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2-2 京介の回想

 あれは、丁度俺が小五の時だった。


 幼馴染の間柄でお前や伊織ちゃんたちとはよく遊んでいた。


 俺は昔から親に、誰よりもたくましくなりなさいと言われ育てられてきたから、常に活発に、堂々と振る舞うよういつも努めて来た。


 そうして自分なりに努力した結果、俺は割とみんなの中心にいるような存在になれた。


 それに比べ、お前はどちらかと言えばのんびり屋で、水泳こそ得意だったが後は平均位のまあ普通の奴だった。

 人並みに笑い、人並みに怒り、人並みに泣く。


 今だから言えることだけどな。当時の俺はそんなお前に対抗心むき出しで、ほとんどの面で勝っているとさえ思っていた。

 でも、ただ一人伊織ちゃんだけは、いつもお前のそばにずっといた。


 別に悔しかったとか、はっきりとした気持ちがあったわけじゃない。

 ただ、何でかわからないが、そのことだけが自分の中で無性にモヤモヤしてイライラしていたんだよ。



 そして、そんなある日、いつも通り伊織ちゃんと帰っているお前を見た俺は、ついとっさに前に出てきて、一人でさそり山公園に来い、と言った。

 お前は俺の宣戦布告にこくりと頷いたよな。


 それを見た俺は急いで公園まで走ると、あのサソリの滑り台のてっぺんに上がり、静かにその時を待った。


 俺の考えた計画ではこうなるはずだった。


 お前が俺に気づいて滑り台の手前まで来た瞬間、てっぺんから目の前ギリギリのところに着地する。 

 そしてひるむお前に対してこう言い放つ。


 「これ以上伊織ちゃんにまとわりつくな」と。


 お前はきっとビビッて、きっとこれ以上伊織ちゃんと関わらなくなるだろう。

 あの時の俺は本当にそんな風に思い込んでいた。


 どうかしてたんだよ。バカみたいだ。


 でも、現実はそううまくはいかなかった。

 飛び降りようとしたほんの一瞬、僅かながら手すりに足がぶつかって、バランスを崩して俺はお前に覆いかぶさるようにぶつかってしまった。


 幸い上に乗っかる形となった俺はほぼ無傷で済んだが、下敷きになった清彦は身体中の至る所を擦り剥いて、肘や膝が紅色に染まってしまっていた。


 本来なら、すぐに立ちあがって清彦に深く謝るべきだった。

 でも、バカな俺は謝れなかった。


 うずくまる清彦をよそに、そのまま何も言わず一目散に公園から逃げ出した。



 それからしばらくどこを歩いたのか覚えていない。

 気づけばスーパーのカード売り場にいた。


 それとなく商品を見ていると、当時出たばかりの「ボッケモン」の人気キャラ「スコーピオン」のカードが並んでいた。


 何となしにそれを手に取ったが、生憎財布を持ってきていない。

 色々な事で変な気分になっていた俺は、いっそのこと盗んでしまおうか、と考えた。


 幸か不幸かいつも付近をうろちょろしている店員は見当たらない。

 カードをさっと手に取る。


 どうする?


 一瞬考えたが、すぐさま手に持ったカードを戻した。

 流石に万引きはマズい。


 友達を怪我させ逃げて来た俺が、さらに罪を重ねるのか。

 ほんと、今日の俺はどうかしてる。


 膨れ上がる罪悪感と嫌悪感を無理やり押し込め、足早にその場から立ち去ろうとした。

 その時だった。


 売り場にいた中学生くらいの少年とぶつかって思わずよろけた。

 少年は俺を見るなりなぜかニヤリとすると、どこかへ走っていく。


 少しだけムカついたが気を取り直し店から出る。

 そのまま駐車場を歩いていると、後ろから何者かが俺の方に向かってくる気配がした。


 振り向くとそれは売り場の店員だった。

 その店員は俺に声をかけると、淡々とした口調で言い放った。


「君、ポケットの中身を出しなさい」


 俺は言われた通りにポケットの中に手を入れた。

 すると、ポケットには入っているはずのない物が入っている。


 指で掴んで取り出すと、それはまさしく「スコーピオン」のカードだった。

 俺はあのぶつかってきた少年にはめられた、とすぐに気づいた。


「取りあえず、事務所まで来てもらおうか」


 店員は無表情でそう告げると、コードレスフォンでどこかに電話を掛けている。


 もう終わった。

 このまま無実の罪を着せられるのが何より悔しくて、涙が出そうになる。


 もはや今まで頑張って積み上げてきたと思い込んでいた「ハリボテ」の強さではカバーできないくらいの、強い悲しみが襲った。


「じゃあ行こうか」


 店員が促す。

 なすすべなく俺がそれに従おうとしたその時だった。


「き、京介は万引きなんてしてないよ! 僕は、僕は、犯人を知っている!」


 おどおどした、でも大きなその声に驚きその出所を見ると、肘と膝に包帯を巻いた清彦が立っていた。


「君はあっちに行ってなさい」


 店員が冷たく突き放すが、清彦は怯む事なく叫び続ける。

 堪らなくなった店員が俺の手を強引に引こうとするも、それを止める人物が現れた。


「君、その子を放してやりなさい」


 助けてくれたその人は初老の男性だった。

 名札を見ると「店長」と書いてある。


 店長は清彦に近づくと、しゃがみこんで優しい口調で言った。


「犯人を知っていると言ったね。詳しく話を聞いてもいいかな?」


 清彦は無言で頷くと、店長と店員に連れられて店の方へと向かって行った。

 残された俺はしばらくただその場に立ち尽くしていた。




 それから清彦の証言を元に捜査が進められ、中学生グループが警察に引き渡された事を風の噂で知った。


 でも何故あの時お前は勇気を出して俺の事を助けようとしてくれたのだろう。

 俺はお前にあんなに酷い事をしたのに。


 いつかその事についてずっと尋ねてみたかったが、結局聞く機会もないまま、一年後に俺は転校したんだ。

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