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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第67話 英雄


「お待たせしました!」


 活気のいいエレナの声が広場に響く。


 賭けの整理と、黒貨の計測がようやく終わる。


 気付けば、夕方。時刻は午後4時55分を指していた。


「結果を報告しろ」


「黒貨総枚数1万2024枚。目標額は達成しております!」


 ここにいる住民全てを味方につける必要はない。


 半数で良かった。目標金額はピーク時の半分でいいのだから。


「文句の付けようがない。認めるしかなさそうだな。勝負の成立を」


 今度は、歓声は上がらない。ぎらついた視線が神父に向くのみだった。


「舞台は整ったみたいですね。……勝たせてもらいますよ」


 今度は虚勢ではない。住人を納得させた、方法。


 それをここで、証明し、変えてみせる。この世界の歪んだルールを。


「やってみろ。できるものならな」


 神父は、数分の沈黙の後。柱時計が午後五時を指した時。


「――三分以内に投票を完了しろ」


 それと同時に告げられる、開始の合図。


 まず、確認しなければならないのは、寿命だった。


『寿命――残り3分12秒』


 あらかじめ選んでおいた画面には、そう表示されていた。


「……」


 すかさず、ジェノは視線を送り、気付いたメリッサは軽く頷いた。


「――六人の腕を拘束しろ」


 二人が行動を起こそうとした時、機先を制したのは、神父だった。


「「「……」」」


 その号令に、背後にいた三人の黒服の女性が動き出す。

 

