Ep.7
二学期になってまだ一週間しか経ってない頃、今度はシンシアが絡んできた。
クラスも選択授業も異なるのでこれまで直接絡んでくる事はなかった。
しかし彼女の行動はアルテを更に悩ませる事だった。
彼女と話したり接することは一切なかったが、シンシアはアルテの近くで必ず転ぶのだ。それも必ず周りに人がいる時に…。
移動中 学園内の廊下
「キャッ!」
「!?」
シンシアが悲鳴を上げて地面に倒れた。周りには生徒が大勢いた。誰がどう見ても【悪女が聖女シンシアを転ばせた】光景にしか見えなかった。
「ちょっと、だい「シンシアさん!大丈夫ですか!?」
「お怪我は!?」
「あぁ、なんて酷い人!やっぱり悪女だわ!」
アルテがシンシアに手を差し出そうとした時、彼女と親しい者達が近づき、アルテを突き飛ばすように駆け寄った。
シンシアは涙を流して彼女らに大丈夫だと言う。
その時だった。
「貴様!シンシアに何をした!」
「(あー…面倒くさいのが来たよ)」
向かいからライフォードが従者達を連れてやって来た。彼らはアルテがやったと決めつけて彼女を罵倒する。ライフォードはシンシアを抱き上げ保健室に連れて行くと言った。
「貴様、シンシアに嫉妬して攻撃するなど見苦しいぞ!お前とシンシアでは立場が全く異なるんだ!大丈夫かシンシア?」
「クスンッ…はい、ライフォード様っ」
「醜い悪女が…貴様など厄災もろとも滅べば良い」
「「そうだ!そうだ!」」
「聖女様を傷つけやがって!」
「いや、だか「あぁ可哀想なシンシア…早く傷を癒さなければ痕になってしまう。黒蝶に構ってる時間が勿体無い、行こう」
「はいっ、ライフォードさまぁ」
「……」
アルテが反論しようとする時に限って去っていく。残ったのはライフォードの側近達、皆怖い顔をしてアルテを見ている。
「未来の皇太子妃に怪我を負わせるだなんて…心まで醜いんだな」
「お前とシンシアでは天と地の差がある。身の程を弁えろ」
「聖女シンシアの敵はオレらの敵だ」
「……」
「…(私の平和な時間を返してくれぇ!)」
平和だった一学期が恋しい、どうしてこんな地獄へと化してしまったんだ。あの幸せな時間を返してくれ
普通、ここまで周りに罵倒、侮辱されたら精神が壊れ自害を選ぶだろう。しかし、傷付いてもアルテは前を向く。
だって自分は神託の黒蝶じゃない、見た目だけで悪役令嬢(悪女)に仕立て上げられて攻撃されてるだけ。
自分は何も悪いことしてないし、神託とは無縁の人間…これがわかってるからアルテは自分を貫けるのだ。
しかし、下手にこの場で反論するのは周りの思い描く悪女、悪役令嬢そのものになるのでどう動くかは頭を使う必要がある。
皇太子の側近である男4人に囲まれても暴れたり反論してもいけない。常に平常心を保ち、冷静に対処するのがベスト。
一番やってはいけないのは、無実なのに冤罪を受け入れる事。アルテはやってないのだ。
さっきだって、アルテが前から歩いて来るの確認して走り出したシンシアの自作自演、アルテは足を引っ掻けすらいない。あの何もない廊下ですっ転んだのだ。特別狭い訳でもない廊下で、自らアルテの横ギリギリを通り過ぎてでの転倒…芸術点は高いが人としての評価は底辺に値する。
その後、マルクス達はいつも通り言うだけ言って離れて行った。またしてもアルテが言い返す前に…しかしこれはこれで良いかもしれない。下手に言い返して更なる反感を買うのだけは避けたいから、言おうとしたタイミングで去られるのが良い。アルテの言葉が伝わる事は無いが
…見た目だけで悪役令嬢にされるのはまだ良い、だが周りの思い描く悪女·悪役令嬢には絶対になってはいけない。
自分を守れるのは自分だけ、自分は神託の黒蝶ではない!自分を守るために胸を張って堂々としろ!自分を貫け!
アルテは自分を鼓舞するよう言い聞かせ、静かに立ち上がった。マルクス達が去った時に周りも去ったのかアルテが立ち上がった頃には誰もいなかった。
幸いにもまだ授業が始まる10分前、大事になり、長引く前に片付いて良かった。
アルテは身だしなみを整え、突き飛ばされた時に散らばった筆記用具と教材を広い集めた。教材は無事だが、筆箱は見せしめのように派手に踏まれていた。安物なので壊れたら買い直せば良いだけ、幸いにも中のペンは壊れて無かった。
▼△▼△
二学期が始まってまだ一週間…ライフォードや婚約者候補の令嬢、側近やシンシアに絡まれており、アルテは疲れていた。
「(これが3年続くの!?)」
学園は3年制、二学期は1年の半ばで先は長い…
濃い一週間を体験し、アルテは絶望した。
1日がこんなに濃いと疲れる…精神的には来てない、身体の疲労が酷くなるだけ…。
…まぁ、耐えられない訳じゃない。伯爵邸での扱いもそれなりに酷いモノではあった。それがあるからか、アルテは心が強い。また、入学した日に大司教セルウィン本人から「アルテは神託に巻き込まれただけの人間」と言われ、彼女の心は更に強くなった。
堂々とし、自分を貫けば良いだけ。
アルテは教材と筆記用具を持ち直して教室に移動した。
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