彼の人の贈り物
「村のみなさんも、ごしんせつをありがとうございます。こころばかりのお礼をさしあげます」
天使の白いうでがすっとさしのべられると、人々はふたたびどよめきました。
ひざをいためていたおばあさんは、その場でかるがると立ち上がります。
背たけが小さいことを気にしていた男の子は、ぐっと背がのびてかん声をあげます。
病気で髪の毛がぬけてしまった女の子は、頭を隠していたスカーフをぱっととり、ふさふさの茶色の髪をあらわにします。
そしてさいごに、天使は教会のかべにふれました。
するとかべについていたよごれが消え、トタンでふさいでいた雨漏りの穴もきえさりました。
神父はあぜんとして口をあけます。
「これは……」
「みなさんの困りごとを、すこし手だすけしました」
しかし神父は、はれやかな顔ではありません。
天使はそれにおどろくことなく、そっと耳うちをしました。
「だいじょうぶ。あたらしくしたわけではありません。外の子どものらくがきも、つたものこしてありますよ。でももう、これからはずっとこの教会で冬のさむさや夏の暑さになやまされることはないでしょう」
神父はそれはもう、びっくりです。
教会の古さは、それだけたくさんの人に愛されてきたということ。
それを神父はいとおしく思っていたので、まるきりきれいにされたと思うと、もったいないような気もちになってしまっていたのでした。
しかし、ちゃんとそれを天使はわかっていたのです。
「……ほんとうにありがとうございます。ほんとうに」
神父は天使の手にひたいをつけて、さいごのあいさつをしました。
これでおわかれです。
村の人たちも、それを気づいて頭をたれ、天使をみおくります。
おごそかなふんいきの中、天使は感謝と祝福のことばをのこして、ばさりとつばさをひるがえしました。
銀の羽がそのいきおいできらきらとかがやき、ゆめのようなうつくしさです。
大きなはばたきを二、三すると、天使のほそいからだはあっというまに空へとまいあがりました。
小さくなったそのすがたが見えなくなるまで、ずっと、ずっと神父はわすれないようにいっしょうけんめい見つめていたのでした。
あのすばらしいクリスマスから、もうすぐ一年がたちます。
古びた教会には、神父がただひとり。
それでも、さみしくはありません。
目をつむってみると、いつでもあのうつくしい銀色のつばさと、やさしいこえがすぐそばに感じられるからです。
***
おはなしは、これでおしまい。
どうかあなたに、すてきなクリスマスがきますように。
これにて完結です!!
最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。
きっと皆様のクリスマスにも、すてきな奇跡が待ち受けていることでしょう。