の堀の一角へ向かう。
そこには、堀の一部が雨で崩れ、縁が低くなっていた。これでは、外から簡単によじ登れてしまう。
「昨日の雨で崩れちまったか。まぁ、掘っただけの堀だったしこうなるのも当然か……」
「ここだけでなく、他にも堀が崩れてしまいました。いかがしましょうか?」
稲夫は一度、崩れた堀の方へ視線をやる。現状、石や土嚢で補強できる余裕はない。どうにか工夫して強度を上げる必要があった。
「ひとまず、堀がなるべく踏み固めて強度を上げよう。それから、拠点内の水が上手く排水されるように溝を掘ってみるか。俺も手伝うよ」
「ありがとうございます。では、道具を持ってきますね」
ツチハルは頷くと、道具を取りに向かうべく、その場を離れていった。
稲夫はツチハルを見送った後、改めて崩れた堀を中心に拠点全体を見渡した。
(今更思い至ったけど、五郭塁を生かすなら射手が要るよな……)
五稜郭の強さは、角の張り出しから堀沿いを横に射れることだ。それができなければ、五稜郭の形にする意味が薄れてしまう。
だが、弓を扱えるのは稲夫とタケルだけ。とてもではないが、五稜郭の強さを引き出せない。
(冬至には死者が襲ってくる死者の夜とか言うホラーイベントもあるし……どうすりゃいいんだか)
考えが、そこまで及ぶ。
拠点の排水、堀の強化、射手の増員、備えなければならないことは山ほどある。
(いっそ“あれ”を作ってみるか?)
稲夫の脳裏に、学生時代の記憶がよぎった。友人達とふざけ半分で作って遊んでいたところ、近隣住民に通報され大ごとになった“あれ”。
(いや、作るにしても拠点の修復が先だ。それに、田植えが控えてるしな)
まずは拠点の修復が先だ。田植えも近い。作るにしても、それらが落ち着いた後だろう。
稲夫が考え込んでいると、ツチハルが道具を持って戻ってくる。
「稲夫様、道具をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
稲夫はツチハルから鍬を受け取ると、鍬を振るう。崩れた堀に土をかぶせ、踏み固めていく。
完璧にはほど遠いが、何もしないよりは確かに前に進んでいた。