 それぞれが黒いフルフェイスマスクをつけており、手には手錠を持っていた。


「言っておくが、拘束は絶対だ。抵抗はお勧めしない。抗えば、死んでもらう」


 言葉による牽制だったが、その拘束力は大きい。


 全員が無抵抗のまま、黒服により手錠をつけられていく。


 拘束は前腕のみで、タブレットの操作は辛うじて可能みたいだった。


「こんなもので、止められると思っているんですか?」


「現に止まっているだろう。こんなちんけなものでな」


「いいえ。止まりませんよ。拘束されてない、彼らは」


 視線を向けた先、そこには見知った人物がいた。


「やれやれ、とんでもない大役を任されたもんじゃわい」


「お得意さんの頼みとあれば、断れないね。相手してもらうよ」


 現れたのは、草屋の店員と、酒場の店員。


 時間を稼いでもらうため、声をかけた二人だった。


「総棟梁に、始皇女帝か。こんな隠し玉を用意しているとはな」


 神父は立ち塞がる二人に対し、訳知り顔で言った。


「元じゃ」


「元、ね」


 過去の肩書きはいらない。


 そう言わんばかりに二人の声は重なっている。


「……私に逆らえばどうなるか、分かっているんだろうな」


 あえて神父は試すように、いや、脅すようにして問いかける。


「覚悟はできておる」


「当然ね。借りは返すよ」


 だけど、二人の答えはすでに決まっていた。


 草屋の店員はドスを抜き、酒場の店員は静かに構える。


「やれるものなら、やってみろ。たった二人で、相手になると思うならな」


 涼しい顔をして神父は構え、周りの黒服たちも臨戦態勢に入っている。


「元よりそのつもりじゃが」


「二人だけじゃ、ないみたいね」


 背後に目を向けると、そこには敵意むき出しの住人たちがいた。


「俺らをハメた覚悟。できてんだろうなぁ、あぁ?」


 その一人が代表となって、神父に問いかける。


「揃いも揃って馬鹿ばかりだな。まとめて相手をしてやる」


 理性を持った住民たちが暴徒になる理由は、その一言だけで十分だった。


「……面白れぇ。この人数、相手できるもんならやってみろや!!」


 一人の男が先陣を切り、始まる、大乱闘。


 町中の半数以上の暴徒が、神父たちに襲いかかった。


『寿命――残り2分00秒』


 時間を確認し、戦況を冷静に見る。


 驚くべきことに、乱闘は拮抗状態だった。


「――やっぱり、あなたなら、負けないんでしょうね」


 分かっていた。恐らく、神父は組織でもトップクラスに強い。


 戦えば勝ててしまうからこそ、生じる隙。そこに、勝機はあった。


「燦爛と輝く命の煌めきよ、幽々たる深淵に覆われ、虚空の闇へと堕ちよ」


 メリッサは作戦通りに、詠唱を終えた。


「作戦通りだ。ここまでは――」


 ◇◇◇


 25時間前、円卓会議。


『シュレティンガーの猫作戦?』


 メリッサが言い出した、突拍子もない発言に、ジェノは聞き返す。


『一種の思考実験っすよ。猫を箱の中に入れて、箱には、50%で起動する毒ガスがあるっす。箱の中で猫が毒で死んだのか、生きてるのかって、箱を開けてみないと分からないっすよね。その実験をシュレティンガーの猫って言うっす』


 つらつらとメリッサは質問に答えていく。


『なんとなく分かったけど、それがどう作戦に関係するの?』


『簡単っす。見えない箱の中で人狼のうちが死んで、生き返ればいいんすよ!』


 ◇◇◇


 シュレティンガーの猫作戦。


 メリッサの周囲にだけ、影を展開。


 不可視の状態にして、全員がメリッサに投票する。


 投票されたメリッサは、首輪の起爆により処刑される。


 影の中は外からは見えないため、中にいるメリッサの生死は不明。


 その後、影を解除し、メリッサが外に出れば、生きている状態が確定する。


 つまり、勝利条件である全員が生存し、人狼が死んだ状態が成立してしまう。


(このままいけば、勝てる)


「メリッサ! 影を広場全体にまで広げて!!」


(でも、駄目なんだ。――目的のためでも手段は選ばないといけない)


 あらかじめ用意した作戦を無視し、ジェノは指示する。


 メリッサには死なせないと約束した。誰かが死ぬ勝利なんて間違ってる。


「――っ!? どうなっても、知らないっすよ!」


 戸惑いながらもメリッサは影を広げ、広場を呑み込んでいった。


 場には暗闇が満ちていったが、広場の街灯が辺りを照らしてくれている。


「馬鹿! 何をしてる! もう引き戻せないところまで来ているんだぞ!」


 異変を察したパオロは叫んだ。


 ただ、それに反応する余裕も時間もない。


「メリッサ、俺の手錠を切って!」


「了解っす!」


 指示通り、メリッサは纏った白手袋から白い糸を飛ばす。


「――させると、思うか?」


 しかし、糸の軌道は逸れる。


 現れた神父がメリッサを背後から押さえつけたせいだ。


「ぐっ!」


 メリッサは顔を歪め、手に持つタブレットが足元に落ちる。


「お前にあるのは、投票権だけだ。次、能力を使えば、始末する」


 投票に必要な動作だけ許し、それ以外は阻止するつもりなんだろう。


 冗談ではない警告。そう感じざるを得ないほどの威圧感が神父にはあった。


(早すぎる……。まさか、あの二人を、もう?)


 想定を超えた早さでの妨害。


 辺りを見回すと、二人は地面に倒れている。


「こいつらは私が押さえておく。お前たちは、住民の対処だ」


 そこで、神父はすかさず、不穏分子の排除を黒服に指示していった。


「……了解」


「了解でーす」


「かしこまりました」


 指示を受けた黒服たちは軽々と、暴徒を鎮圧していく。


 見通しが甘かった。あのたった数人が、ここまで強いなんて。


「さて……悪運も尽きたようだな。お前は一体、何がしたかったんだ」


 次に神父は、メリッサに敵意がないと踏んだのか、こちらへ迫ってくる。


(腕が拘束されたじゃ、成功する確率は……。いや、信じるしかない)


