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悠翔(はると)の職場

 警察にも、軍にもにも、犯罪者となった異能力者を確保する部署はある。

 

 需要と供給で考えると、少数派であると思いがちな異能力者は、それを隠し生活しているだけで、思いもかけない人数の人々がいるように思えてならない。


 それは孤独だと思ってた自分を、そうではないと教えてくれる様で嬉しくもあった。しかしそんな目に見えて現れた異能力を持った者たちを、牢屋へと送り込む。そんな警察の犬をしているのは、とても皮肉な事だ。


 

 俺の仕事場は警察庁の、異能力を使った犯罪者を、捕まえる事に特化した部署だ。


 正式には『異能の力対策0課』何故、0課というと異能の力を良く思ってない上層部がそう決めたとか、幽霊に関係あるから零であるや、人材が居なく政府を跨いで引き継がれているがから0課である説もある。


 それについて調べる間もなく働かされているので、詳細不明のまま時は過ぎていく。


 異能の力についてはおおまかに言うと、刀と槍と弓の関係やじゃんけんと一緒だ。能力によっての得手不得手な相手が極端にでる。だから日頃は、初見必殺の方が断然有利なので、秘密裏にするため組まされた相棒のみと行動する事が多い。


 


 (たちばな) 貴志(たかし)、髪の色素は薄く、瞳の色は水色の橘先輩。警察庁の下積みのお巡りさんの時代から、その名前は聞いていた。


 彼は居ないところで鬼の子と噂され、彼の居る場所では、誰も文句は言えない存在だった。彼は異能の力の世界に突然現れた、よくわからない存在だった。謎の多い噂話としては、警察庁に突然現れた、正体不明だった犬飼の家の三男の俺と、どっこいどっこいかもしれない。


 ――いや、突然婚礼までした俺の方が、今は勝っているかもしれない?

 

 とにかく、俺は異能力課に、犬飼家の苗字のせいで、俺の気持ちと関係無しに昇格してしまった。さすが警察庁の身辺調査は、伊達じゃなかったようだ。



『いやいや、私たちの立場は、自分の立場を守るために有効なものだよ』

 

『ですが……』

 

『犯罪を犯す様な鈍臭い奴は救えないが、そいつに繋がるまともな奴は、救える事がある』


『うちはある意味、刑務所よりましですからねー』


『橘、言い方?!』


『そう言われれば、そうですね。おかげさまで結婚できました』


『でも、警察自体離婚率は高いらしいよ』


『橘さん、それ不安なって調べてみたのですが、そんな事実はないようです。初婚年齢も警察職員は、他より早く、俺って結構スタンダードだったんですよね……』


 そう言った俺には、『『へーえー』』と返事が返って来て、なんとなしに場違い感を、肌で感じとったが、うちの課で俺はまだ世間よりは、溶け込めてはいるんだろう。


        ◇◆◇◆◇


 そんな警察内の専門の課に、席を置く俺であるが、違法な能力者を捕まえる為、今日、もうすぐ正午になろうとする、繁華街に来ていた。


 安いスーツと、紳士用の帽子という姿で。


「犬飼、どう新婚生活は?」


 今はただ街中を見回るだけだが、暇なのか橘さんはそんな事を聞いてくる。


「相変わらず、犬の姿でありますが、繁華街へ来たなら、結月さんに何か買って帰りたくなるくらいは楽しいですよ」


「それはうらやしい限りだね」


「またまた、優雅な独身貴族の癖に」


 異能力を扱う、うちの課の仕事内容としては、うちの部署は暇になると、『占い』に頼る。由緒正しい一族から蓄積される。占いの束から暇な奴が、重要そうなものから捜査案件として挙げていく。


