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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第64話 大きなお世話


 研究工房、主任室。


「……」


 メリッサはじっと見つめる。


 数年振りに再開する、母親のやつれた姿を。


 その姿を見て、喉元まで出かかった言葉が引っ込んでしまう。


(早く話さないと……。問題を解決できるのはうちしかいないんすから……)

 

 そう思っても、口が動いてはくれない。


 互いに見つめ合ったまま、気まずい沈黙の時間が続く。


「…………ごめんなさい、メリッサ」


 その末に、語られるのは中身のない謝罪だった。


「なんすか、それ。一体なんに対して、謝罪をしてるんすか」


 虫唾が走る。心の奥底から溢れ出す、どす黒い何かが、溢れ出す。


 思ったよりも簡単だった。感情に身を任せれば、言葉を交わすことなんて。


「それは……」


「中身がないから言葉に詰まる。そういうところが一番嫌いなんすよ」


「…………ごめんなさい」


 また、中身のない謝罪。同じことの繰り返し。


「だから、なんに対して、謝ってるのかって言ってるんすよ!!」


 腹が立つ。腹が立つ。腹が立つ。こんなことをしてる場合じゃないのに。


「教えてくれたら、謝ります。怒っている理由を教えてくれませんか?」


「いい加減分かれよ! 言われて気付いた謝罪なんて意味ないってことに!!」


 気付けば、我を忘れて口走っていた。ずっと言えなかった、本音を。


「それが、原因ですか」


「……だとしたら、なんなんすか」


 しまった。と思った時にはもう遅い。


 余計な口を利くつもりなんてなかったのに。


「謝罪は撤回します。この仕事は、私の全てですから」


 ただ、そのおかげで見えてくる。二人を隔てる譲れない一線。


 ――仕事。


 それが、明確な壁となって立ち塞がる。


 この壁を超えなければ、先に進めないのかもしれない。


「……それが、あんたの本音ってわけっすか」


「はい。私は仕事をするために、生まれてきたのですから」


 鋭い視線が交錯する。先ほどまでの弱気な姿はない。


 対等。皮肉にも、メリッサたちが目指す理想の関係と同じだった。


「ふっ」


 あまりにもおかしくて笑ってしまう。


 これが生まれて初めての、対等な親子の会話、なのだから。


「知っていますよね。私が生まれたのは、洞窟男にコンタクトを取るためだと」


「でも、失敗したっすよね。だから、うちが生まれた。計画を引き継ぐために」


 そこに愛はない。


 生産的で、計画的な出産。


 分かっている。そんなことは初めから。


聖遺物レリック因子と、洞窟男のDNAの混合。あなたは私をアップグレードした存在」


「だから、劣等感を感じて、うちを虐めたってわけっすか。お得意の人体実験で」


 当然、知っていた。地上に、父親がいないことなんて。


 そして、『父親に会う』という目的はすでに、果たしていることに。


「羨ましかった。私のないものを全て持っている、あなたが」


「だから、何度も、何度も、何度も、その手で殺したんすね」


 親に何度も殺される。


 その光景が、頭に焼き付き離れない。


 逃げたいと思う理由は、それだけで十分だった。


「――だから、愛してしまった」


「――だから、嫌いなんすよ」


 今、なんて言った。


 愛していると、言ったのか。


「はぁ? 今なんて――」


「あなたを愛していると言っているんです」


 聞き間違いではない。はっきりとナガオカは告げた。


「何を今さら……っ。だったら、どうして、あの時言わなかったんすか!!」


 今まで一度たりともそんな言葉はかけられたことがない。 


 信じられるわけがなかった。何度も殺してきた相手の言葉なんか。


「殺してくる相手に愛してるなんて、言われたいですか?」


「それは……いや、そんなの、理由になんないっすよ!!」


 わけが分からない。殺してくるのに、愛している。


 矛盾している。歪んでいる。狂っている。


 認めるわけにはいかなかった。受け入れるわけにはいかなかった。


「私を嫌ってくれないと、あなたは心がもたず、死んでいた」


「違う! それ以前の問題っすよ! どうして殺したんすか」


 否定する。受け入れてなるものか。


 愛されていたというなら、これまで、何のために――。


「実験の成果が出なければ、あなたは廃棄される予定でした」


「違う、違うっ! うちは騙されないっすよ。そんな詭弁に」


 嘘だ。嘘に決まっている。


 生かすために、殺していたなんて。


「現にあなたは生きてます。私を恨み続けてくれたおかげで」


「違う、違う、違うっ! うちは、自分の意思であんたを!」


「私を、なんですか」


「あんたを、あんたを」


 おかしい。先の言葉が言えない。


 喉元まで出かかっているのに。さっきは言えたのに。


「――っ」


 なぜか、言えない。言おうとすると、心が張り裂けそうになった。


「ごめんなさい。もっと、早くこうしてあげられれば良かったのに」


 その時、不意に、温かいものに包まれる。


 何が起きているのか、分からなかった。何も理解できなかった。


「……」


 ただ、あったかい。母親の腕の中が、居心地のいいものなんて知らなかった。


「よしよし。偉かったですね、メリッサ。一人でずっと耐えて、生き続けて」


「――――っ」


 積もりに積もったものが溢れ、落ちていく。


 馬鹿みたいだった。本当に、馬鹿みたいな話だった。


 一方的に嫌われていたと思っていたら、愛されていたなんて。


(なにやってるんすか、うちは。泣いてる場合じゃないっす……)


 だけど、ふと我に返り、涙を拭う。他にやるべきことがあるからだ。


「――母さん、少し頼みたいことがあるんすけど、いいっすか?」

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