エピローグ
その日俺は近くの旅館に泊まり。
布団の中で浴衣に着替えて、障子の間にわずかに見える月を見る。
そして落ち着いて今後の事を考える。不思議といろいろあったのに、なぜか疲れたような気がしない。難しい未来も、結月さんとならなんとか、上手く行くって気がしていた。
たぶん、これが愛の力だろう。祖父母や、絹さんの俺に植えた、心の種が花開いた。そう言うのは言い過ぎで、初めて本当に、愛してもいい人が出来た。子どものような無敵な気持ちが、今の俺を支えている。
「はぁ……、どう考えても今、俺、夢見すぎだろう……明日、しごーとー……」
仕事は乗り切れるだろうか? 危険な仕事の場合もあるのに。……この浮ついた気持ちじゃ、駄目かもしれない。だが、やるしかなかった。
次の日、結月さんのお姉さんの家へ行き顔だけだす。そして電車に、飛び乗り仕事へ行った。
仕事場で、「橘さん、俺、妻に、犬である事を話せました!」と、朝一番に行ったら「すまんー、犬飼がたぶん浮かれてるから3日ほど、内勤に回して!」そう室内に響き渡るよう叫ばれる。
なんだ、なんだという雰囲気の中、彼は真面目な顔をして俺を見る。
「犬科の異能力持ちは、結構こういう時には普段冷静な奴でも、浮かれて危ないんだ」
そう橘さんにねっとりとした口調で、真面目に言われた。
それから何日か過ぎ、寝室は結月さんが使っていた場所を、そのまま使うことに決まっていた。そこで本を読んでいた俺に、彼女は話しかけてきた。
「悠翔さん、悠翔さんは最初は、小さな可愛い黒ちゃんとして生まれたんですよね」
生まれた時の話は、結月さんに語ったが改めて気持ちが変わったのかと、気付かれないないようにであるが、慌てて上半身を起こす。
「そうだ。目も開かない小さな子どもだったと、聞いているよ」
「そんな小さな赤ちゃんだったら、危なくないでしょうか? こんな大きさですよね」
彼女も布団から起き出し、正座をくずした感じで座る。そして手で楕円形を作りみせている。僕はこの話がどこに着地するのかわかっていない。結月さんだから、収まる所へ収まるのだろうけど、今ではその話の続きに俺はとても興味を持つようになってきた。
「犬飼の家では初めてだったようだけど、異能力を持つ新生児では、人と違うあり方で産まれる子ども多いらしく。だから人間の姿になっても、しばらく見守り、観察されてからうちへとやって来ると思うよ」
「えっ……、そうなんですね。なかなか会えないのか……。産まれてすぐうちに来るのだったら、体温を保つためにどうしようと思っていました。夜は悠翔さんに黒ちゃんになってもらって、小さな赤ちゃんと、一緒に寝て貰っても、昼はどうしょうっていう風に。でも、病院で見ていてくださるなら安全ですね。四六時中一緒にいられないことはざんねんですけど……」
彼女はとても残念そうに言うから、結構、本気で考えていたようだ。そもそも俺にが温めていたからと言って、肝心の乳がでないのであれば、子どもに酷なだけだろう。でも、それは人間の赤ん坊も同じで、結月さんにお任せするか、ミルクにするのだろう。そこら辺深く考えると、気恥ずかしくなるが……。
「そもそも俺が特別であって、犬の姿で産まれてくるとは限らないよ」
「あっ……そうなんですね。うーん、ところで、今、異能の力は普通に世の中にあふれています。それを考えると……黒ちゃんの姿の悠翔さんと、ワンちゃんの姿の私たちの子どもが一緒に居て、可愛らしいと想像することは悪いことじゃない。そう思うんです。だってきっと二人とも可愛いし、見てみたいと思ってしまうです」
そう言われると、この人と結婚したい。結婚して良かったと思う。結月さんを通した世の中は、簡単に幸せな方に傾く。そういう考え方は、やはり才能だと俺は思う。俺には絶対そう易々となんでも、少し幸せを探すという風には結びつかない。
だから彼女が居てくれて、雪の夜に俺の手を取ってくれ私は幸運だったと言える。
「俺は結月さんともしもてるなら、俺の子どもが笑ってくれればいい。きっと結月、君が居てくれるから、そんな家庭が作れる。俺の前に現れてくれてありがとう」
「もう、悠翔さんは相変わらずですね。もっと楽に生きていいんですよ? 本当に悠翔さんはほっとけない人なんだから」
彼女は俺の首に手をまわし、二人は見つめ合い静かに笑顔になる。
そして俺は、寝室の電気を静かに切った。
終わり
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