06
私たちはその後、星形の目印を頼りに城内を探索した。
星形以外にも意味を失った古の紋様や、呪いの残滓であるかのような文字のカケラがあちこちの壁に殴りつけるように描かれているのをいくつも見た。得体の知れない汚れの跡は床や天井にもあちこち飛び散っていて、ランタンの灯りにゆらめき現れては、またすぐに闇へ沈んでいく。
カミラはいつもの毒舌を振るいながら、臆病なクラリッサをからかい続けた。いつも以上に執拗だったのは、彼女自身の不安を打ち払うためだったのかもしれない。
アロルドルフは大きな声で自信満々に振る舞っていたけれど、言動の端々から不安が露わで少し滑稽だった。
クラリッサは、小さな物音一つにも敏感になり、すっかり怯えきっていた。
私は気味悪さは感じていたけれど、側に頼りになるメアリーもいてくれるし、品位に欠けるカミラとアロルドルフに呆れてもいたし、ビクビクするクラリッサには苛立っていて、恐怖はあまり大きくなかった。
それ以上に、“祝福の古城”と呼ばれる試練をやり遂げたいと強く願っていた。こんなところまで一人でやってきて、立ち向かえる自分がとても勇敢だとも思えた。実際には一人ではなかったけれど、私はすっかり自分の力で全て進んでいるんだと思っていた。
* * *
古い祭壇に辿り着いたのは、夜半近くだっただろうか。
正直なところ、時間ははっきり分からない。
祭壇を取り囲む朽ちた木製の囲いには、誰かが置いた古い人形が何十体も並んでいて、それはさすがに不気味な雰囲気だった。その目はすべて空洞で、暗闇の中からじっとこちらを見つめている。
中央の祭壇は、大きな白い石板で作られていた。ちょうど人が横になればピッタリくらいの大きさだ。その表面はいつ刻まれたも分からない奇怪な文様にびっしりと埋め尽くされ、奇妙にもぼんやり光っていた。その祭壇の上には古びた燭台が何本も並んでいて、赤黒い蝋が溶け落ちた跡が血の涙のように流れて残っていた。
異様な雰囲気に、しばらくみな口を閉ざしていたけれど、初めに声を出したのはメアリーだった。
「お嬢様。どうぞ捧げ物を」
そう言って、私にバスケットを手渡そうとしてくれる。
だけど、その声は小さくて、多分他の人には聞こえなかったのだろう。
代わりに響いた声は、アロルドルフのものだった。
「やあ、ようやくたどり着きましたな。いやあ、良かった、良かった。これが噂の祭壇ですか」
そう言いながら、ズカズカと手ぶらで祭壇に近づくと白い石板の表面をペタリとなでた。
「ふうん、これがねえ。お、ちょっとここ凹んでいるのかな? ほら、カミラもおいでよ」
アロルドルフは平気そうに大声でカミラを呼んだが、彼女はさすがに躊躇していた。
「え……ちょっと、おやめなさいよ、まずは捧げ物をしてからにしましょうよ。ほら、アンナベル様が先に、ねえ」
そう言ってこちらを見るので、私は曖昧に頷いた。確かに、捧げ物をしないで勝手に触るのはよくない気がする。
アロルドルフは決まり悪そうに笑った。
「いやあ、安全かどうか、先に確かめるのが紳士ってものですからね。ささ、アンナベル様、どう、ぞ……」
その時だった。
城内の雰囲気が一変し、異様な気配が漂い始めたのは。
* * *