Ep.13
「誰がそう言った」
「へ?…ラ、ライフォード様よっ」
何時も無表情で何も言わず、冷たい目をしてるだけのヴィクトールがシンシアに冷たい目を向け、圧のある低い声で言った。
シンシアは驚き、恐怖を抱いたのか震えながら答えた。
「俺はアイツに命じられてしただけだ!」
「えっ?!…あ…えっ!?」
「「!?!?」」
「……(なるほど、シンシアは知らなかったのね)」
そう言うことかと納得するアルテ。前にヴィクトール本人から上に命じられて婚約しただけと言っていたからショックすら受けてないアルテ、こんな時も冷静だった。
どうやらライフォードは嘘などついておらず、シンシアが勘違いし勝手に行動したって事だ。
「アイツにそう言って騒いでこいって言われたのか!」
「ちがっ!」
ヴィクトールは乱暴に腕を振り払った。まぁ…彼の主はシンシアではなく、シンシアを可愛がってる皇太子ライフォードだ。シンシアが否定したから彼女の独断だとわかった彼は彼女を冷たい目で見る。
そのとき、野次馬が余計な一言を言った。
「でも可哀想な事に代わり無いよな」
「「っ!!」」
「…(そうとも捉えられるね)」
野次馬の発言に周りも「確かに」「そうだな」と再びざわついた。
それを利用し、シンシアは再度ヴィクトールの腕を掴んだ。
「周りの言う通りよ!ライフォード様の命令と言え、アルテさんと婚約だなんてヴィクトールが可哀想だわ!」
「離せ!」
「貴方の方が爵位が上なのだから婚約破棄すれば、貴方は楽になるわ!
「ふざけた事を!」
シンシアの言う事は残酷だ…。皇太子ライフォードから愛を受けてるにも関わらず、アルテと婚約破棄し自分を選べと遠回しに言うシンシア…
気持ち悪いとよく言われる悪役令嬢よりも気持ち悪いを事を平気で言う聖女…
「なんの騒ぎだ」
「(はぁぁぁ…また面倒事が…)」
心の中でガクッと項垂れるアルテ、学園側の通路からライフォードとマルクス達がやって来た。
ライフォードは直ぐ様アルテを睨み付ける。
「お前、どれだけ騒ぎを起こせば気が済むんだ!そんなにワタシの気を引きたいのか!はっきり言って気味が悪い!止めろ!」
「……」
この発言に野次馬は流石にアルテが気の毒だと思った。
今回ばかりは…いや、毎回騒ぎを起こしてるのはアルテではなくシンシアだ。
それに気付いたのは従者マルクス、彼は顔を青くしてライフォードの背を叩き、揉めてるヴィクトールとシンシアを指差した。
これにはライフォードもハッ!とし…気まずそうに顔を反らして揉める2人に近づいた。
皇太子が勘違いして怒鳴ったにも限らず謝罪もしないだなんて…マルクス達は更に彼の行動にドン引きした。ヴィクトールに最低な命令を出した時から彼は可笑しくなってる…そう感じていた。
「何を揉めてるんだ、ヴィクトール、シンシア」
アルテに放った怒鳴るような口調とは事なり、少々優しげに言うライフォード。
「っ、お前…コイツに何も言わなかったのか!」
「あ、あぁ…シンシア、何をしてるんだ」
「ヴィクトールが悪役令嬢のアルテさんと婚約したって聞いたから、可哀想だと思ってヴィクトールに婚約破棄しなよって言ってるのですっ」
「ん?…」
アルテだけじゃない、マルクスとガルク、カルヴァンはシンシアの発言に違和感を感じた。
…生徒や教室、帝国の人々はアルテを【悪女】と呼ぶ。確かに容姿は物語に登場する悪役令嬢そのものだが、誰もそう呼ばなかった。
しかしシンシアはハッキリと【悪役令嬢】と言った。
しかし指摘したら更に騒ぐだろうから黙る選択をした。正しい行動だ
シンシアの発言に何も気付かないライフォードはシンシアの体を優しく掴みヴィクトールから引き剥がした。
「シンシア、違うよ。ワタシがヴィクトールに命じたんだ。それに彼にはある事も頼んでるんだ」
「頼んでるって何をですか?」
「それは教えられない」
「そんなっ!どうしてもですか!?聖女のワタシにも!?」
「うん、聖女の君には言えない事をね…」
「……」
「(帰って良い?)」
アルテは遠い目をしてこのやり取りを見ていた。イチャつくなら他所行ってくれと思っていた。遠くでキャロラインがシンシアを血相を変えて睨み付けていた。彼女も本当の敵がわかったみたいで良かった。
アルテは足音を立てずそっと庭園を出た。誰も彼女に気付か無かった。…1人を除いて
☆★☆★
庭園での騒動は片付き、皆が庭園から離れた。
キャロラインも取り巻きと共に離れていたが、その顔は怒りで満ちていた。
「どういう事ですのっ、ライフォード様に迫ってたのは悪女の方でしょ!?あれじゃまるで…聖女様が…」
「キャロライン様?…」
「どうなさいました?」
彼女も噂や容姿だけでアルテを物語に登場する悪女、悪役令嬢のような性格だと思っていて。しかし先程のシンシアの失態を目にし、全てが嘘だと気付いた。
遅すぎるのか、速いか…どちらとも言えないタイミングだが、気付いてくれたので良いだろう。
「…お二人とも、頼みたい事がありますの」
「「何なりとどうぞ!」」
キャロラインは振り返り取り巻き2人の目を見た。その顔は真剣な顔になっていた。
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