名探偵が殺人犯を追い詰めたけど、犯人の往生際が悪すぎる
名探偵・迷野宮太が容疑者である比賀冷矢を、人気のない空き地に呼び出した。
冷矢は不敵な笑みを浮かべる。
「せっかくうどんを食ってたってのに、なんの用だい? 探偵さん」
「犯人が分かったんですよ。今回の殺人事件のね」
「ほう、一体誰だい?」
「犯人は比賀さん、あなただ!」
まっすぐ指を差されたが、冷矢の表情には余裕が残っている。
「どうせそういう話だと思ってたけどさ。どこにそんな証拠があるってんだい?」
「証拠は……あなたについている血痕ですよ」
「え!?」
冷矢の着ている白いシャツには、真っ赤な血がべっとりとついていた。
「あああ……!?」
「被害者を刺した時の返り血でしょう。ちゃんとシャツを着替えるべきでしたね」
冷矢の顔に焦りが浮かぶ。
「ち、違う……! これは血じゃない!」
「じゃあ、なんだっていうんです?」
「これはそう、ケチャップ! ケチャップだ!」
「なんでシャツにケチャップがつくんです?」
「俺はオムライスを食べてたから……」
「さっきうどんを食べてたって言ってましたよね」
「ぐっ!? ……細かいところまでよく覚えてやがる!」
「ついさっきの話ですし、大して細かくもないですよ。で? 結局どっちを食べてたんです?」
冷矢は悩んだ末――
「う……うどんだ!」
「なぜうどんを食べてケチャップがつくんです?」
「俺はうどんにケチャップを混ぜるのが好きなんだ!」
「ずいぶん変わった食べ方をするんですね」
「関西ではこう食べるのが通なんだよ!」
「関西の人が怒りますよ。そもそもあなた関西人じゃないですし」
「う、ぐ……と、とにかく! これはケチャップ! 仮に血だったとしても、俺が犯人だという証拠にはならないぜ!」
「確かにそうですね。事件現場で転ぶなどして血がついてしまった可能性もある」
「だろう!?」
思わぬ反論を受けたが、宮太は冷静だ。
「ですが、あなたが被害者を刺した証拠は他にもありますよ」
「ほう、俺が青龍偃月刀で奴を刺した証拠がどこにあるってんだい?」
「おや? 私は凶器が青龍偃月刀だとは一言も言ってませんが……」
「あっ!?」
「なぜあなたが凶器を知ってるんです?」
「カマをかけやがったな……この卑怯者!」
「今のを“カマかけ”と表現したら、“カマかけ”という言葉が激怒するレベルですよ」
青龍偃月刀とは、長い柄に巨大な湾曲した刃がついた武器で、三国志の関羽の武器として有名である。
宮太が話を戻す。
「なぜ、凶器を知ってるんです?」
「え、と……なんとなく青龍偃月刀かなーって思ったんだよ!」
「……まぁいいでしょう。現場の近くに青龍偃月刀が捨ててありまして、私と警察はこれが凶器だと断定しました。刃には被害者の血痕もついていましたからね」
「うぐぐ……」
「入手経路の特定は簡単でした。青龍偃月刀など、そう簡単に手に入る代物ではありませんから」
「そうかな……コンビニとかに売ってる気がするけど」
「売っててたまるか。そして我々は青龍偃月刀を売った武器商人を見つけ出し、話を聞きました。するとこう言ってましたよ。『確か比賀冷矢って奴に売ったよ』ってね」
「うぐ!」
「しかも、こんなことも覚えてましたよ。『あの客、“ククク、これで奴をブッ殺せる”って笑ってた』ってね」
「あの野郎、口が軽すぎるんだよ! 全部バラしやがって!」
「あなたの口の軽さも相当なものだと思いますがね。とにかく、この青龍偃月刀から決定的な証拠が発見されたのです」
「なんだよ?」
「あなたの指紋です」
「ああっ!? し、しまった手袋をつけるのを忘れてた……」
「何か言いました?」
「い、いや続けてくれ……」
冷矢は汗だくになっている。
「凶器は青龍偃月刀、購入者はあなた、そして柄にはあなたの指紋がついている。これはもう決まりでしょう」
「い、いや待ってくれ……。俺の指紋が出たからといって、俺が犯人とは限らない!」
「それは苦しすぎると思いますが」
「ほ、ほら例えば……俺の双子の兄弟とか。双子なら指紋は一緒だろ!」
宮太は首を横に振る。
「残念ながら、双子でも指紋までは一緒じゃありませんよ」
「じゃ、じゃあ……三つ子とか」
「増やしてどうすんです」