 そして占い結果に基づき、捜査をしていくのである。


 基本的に占いの束から、あげられたものはその場限りのルールを守れば、危険性の高いものは含められていない。


 占いの中で、一目でわかる厄介な事件はその束には入れられない。確認直後、除外され、最優先で解決すべき事件として扱われる。


 最初は安全なものでも、繰り返し提示されれば、挙げられる場合だってある。しかし結局は、経験とセンスで優先順位が決まる。

 


 そして今回の捜査は、束からあがった。書類には、捜査員は(たちばな) 貴志(たかし)と、犬という雑な指名があり、この街に来ていた。


 その時、風上から火薬の匂いがした。多くの人々がすれ違うこの街でそう言う事も珍しくない。でも、今回は少々度が過ぎる匂いが、俺たちを誘っていた。


 匂いを追って俺が、人混みを避けながら進むと、突然現れた何かにぶつかり、気付くと妙齢の女性に腕を捕まれていた。


「ちょっと!?」

 

「あっ申し訳ありません!」


「これは申し訳ございません。なにぶん、こいつは田舎者でして何かございましたか?」


 すかさず、橘さんが俺と彼女の視線の間に入ってくれた。


 先輩は、人当たりの良さの下に、狂気を無意識下であるのかわからないが、少々含ませる。そんな時は、野生に近い俺の腕に、鳥肌が自然に起こる。そしてわずかながら、相手にも伝わる様で怯んだ隙に「では」と、当たり触りのない事を言って、会釈をして俺たちは去る事が出来た。


「犬飼、そういう初歩的なミスは辞めてよね」 


「すみません」


 そう答えるしかなかった。人通りが多いので、ぶつかった事は何とも言い難いが、一般人に手を掴まれるのは俺に隙がある証拠だ。


 せめて、トラブルの後、棒立ちで居る事は改めよう。俺は橘さんの足もとにも及ばない。


「あっ……」


 人混みの端で、ビルの間と道行く先を見比べる。


「何?」

 

「火薬の匂いが二つに、別れました。そのビルの境目ともう一つは、今、なおも人混みの中です」


 そこで先輩は怖いっていうか、悪い顔で笑う。個人を指定されにくい様、少々長い髪を心掛けるという規則であるので、そんな顔で笑われると堅気の人間には見えない。まだ若いのに苦労人なんだろう……。


 そしてどんどん進む橘先輩の後の続き、ビルとビルの間に入ると、水色のでかいゴミ箱やガラクタの下へと、彼は当たりをつけ、カチコチを音をたてているそれを発見した。見てわかる爆発物。


 橘先輩は、ソレを、手のひらの上で、炭より暗い正方形その内に内包した。

 そしてもう一方の手で押さえつける様に閉じこめる。するとソレは、すぐ現実から切り取られたように無くなった。


「犯人がビルのビルの間に入ってくれ、隙を作ってくれるなら、捕まえやすい」


 橘先輩は、下を見てそう呟き、「さあ、行こうか」と、笑顔をこちらに向けて来た。正直言ってこわぁって気持ちになる。橘さんは正直なんでも出来る欠陥さがあって怖い。


 犯人を追いかけ、ソレを処理する。それが二回ほど続く。そして三回目、ビルの横から火薬の匂いまとわせた、帽子を目深にかぶった、作業員とすれ違った。


 橘さんもその男を、目で追いつつも、俺をビルの間に引っ張り込んだ。


「なんで!?」


 またもや感覚だけを頼りに、爆発物を処理した橘さんはすぐに人混みの中へ。答えが出ないまま続けるかない。


「お前の能力はサポート特化型だろう? 無理をするな。それに爆発物が徐々にデカくなってる。下手を打てない。そして次はたぶん彼処だ」


 彼の指の先にはこの辺ならどこからでも、見る事の出来る天までそびえるビルが見えた。市役所の施設も一部入っている、ここらで一番の観光名所を指差していた。


「それじゃ余計に!?」

 

「新婚の癖に無理をするな。犬の姿の時に、嫁さんの見舞いされたくないだろ?」


「言う手間が省けます!」


 そう言い先輩の顔を見た後、俺の異能の力を使う。街中を走り抜け、犯人を追う。警察犬に俺が勝る時だ、警察犬が単独で走っていたら問題だろう?


