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2-3 分かち合うこと

 僕と京介は再びさそり山公園の方に向かっていた。


 いつもクールな京介の内に秘めた思いを知る事が出来たのは、僕にとってとても新鮮な事のように感じた。

 話し終え無言で山道を歩きながら僕の回答を待つ彼に、僕は答えた。


「かばったのに理由なんてないよ。あの時は気づいたら勝手に体が動いていたんだ。京介がいなくなってから、僕は通りがかった家で手当てをしてもらって、そしてスーパーの方へ向かった。どうしてかはわからないけど、きっとそこに京介が居るような気がしたから。

 そしたら途中の児童公園で、中学生が何人か集まってボッケモンのカードを並べながら、『あの店員マジでちょろいちょろい。小学生いけにえにしたらあっさり店出れたよ』って喋っているのを聞いたから、ひょっとしたらと思ってスーパーに行ったら丁度京介が連れていかれそうになってた、という訳さ」


 京介はそれでもまだ納得しない様子でまくしたてた。


「でも、俺はお前を怪我させて、謝りもしないまま逃げたんだぞ。そんな奴を助けるなんて、どう考えてもおかしいだろう」


 興奮した様子の京介に僕は優しく語りかける。


「京介は誤解されやすいけど、誰にだって優しく接しようといつも頑張っているし、なおかつ善い事と悪い事の区別だってつく。だから万引きなんてするはずもないし、後できっと僕に、自分のしたことを謝ってくれるって信じてた。

 その証拠に、その日の夜京介は家に来て、泣きながら僕に謝ってくれたじゃない」



 気づけば僕たちは元来た公園に辿り着いていた。

 さそりの滑り台にもたれかかり、途中の自販機で買ったサイダーを飲みながら京介は僕に話してくれた。


 京都のとある大学に入学した京介は、たまたま入ったサークルがカルト団体に通じていて、また仲間内のいざこざで住んでいる寮内の雰囲気も次第に悪くなり、その結果一時期は相当苦労したらしい。


 一人ではどうしようもない壁にぶつかって、親や学校など周りの支援を元に何とか普通の生活を取り戻したが、あの時一人では何もできなかった自分を、今も悔やまない日はないそうだ。


 自分は所詮無力だ。

 自分一人の力では何もなし得ない。


 自分の力で何とかやってこれた世界からいざ外に飛び出してみると、弱い自分にできる事なんてこれっぽっちもない。

 京介はそのように悟ってしまっている。


 僕は僕で、京介は京介でそれぞれ色んな悩みを抱えている。

 僕の持つ屈託を誰にも理解できないのと同じように、京介の持つ悩みを僕なんかが完全にわかってあげるのも難しい。


 でも、解りあえなくても「分かち合う」事ならきっとできるのでは……?

 と、僕はその時少しだけ感じた。


 だから僕は京介の前に手を差し伸べて言った。

「確かに人間は一人では無力だし、抱える痛みを他人が解ってあげる事なんて完全には出来ない。でもだからこそ、辛い時は辛いって言って、互いに支えあっていく事が大事なんじゃないかな。

 もし京介がまだ僕を友達だと思ってくれているのなら、あの時みたいに頼って欲しい。僕に何が出来るかわからないけど、出来る限りすぐ駆けつけるから。

 あとね京介、たとえ住む世界が変わっても、京介は京介、僕は僕、そして僕たちは僕たちのままだよ」


 僕の話を黙って聞いていた京介は、おもむろに手を払いのけ、前に歩き出したかと思うと立ち止まる。

 そして、僕に背を向けて一言、「セリフがクサいな」と呟いた。


 酷いと思ったが、その後俯きながら微かな声で「ありがと」と囁いたのを僕は聞き逃さなかった。


 僕たちはこの町に置き去りにした幼い頃の気持ちや、人に頼る強さを少しだけ取り戻したような気がした。

 まだ伊織の失くしたものはわからないけど、伊織に今日の話もしてあげようか。


 風雨で錆びついたサソリの滑り台の写真を添えて。




 伊織にRINEでメールを送り終えると同時に、僕の携帯に一通のEメールが届いた。

 西の方から赤い夕陽が名残惜しそうに木々と遊具を照らしていた。



2. スコーピオン おわり

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