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筋肉を愛でたい侯爵令嬢は、理想の筋肉に出会う

作者: ちえ

マーガレットは、今日も図書室から騎士の訓練の様子を眺めている。

以前は訓練場に通っていたのだが、未婚で婚約者のいる侯爵令嬢が毎日通うのは、少し望ましくない、とお父様に注意されてしまった。

そのため、訓練場を覗ける場所を必死に探し、図書室に落ち着いたのだ。


なぜそんなに訓練場にこだわるかと言うと、マーガレットは筋肉を愛しているからだ。

訓練場にいる騎士は、休憩や訓練終了のときに服を脱ぐことが多いので、筋肉を眺めるのに最適なのだ。


もちろん見るだけでなく、自分自信を鍛えて、自分の筋肉を愛でることも好きだ。

ただ、侯爵令嬢であるため、あまり筋肉がついてしまうと、見た目がよくない。そのため、全身の筋肉を使って、しなやかな筋肉を心掛けている。

その反動か、騎士のごつごつした筋肉がたまらないのだ。


うふふ、今日もあの騎士の筋肉は素敵だわ。あの鍛えられた背筋のラインがいいのよね。

ただ、理想を言うともう少し線が細い方がいいのよね。

細いけど、ごつごつしているの最高。


マーガレットが、最近の推し騎士を眺めていると、婚約者のルカの姿が見えた。

ルカは、茶色の髪と緑の目持つ線の細い青年だ。


「マーガレット、ここにいたんだね」

「ええ、読みたい本があったのよ。何か用事だった?」

「あぁ、次の休みに街に出かける約束をしていただろ?少し都合が悪くなってしまったので、キャンセルさせて欲しいんだ」

「そうなの。残念だけど仕方ないわね。またの機会を楽しみにしているわ」


アランとは政略結婚だが、筋肉が少ないこと以外、不満はない。

実は隠れマッチョで、脱いだらすごい、とかないかしら。でもあの全体的な線の細さを見る限りは、なさそうよね。

筋肉を愛でることは趣味で、結婚とは別だから、許してね。


◇◇◇


きれいな満月の夜だった。

侍女を護衛を連れて街を散策しながら、いろいろ見ていたらすっかり遅くなってしまった。家に帰るため馬車に乗りこんだ途端、突然馬が暴れ始めた。

「な、なに?!」

慌てて馬を見ると、どうやら馬車の光にひかれた虫が馬の近くを飛び、馬がパニックを起こしてようだ。そのまま猛スピード走り出した。御者が馬をなだめているが、なかなか止まらない。

馬と同じくパニックを起こしながら、必死に馬車の壁にすがりつく。


えー、これこのままどこかにぶつかって、ぐちゃぐちゃになってしまうのかしら。痛いのはイヤ


「床にまるまれ!」

突然の外からの声に、無我夢中で床にまるまると、強い衝撃の後に馬車の動きがゆっくりとなり、止まった。

恐る恐る床から体を起こし、状況を確認しようとすると、窓からこちらを覗く緑の目が見えた。どうやら、馬の暴走を彼がとめてくれたようだ。


「あの、ありがとうございます」

「いや、動けるようでよかった。街の警備を呼ぶよう頼んだから、後はそちらに対応してもらってくれ」

慌てて窓に駆け寄るが、均整の取れた後ろ姿は遠ざかっていくところだった。


後姿を見る限り、素敵な筋肉をもっていそうだったわ。何かお尻のあたりがもふもふしていたような?

って、違う!お礼を言いそびれたわ!!


その後駆けつけてくれた警備の人と後処理を進めていると、ラッキーなことに、駆けつけた人の中に、推しの騎士の姿もあった。

こんな身近で見られなんて!


「後処理は以上となります。遅くまでお疲れさまでした。

確認となりますが、助けてくれた方に心当たりはないんでよね?」

「はい。心当たりはないです」

「わかりました。あのまま暴走した馬車がどこかに突っ込んでいたら、怪我人も出たでしょうし、被害が最小限に済んで、よかったですね」

「そうですね、もし彼の連絡先が分かったら、お礼をしたいので教えて頂けますか?」

「はい、彼の正体がわかり、彼から連絡先を教える了承を頂いたら、ご連絡いたしますが、ご連絡できる可能性は低いかと思いますよ」

「そうよね。通りがかりの人だし、名乗りでてはくれなそうよね。」

彼の緑の目と、均整の取れた後姿を思い出し、じっくり筋肉を眺めるために、また逢えたらいいな、と思った。


◇◇◇


今日は婚約者のアランとのお茶会だ。

庭のガゼボには、お茶と季節のケーキや焼き菓子が準備されていて、綺麗に盛り付けられている。

マーガレットは昨日の夜のことをつ少し興奮気味に伝えた。もちろん筋肉~の辺りは言わないよう気を付けている。


「怪我がなくて何よりだったよ。次はぼくと街にいこうね。きっと何かあっても守ってあげるから」

少し恥ずかしいことを言われて照れていると、傍で控えているメイドたちから、生温い視線を感じ、さらに恥ずかしい。


「そういえば、そろそろ結婚の準備を始めないとね。結婚式までは後2年くらいあるけど、ドレスには時間がかかるだろうし、招待客の準備の進めていかないと」


マーガレットが15歳のときに婚約をして、20歳の誕生日に式を挙げる予定なのだ。

「そうね。婚約の時にもお伝えしたけど、今まで通り朝のトレーニングは続けるわよ」

「わかってるよ。ランニングや簡単な打ち合いなら、僕も付き合うよ」

アランは少し苦笑していった。何しろマーガレットの出した婚約の条件が、朝のトレーニングを社交とかより最優先にして続けたい、だったからだ。

お金や宝石ではなく、トレーニング。もちろん婚約の顔合わせの場驚きの空気で包まれたが、最終的にはOKを頂いた。あの時のアランのご両親の顔は今でも思い浮かぶ。

ただ、どうしても譲れない条件だったのだ。少し脳筋気味のマーガレットにとって、トレーニングをしない日は、どうしても落ち着かないのだ。


筋肉は裏切らないしね!あら、でもアランも一緒にトレーニングするなら、わたし好みの筋肉を育ててられるかしら。


◇◇◇


結婚式の準備を進めるために、アランの家で過去の資料を見ていると、アランの家紋が狼を模していることに気が付いた。この国では豊穣の女神をあがめているため、植物や天体の家紋が多い。


