表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

魔王軍に対してこちらはパーティー…おかしくね?

「……くっそ最後の1万円。せめて初当たりくらいはさせてくれ。」

 大学の講義をサボってパチンコを打ち続けるこの男。名前は田中太郎、21才。現在時刻は21:30、すでに9万円を店に持っていかれており、せめて負け額を半分にしようと躍起になっている。

ーーー『ぽきゅーん!』

「きたきた!!このままラッシュに入って負け額を取り返してやる!!」


 そうは問屋が卸さない。バイト先から受け取った諭吉が10枚入っていたはずの茶封筒はパチンコ筐体の光がまばゆく透けている。

 「くっそ!!潰れちまえこんな店ぇ!…ひっく…うぅ…これから1ヶ月どうやって生きていけば良いんだよぉ」

 情けなく呟きながら店を出る。自動扉を抜ければ外の静けさに先程までの騒音のせいか耳鳴りが激しくこだましている。

「終わった…いや、まだ終わってない。明日勝てば良い話だし…」そう口にしながら横断歩道を渡り始めた直後。

『ピッビィーー!!!』

「!?」

『ガッシャーン!!!』

 太郎は死んだ。華のキャンパスライフを送ることもなければ何かを成し遂げる訳でもなく、それどころか10万円を失った悲しみを癒す晩餐を取ることもなくトラックに轢かれて死んだ。


「ーー様、起きてください。勇者様!」

 女性の声がぼんやりと耳に入る

「……ん~?あれ、俺生きてる。てか、あんた誰?ここどこ?」

 ここはどうやらログハウスのようだ。木製の丸太を組んだような壁がお洒落である。暖炉もあり、まるで金持ちの別荘のような間取りだ。

 ふと目線を声のする方へやると、そこにはエプロン姿で金髪の中学生くらいの女の子がフライパンとお玉を持って頬を膨らませている。

 「何寝ぼけてんですかぁ?ここは王都の外れにあるトータム村。私はあなたの幼なじみのターニャでしょ?リーシュ。あなたは王様の勅命を受けて勇者に選ばれたんだから。今日はその記念すべき式典の日、ご飯もうできてるからサッサと支度して行ってらっしゃい!」

 あー、あれか。異世界転生というやつか…どうやら勇者になるらしい。痛いのも苦しいのも嫌なんだけど。ましてや魔王軍と対峙するなんてワイにできるわけなかろうもん。ただのパチンカス大学生だぞ。

 「早く来て!ご飯冷めちゃうでしょ!!」

 状況は理解した。ひとまずお腹が空いたし腹ごしらえとするか…。

 「……なにこれ。」

 「なにってご飯だけど。」

 人が作ってくれたご飯に文句を言うのは筋違いというのは分かっている。しかし、芋1つだけとはさすがに驚きを隠せない。こんなことなら昨日牛丼食べておきたかったなぁ。10万円の牛丼。

 「芋1つ…それも餞別の食事が…。」

 すると、ターニャは顔を歪ませて下を向いた。

 「本当はお肉とか魚とかを出したかったけど、今は魔獣警報が発令されていて、狩りに行くことが出来ず用意できなかったわ。芋だって育てやすいとは言え毎日食べられるほど実りが良いわけでもないのよ。ごめんなさいね。」


 そうか、この世界は魔王に支配されていて消して平和な状態ではないのか。

 「何も考えずせっかく用意してくれた食事に文句をつけて申し訳ない。塩が効いていてこのお芋、とっても美味しいよ。ありがとな、ターニャ。」

 すると少女は顔を上げて嬉しいそうにこう続けた。

 「そうでしょ!とっておきの岩塩を削って味付けしたからね!今じゃ王都の先の海岸まで行かないと手に入らない貴重な岩塩なのよ!味わって食べなさい!」

 2人で笑いながら芋を食べた。とても平和で幸せな時間だった。


 「これ地図!しるべ虫を王都に向かうように設定してあるから、ついて行けば迷うことも無いと思うけど念の為渡しておくわ!」

 しるべ虫とは道案内をしてくれる虫のことらしい。ホタルのようにお尻が光っている。

 「ありがとう、ターニャ。いってくるよ」

 真剣な顔でターニャはリーシュを見つめている

 「必ず戻ってきてね。私待ってるから。約束よ」

 当然だ。戦うつもりもないし、痛い思いもするのも嫌だからな。

 逃げ出すのかって?それは勅命違反で晒し首にされてしまうだろう。俺には前世の記憶がある。この国はまだ経験したことがないであろう『ー国家総力戦ー』

 間違ってもパーティーなんか組んで戦うもんか。魔王軍相手にこっちは4人のパーティー…おかしな話だよ。

 勇者による軍隊の編成。『勇者軍』を計画しているからだ。

 「当然だ、約束しよう。今度は俺がターニャにステーキをご馳走してやる!それまで待っていてくれ!」


 トータム村を後にし、王都につくと直ぐに城の中へと案内された。神々しい広間の中央には玉座が設けられ、そこに国王らしい老人が座っている。赤色の垂れ幕が背後にかかっており国章が中央に刺繍されている。

 「よく来たな勇者リーシュよ。この世界が魔王の手に落ちてから実に5年の歳月が経つ。一刻も早く魔王を倒さねば世界の平和は永遠に訪れまい。王都は結界により守られているが、すぐ外れの村にも魔獣警報を発令せねばならんほど状況は緊迫している。勇者リーシュよ。パーティを組んで魔王を倒してきて欲しい。まずは戦士と僧侶、魔法使いを集めるのじゃ。」

 お決まりのセリフだなぁ…このままパーティーを組んで魔王軍と対峙するのは真っ平御免被る。

 「僭越ながら国王様。1つ進言させていただいても構いませんか?」

 「うむ。発言を許可する。」

 「勇者パーティーを編成するために国営放送を使わせていただきたい。そこで公募を行いたい。」

 とは言っても、選ぶつもりなどサラサラ無いがな。応募してきたものは全員最前線で戦わせるつもりだ。

 出発前の食事でターニャから仕入れた情報によると、魔王軍は各所に小隊規模で軍を配置している模様だ。もっとも、勇者パーティーが魔王城を目指してまっすぐ向かってくることを想定すれば正しい配置だ。だが、総力戦となれば話は別だ。

 「構わん。許可する。すぐにでも国営放送を行いたまへ。本来であれば共に旅する仲間を選んでもらいたいところだがこちらとしてもそのような余裕はない。公募から選んでもらうのが合理的であろうとワシも判断する。今すぐ向かいたまへ」

 

 どうやら国営放送はこの魔導器を用いて行われているらしい。各家庭に水晶で作られたモニターがありテレビのように姿と声が放映されるらしい。民衆の反応を確認しながら放送がしたかったので、城からまっすぐ南に降りた王都の広場で公演を行い、その様子を魔導器でも伝えて貰う方法とした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