「聞いてください! 昨晩、俺は盗賊の能力でメリッサの役職を盗みました!」


 追い込まれた劣勢の中、ジェノは告げる。


「――俺が、人狼なんです!」


 最良の結末を求めて、作戦を大幅に変更していたことを。


「「「「「!?」」」」」


 予想もしない展開に、全員が困惑の色を浮かべている。


「だから、俺に、投票してください。処刑されても、絶対に生き延びますから」


 敵を騙すなら、まず味方から。


 誰か一人にでも知られたら、止められた。


 マーレボルジェの住民を説得することはできなかった。


 今からやるのは、博打も博打。生きるか死ぬかの大博打だからだ。


『寿命――残り1分00秒』


 時間が迫る。もう、時間は見ない。


 これ以上、見ても意味がない。賽はすでに投げられている。


『投票選択――投票する名前を選択してください』


 表示される名前の一覧から迷わず選択する。自身の名前を。


 けど、周りの仲間は戸惑いを隠せず、手は止まり、沈黙していた。


 ――押しの一言が足りてない。それなら。


「信じてください、これまでの馬鹿な俺を!」


 伝わらないかもしれない。そんな不安が駆け巡る。


 でも、伝わるって信じてる。対等を誓った仲間なんだから。


「……馬鹿野郎が。どうなっても知らんぞ」


「……し、信じます、これまでのあなたを」


 パオロ、アザミ、投票。


「信じるぜ、きっと、なんとかするんだろ」


「よく分からんが、信じる他ないようだな」


 ルーカス、マクシス、投票。


「信じるに、決まってるじゃないっすか!」


 メリッサ、投票。


『投票完了――ジェノ6票。処刑対象ジェノ。5秒後に処刑が開始されます』


 整った。これ以上ない舞台。後は――。


『5』


「夜助さん!!」


 信じて叫ぶしかない。この逆境をひっくり返せる存在を。


『4』


「人遣いが荒い、のぅ!」


 上空から夜助は白い刃を煌めかせ、一刀両断。ジェノの手錠を切り裂いた。


『3』


「死に、損ないが」


 気付いた神父は一直線に迫り、夜助へ連続蹴りを放つ。


「ぐ、うっ!」


 一手遅れたせいか、防御が間に合わない。


 夜助は蹴りをまともに受け、吹き飛ばされていく。


(ごめんなさい、夜助さん)


 ジェノはその隙に、自由になった右手を腰のホルスターに突っ込んだ。


『2』


「……終わりだ」


 気付けば、神父は目の前。まともに戦って、勝てる相手じゃない。


 ――だけど。


「終わるのは、あんたね」


 助っ人は、もう一人いる。酒場の店員が現れ、前に立ち塞がった。


『1』


「発勁山破!!!」


 両手を前に突き出し、放つ。起死回生の一手。


「――っ!!」


 神父は腕で守るも、その腕ごと吹き飛ばし、距離を生む。


(ありがとう、店員さん。これで!!)


 生じたわずかな隙。〝悪魔の右手〟を装着したジェノは、首輪にあてた。


『0』


「あぁぁぁぁああああああああああああああああああっっ!!!」


 咆哮。起爆。発光。


 破壊と分解が首元でせめぎ合う。


 思いついたのは爆破草を打ち消した時。


 仮想上、首輪が起爆された瞬間、人狼は死ぬ。


 現実上、首輪が起爆された瞬間、人狼役は生きている。


 ルールが矛盾する。起爆が終わるまで、このわずかな時間だけ。


 つまり、首輪が起爆しても、中身の人間が生き残れば、届いてしまう。


 ――人狼が死に、人が全員生存する、完全勝利の条件に。


 それが、ジェノが思い描いた最良の結末。そして、人生最大の賭けだった。


「っ!!!」


 が、簡単にはいかない。


 喉が焼けるように熱い。いや、焼けていた。


(首が、引きちぎれ、そうだ……っ)


 想像を絶する痛みに、熱に、意識が飛びそうになる。


 ただ、一瞬でも、力の均衡が崩れたら終わる、命の綱渡り。


 気を抜くわけにはいかなかった。気を失うわけにはいかなかった。


(俺だけの問題じゃない。仲間を、この世界を――――救うんだっ!!)


 向かう。向かう。向かう。強い意思をもって、死を跳ね除けた先の未来へ。


「――」


 瞬間、光と音が世界から消えた。

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