Ep.36
アルテが自○を考える場面があります。閲覧注意です
パーティーから数日後
伯爵邸にヴィクトールがやって来た。
彼が来たとアルテを呼びに来た使用人だったが…
「帰らせて」
「し、しかし!」
「話す事なんて無いから」
「お、お相手は謝罪と…」
「何の謝罪?不要だから帰るよう言って」
「そ、そんな…」
アルテは使用人の方を見ずに淡々と言った、万年筆を動かす手は止まらない。
使用人は暗い顔をして部屋から離れて行った。
しばらくすると今度は父ルアンがやって来た。
「何故彼を返したんだ?」
「話す事も用もありませんから」
「しかし…彼は婚約者だろ…」
「表だけですよ」
「………」
威圧的な声ではなく本当に疑問に思ってるような声と反応、アルテは父の顔を見ずに答えた。
…ルアンもこの婚約に裏があるのでは?と疑問があった。そして今の彼女の返答から…裏があるのが確定した。
裏があるのなら…親交を深めろなんて言えない。
「アルテ…」
ルアンはそれ以上何も言わず去って行った。
我ながら冷たい女だ。婚約者を蔑ろにしてるのは自分も同じだ。
しかし、婚約者に殺意を剥き出しな男と無駄な時間を使う必要は無い。
この努力すら2年後には水の泡となって…自分の命と共に終わる。
関係を深めた所で言った言葉は取り消せない。たとえ2人が本当の恋人になってもヴィクトールは卒業時にアルテを処刑しなければならない。
言ったからには責任を取れって話
愛してしまったから前の発言や契約を撤回させて欲しいなんて図々しい。
しかし疑問点が有る
それはアルテが卒業前に第三者に殺害されたらどうなるかだ。聖女や教皇、神に仕える者達でも死者蘇生は出来ない…当然ながら婚約は破棄になる。
現に第三者からの刺客に襲われ殺されかけてるので同じことが起きる確率は極めて高い。
しかしもう一つの問題が出てくる
一度生死を彷徨い、目を醒ましたら…の場合が一番面倒で困る。一度は死に近い状態はなるのだから破棄になるのが普通、何時意識が戻るのかもわからないのだから。
「(意識が無い状態で婚約破棄するけど、目が醒めからもう一度婚約をなんて…図々しいにもほ程が有るでしょ)」
まさにその通り
これが許されるのは愛し合ってる2人での話だ。
しかしアルテとヴィクトールはそんな関係ですらない、死刑執行人と監視対象兼死刑囚だ。
仮にアルテが生死を彷徨い、意識が戻った際に待ってるのは…
ヴィクトール=クローウェルズによる処刑だろう
「……(生きてるにしろ第三者に襲われ意識不明に陥っても最期は変わらない!!)」
…【どう足掻いても絶望】とはまさにこの事…
結局、第三者に殺害され無い限りアルテに待ってるのはヴィクトールによる処刑のみ。
いっそのこと自害した方が気が楽だ。しかしそれだと良からぬ情報や悪評を広げる何者かに負けた気がするが…いや、むしろ良いダメージを与えられるかもしれない。
アルテ=レクイエデそのものが証拠になる。
だって、アルテ=レクイエデは黒蝶でも悪女でも何でもない、アルテを調べても誰かの広めたモノが偽だと公になるだけ。
アルテが生きてるから誰かが好き勝手に偽りの情報等を作り広めてる…
ならアルテが命を落とせば?
何も知らない偽りの情報を広げる元凶はアルテが死んだにも限らず広げ続ける…しかし世間には彼女が亡くなってると公になれば…自動的に元凶の発するモノが嘘だと判明するだろう。
……元凶にボロを出させるにも自害は有りだ……
生きてても待ってるのはヴィクトールによる処刑、そして何者かによる終わらない悪評と噂…
正直、生きてても楽しくない…今の努力も無駄になるのだから…
もし自分が満足するまで好きに生きたら…彼らを追い込む作戦に移っても良いかもしれない。
どんなに自分の立場が最悪でも、絶対には復讐なんてしない…
アルテが自ら手を下す必要は無い、時間と共に勝手に自滅していくタイプの嫌がらせだから…
「こうとなると、私に残されてる時間はほとんど無いわね」
思い残しを作らない為にも…やりたいことは全部やろう。
アルテは教科書とノートを閉じて別のノートを取り出し万年筆を動かした。
やりたい事は沢山ある。
まずは赤点を取らない事、絶対に取るわけにはいかない。だから勉強を頑張ってるのだ。
それから剣術を極めたい…
それから…
★☆★☆
「このくらいかな」
ノートにやりたい事リストを書き終えて見直した。
どれも2年後には水の泡となってしまう内容ばかりだが、それまでにやりたいたい…
自害は最後の手段だ…本当に精神的に追い詰められたらやろう…
アルテはやりたいことリストを見つからない所に隠して再び勉強道具を取り出した。
★☆★
1人楽しげにやりたいことをまとめるアルテの姿はまるで死が近い人間の姿だった…
独り言を言いながら楽しげに笑うアルテ…
そんな彼女の姿を…扉を開け彼女に話しかけようとしたルアンが見ていたのだった。
何処から見てたのか、聞いてたのか知らないが、アルテの姿は生きるのを諦めた人間のようにも見えただろう…
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