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第20話 〈四月中旬〉星形、地に描く

 朝の空気はひんやりしている。

 拠点の中央、井戸のすぐ脇には、先ほど打ち込んだ一本の中心杭が立っていた。その杭には、あらかじめ蔦が巻き付けられていた。


「じゃあ、測量を始めよう。男手は杭打ち、女手は蔦集めと結びだ」


 稲夫の声に、自然と全員の動きが二手に分かれる。

 タケルとツチハルは長めの杭を肩に担ぎ、力強い足取りで周囲へ散っていく。

 稲夫は中心杭から蔦を手繰り、五稜郭の一角となる位置を慎重に探る。


 一方の女性陣――ミズキとアキ、そしてヒナタは、朝露に濡れた葛の蔦を山のように抱えて戻ってきた。

 彼女たちは腰を下ろすと、手早く葉をむしり、節の部分をそろえて結びやすく整えていく。


「このくらいの長さでいいですか?」


 アキが一本の蔦を持ち上げ、確認する。


「うん、それで頼む。結び目はしっかりだぞ、あとで緩むと面倒だ」


 稲夫が返すと、ミズキが「はい」と柔らかくうなずき、結び目をきゅっと締めた。

 ヒナタは「わたしもやる!」と張り切って手を動かすが、結び方が甘くなりがちで、すぐにアキが直してやる。

 その様子は微笑ましくもあり、作業場の空気を少し和ませた。


 コン、コン……と杭を打ち込む乾いた音と、葉を引きちぎる小さな音が交互に響く。

 中心から蔦を伸ばし、一つ目の角に杭を打ち込む。再び中心に戻って、次の角へ伸ばしていく。

 作業は順調に進み、気づけば五つ目の杭が打ち終わっていた。


 稲夫はふっと息をつき、全体を見渡した。

 だが、すぐに眉が寄る。


 ――何かがおかしい。


 端から端まで目をやると、杭と杭の間隔が微妙に違う。ある場所は妙に詰まり、別の場所は間延びして見えた。


「……なんか距離がバラけていないか?」


 ツチハルも首をかしげ、杭と杭の間を歩測してみる。

 彼の足取りは正確で、数歩ごとに止まっては距離を測るように目を細めた。


「確かに距離に差がありますね。おそらく、この辺りは地面が少し下がってます」


「高低差で蔦が引っ張られたんだな……そりゃズレるわな」


 稲夫は腕を組み、頭の中で解決策を探す。


(水平器でも作るか……竹を割って水を注げば簡易的なのはできそうだけど……それで高低差を均すとなると、とんでもなく手間がかかるな)


 頭の中で計算するほど、準備と作業時間の膨大さにため息が出る。


 稲夫は中心杭の根元に視線を落とした。地面に吸い付くように立つその足元——そこから蔦が水平に伸びていれば、すべてが同じ高さになるはずだ。


(……そうだ、この高さで揃えれば、どこが高いか低いか一目で分かる)


 稲夫は地面から小石を拾うと、中心杭の地面すれすれの位置に小石でうっすら傷を刻んだ。


「この中心杭の傷の高さに合わせて、他の杭にも傷をつけてくれ。この傷の高さを目印に地面と揃うように杭を打ち込んで蔦を結ぼう」



 タケルとツチハルは杭を引き抜き、中心杭のそばに持ってきた。

 稲夫が示した傷の高さに合わせて印を刻むと、再び元の場所に運び、蔦を結びつけながら打ち込んでいく。


 コン、コン——と杭を叩く音が響くたび、傷の高さが揃った蔦が、少しずつ星の形を浮かび上がらせていった。


「これで高さはそろった……でもこのままだと足元の地面がバラバラで、形が歪む。基準に合わせて土を盛ったり削ったりして、平らにしていこう」


 タケルとツチハルが鍬を肩に担ぎ、地面を削り始める。

 ザクッ、ザクッと鍬が土を割る音が響き、乾いた土が砕けて小石が転がる。

 高低差を均していくと、打ち込んだ杭の傷が地面から浮き上がる。

 その度に杭を打ち直し、蔦がピンと水平になるように張っていった。


 ミズキたちの作業も進んでいる。

 蔦を結ぶアキの手は速く、ミズキは丁寧に長さを揃え、ヒナタは杭から伸びた蔦に足を取られ転んでいた。


 やがて高低差の修正も終わり、改めて五つの杭が立ち並ぶ。

 歩測で確認すると、中心杭からの距離はほとんど同じになっていた。先ほどの違和感はもうない。


 そのとき、女性陣が作業を終えて蔦の束を抱えてきた。


「長い蔦、揃いましたよ!」


 アキが嬉しそうに声を上げる。


「助かる。じゃあ、対角線を結んでいくぞ」


 稲夫は一本の杭に蔦を結び、反対側の角まで引っ張って結ぶ。

 一本、また一本と線が増えていき、地面にくっきりとした星型が描かれていった。


 全員が立ち止まり、その形を見上げる。

 井戸を中心に伸びる五つの角――これが、村を守るための第一歩だ。


「……できたな」


 稲夫の言葉に、誰もが小さくうなずいた。


 こうして、五稜郭の測量が完成した。

 日を受けた蔦の影が、地面に星型浮かび上がらせている。それは、村を守るための最初の形だった。

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