 犯人の匂いを捕まえながら、街中の空気を読み追いかけると――。


 人混みの中を歩く、火薬の匂いをまとわせる男! ビルの隙間まで、引っ張りこむ事に成功したが、手の甲に熱さを感じて引っ込めると「バシュッ!」と、音をたてて白い手袋が焦げた。


「最悪だ!?」


 相手も何らかの異能力を持っている。すぐに今度はスーツの袖がいきなり「ゴオォ――!」と、音を出して燃え上がる。火薬と煙の臭いがざり、口の中で汗の味がする。すぐ脱ぎそう捨て靴で踏みつける。


 対抗策としては、こんな街中では、洋服に埋もれる犬も、いろいろ危険のある拳銃も役に立たない。


 その時、いきなり男の両腕が、橘さんの黒い異能の力で拘束された!


「犬飼……、先輩を置いてきぼりはよくないよ!」


 肩で息をしている橘さんが、壁に倒れかけながら登場した。いつもはちゃんとセットしている髪も、汗で額に張り付いている。


「何をした!?」

 

「それはこっちの台詞だっ!」


 そう言っている間にも、犯人の手が指先まで異能の力によって黒く染まっている。


「お前は変な事をすれば、指先からふっ飛ぶからな。あぁー疲れた」


 橘さんが、そう言った途端、指先の部分は「パシュッ」となって弾け飛ぶ。このデモンストレーションは気を抜くところでやられるので、こっちも結構な確率で驚く。


 驚き、座り込みつつある犯人を、見張る事は先輩に任せ、署への連絡を優先させなければならない。


「電話借りてきます」

 

「はい、はい、お願い」


 先輩はあぐらで座りこみ、軽く手をあげ了承した。


           ◇◆◇◆◇


 やっと家に帰り着いた頃には、夕焼けの中で鳴くカラスはすでに巣へと帰ってしまっていた頃だった。濃い闇、そこで小さく瞬く星々の中、山の上では、月がぽっかり浮かんでいた。


 能力を使い果たした俺は、「ただいま帰りました。結月さん、美味しそうな土産があったんで、机の上に置いておきます」と、キッチンで料理を作っていた結月さんに声をかけただけで、風呂場へと向かった。


 そして浴槽から出た途端に、張り詰めた糸が切れてしまい犬と変わった。お腹をすかせて「クーン、クーン」と、訴えかけていたら晩飯は貰えたが……。


 ――嫁ちゃん疲れたー。俺は大きくあくびをし、リビングのソファで、料理の本を読んでいる結月さんの横で丸くなりうとうととしだす。

 

 


 あの後、犯罪をおかした異能者については、ある程度の訓練と才能がある、警察官が動員されたので、すぐに彼に犯人を引き継いだ。


 その時、俺はある事に気付き 「これは…………」と、呟き、ふたたびゆっくりであるが目標物に近づいて行った。


「どうした犬飼!?」


 そして俺が、人混みをかき分け向かった先は、老舗の焼き菓子屋。


 クーン……この店の焼き菓子は美味しいので、嫁ちゃんのお土産として買ってあげたい……。しかし仕事中であるので、いいのだろうか?


 そういう思いで見つめると、橘さんが「課で、配る分も買って来いよ」と、うちの家の分までおごってくれたのだった。



 そして持ち帰ったその菓子は眠った、俺が起きた時に開けるらしい。


 犬では甘いお菓子まではくれないようだけど、明日少しでも嫁ちゃんに、早く食べて貰いたいので、今は、少しだけ嫁ちゃんの横で仮眠を取る事にする。


 彼女の横で、つかの間の夢物語の世界に、俺は静かに落ちていくのだった。


      続く

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