「と、とにかく俺がたまたま青龍偃月刀に触っただけって可能性もあるだろう!」
冷矢はあくまで言い逃れようとする。
「まぁいいでしょう。他にも決定的な証拠があるんですよ」
「ふん……なんだよそりゃ」
「現場にあった監視カメラの映像です」
「はぁ!? 事前に警備員に聞いたら、あのカメラはダミーだって言ってたのに騙しやがって! あ、いや……何でもない」
「もういいです。とにかく、映像をご覧下さい」
宮太はスマホに移した監視カメラの映像を見せた。
そこには冷矢が被害者の胸を青龍偃月刀で突き刺すシーンがはっきりと映っていた。
「う、ぐぐ……!」
「まだ言い逃れしますか?」
「こ、これは……作り物だ!」
「作り物?」
「最新鋭のテクノロジーで超リアルな映像を作って、いかにも本物の映像っぽく見せかけるヤツ! シー……ええと、あれだよ。シー……シー……」
「CGですか?」
「そうそれ! どうもありがとう!」
「シーまで出たならジーも出して下さいよ」
「とにかく! 今の映像はよく出来たCGの可能性もある!」
まだ認めないのかと宮太はため息をつく。
「他にも証拠はあるんですよ」
「まだあるのかよ!?」
「いわゆる“ダイイングメッセージ”というやつです」
「なんだよそれ!?」
「被害者はあなたに刺された後、まだしばらく息があって、あなたの名前を血で書き残していたんですよ。はっきりとね」
「あの野郎! あんだけ深く刺したのに生きていやがっ……あ、いや、何でもない」
もはや宮太はスルーする。
「さあ、これだけ証拠が揃ってるのに、まだ言い逃れしますか?」
「ふ、ふん、探偵さん。あんたはよほど作り話が好きなようだ。小説家にでもなったらいかがかな?」
「この事件を小説にしろって言うんですか?」
「芥川賞くらい取れるかもよ」
「芥川賞ナメんな」
言い逃れの言葉を思いつかなくなったのか、冷矢はうめき声を発する。
「うぐぐぅ……」
「さあ、潔く自首して下さい。殺人事件の犯人としてね」
「ふ、ふふふ……」
「?」
冷矢は不意に笑い出した。
「こうなったらこの手だけは使いたくなかったが、最後の手段だ……!」
「な、なんだ!?」
冷矢は合掌する。その全身からはただならぬ妖気が放出される。
「カエ~レカエ~レ、ヨミカラカエレ、カエ~レカエ~レ、イキカエレ~」
「なんだこの呪文は……!?」
「カエ~レカエ~レカエ~レカエ~レ……カァッ!!!」
冷矢の一喝で、すでに病院にあるはずの被害者の遺体が、彼らの元に転送される。
そして――
「う、うう……ここは?」
なんと被害者が意識を取り戻した。
「蘇生させたのか!?」
「その通り! 俺がつけた傷はすっかり塞がり、ついでに生前の持病なんかも治ってるはず! ゲームで状態異常のまま死んだキャラを生き返らせたら、状態異常も回復しているあの理論でな!」
「どんな理論だよ」
被害者を復活させた冷矢は高笑いする。
「ハーッハッハッハ! 被害者が生き返ったら、もはや俺を逮捕することはできないだろ! 俺の勝ちだァァァァァ!!!」
「……」
黙り込む宮太に、冷矢は勝ち誇る。
ところが――
「確かに……“殺人罪”では無理だろうな」
「え?」
「だがこれだけの証拠が揃ってれば、何かしらの罪でしょっぴくことは可能だろう。少なくとも、現時点でも銃刀法違反は確実だ」
罪を逃れるため言い逃れに言い逃れを重ね、被害者まで生き返らせた冷矢だったが、ついに膝から崩れ落ちた。
「ぐ……ぐううう……!」
事件は解決した。
宮太は生き返ったばかりの被害者に振り向く。
「大丈夫ですか?」
「ええ、なんだか死ぬ前よりも体調がいいです」
「でしょうね」
先ほど冷矢が説明した理論通り、被害者はおそらく完全な健康体となっているのだろう。
しかし、宮太には確認しておきたいことがあった。
「そういえば、なぜあなたは比賀さんに殺されたんです?」
「ああ、こいつ、貸した1000円をなかなか返さないので、最近催促してたんですよ。そしたらグサッと」
これを聞いて宮太は冷矢にキレた。
「お前、そんな下らない動機でこんな事件を起こしたのか!!!」
「すみません……それに関しては言い逃れできません……」
完
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