「アラン、あなたの家紋は狼なのね」

「あぁ、珍しいだろ。豊穣の女神の連れ添っている狼が、この家の祖先だと伝えられているんだ」


はるか昔、この国は植物の育たない不毛な台地だった。

戦争に敗れて流れてきた民の願いを聞いて、豊穣の女神がこの土地を人が住める豊かな土地にした。

この国の人間なら、誰もが知るおとぎ話だ。


「狼なんていたかしら?」

「あぁ、我が家に伝わっている話には狼がいるんだ。そして、そもそも豊穣の女神はその狼が住めるように土地を豊かにした、と伝わっているのさ。多分オリジナルの話を作ったのだと思うよ」

「そうなのね」


アランの家は侯爵家だが、歴史は長い。そんな家に亜流の話があるのも不思議だが、そういうこともあるのだろう。マーガレットは深く考えず、そういうものなのかと思った。


結婚式の招待客のリストについて相談していたら時間がかかってしまい、アランの家に泊まることとなった。


今夜は満月だ。

窓から月を眺めていると、アランの姿が見えた。

あら、夜の散歩かしら、と窓から声をかけようとしたが、折角ならこっそりいってびっくりさせてみましょう!

マーガレットは、侍女と護衛の目を盗み、そっと外に出た。


普段の素行がいいと、こういう時に役立つのよね。


アランが歩いていった方にいくと、アランの後ろ姿が見えた。近づくにつれ、違和感を感じた。


あら?目の錯覚かしら、お尻にしっぽがついているわ。しっぽを着ける趣味なんてあったのかしら。

何だかお昼に会ったときよりごついような?馬車の事故で事故で助けてくれた人に似てるような?


マーガレットは、パニックを起こしながら後ろに後ずさると、そのまま転んでしまった。その音に反応して、アランが振り返り、 その緑の目が驚きに見開かれた。


「窓からアランが見えたから、驚かせようと思ったのよ。

ただ、その尻尾にわたしがびっくりしてしまったわ」

「それはお互い様だね。今日は遅いから、明日話そうか。部屋まで送るよ」

そういうアランの尻尾が、ふわりと抜い揺れた。


◇◇◇


翌日、 マーガレットとアランは向かあって朝食をとっていた。

アランはいつものアランだ。尻尾の気配もない。


「マーガレット、昨夜のことなんだが」

「ええ」

「昨日、結婚式の準備をしながら、狼の話をしただろう?

あれは本当の話なんだ。その証拠に、わが侯爵では、たまに先祖帰りして、満月の夜に少し狼の特徴が出るものが現れる。

僕のようにね。

豊穣の女神が狼のためにこの地を豊かなものにしたと伝えるより、民の願いを聞いた、とした方が万人に受け入れやすいだろうという当時の判断で、今の形となっているらしいよ」


何だかさらっと話すけど、すごいことを聞いている気がするわ。

別に知らなくてもよかった。

いろいろ突っ込みたいけど、まずは気になっていることからにしましょう。


「狼の特徴って?尻尾のこと?」

「あぁ、後は体つきが少したくましくなることかな」

「まぁ、やっぱりそうよね!!」


マーガレットの目がキラキラと輝いた。そして、止まらなくなってしまった。

「昨日の夜見たあなたの体は素晴らしかったわ。ごつごつしてるけど、細くて、まさにわたしの理想よ!」


マーガレットは自分の理想の筋肉について語りだし、アランの顔を見て我に帰った。顔を赤くして黙り混むと、アランが突然笑いだした。


「ははっ、やっぱり君は筋肉が好きなんだね」


図星を指されて固まっていると、アランは更に続けた。

「いつも君の目線を追いかけると、男の人の体を見ている気がしたんだ。あ、もちろん相手は気がついていないと思うよ。

僕はつい君が何を見ているか気にしてしまうから」


それを聞いたマーガレットはこれ以上ないくらい赤くなった。そして、そんなマーガレットを見て、赤くなるアラン。

何とも言えない甘酸っぱい空気だ。

そんな空気を打ち払うように、アランがマーガレットに聞いた。


「マーガレット、君は僕が気持ち悪くないかい?」

「ええ、大丈夫よ。驚いたけど、気持ち悪くはないわ。馬車の事故で助けてくれたのもあなたね?」

「そうだよ。あの日は何だか落ち着かなくてね。街を散歩していたら、君の馬車を見つけたんだ。

正体がばれないかヒヤヒヤしたけど、まさか昨日ばれるとはね。

そろそろ話そうかと思っていたけど、怖がられたり、いやがられたらどうしようと、不安に思ってなかなか切り出せなかったんだよ」


マーガレットは微笑みながらいった。

「あなたはわたしの理想の筋肉だから、大丈夫。これからもよろしくね」


狼の夜しか理想の筋肉に会えないのは残念だけど、あの筋肉になるポテンシャルをアランはもっているのよね。


目指せ!理想の筋肉!!

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