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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第61話 円卓会議


 騒動は落ち着き、席に着いた一人。パオロは問う。


「詳しく話してもらおうか、暴挙に出たワケを」


「その話はやめませんか? 結果的に誰も死ななかったわけですし」


 メリッサがやろうとしたことは、痛いほど分かる。


 ただ、それを全員に共有するのは、辱めのようなものだった。


「それで全員が賛同すると思うか。人狼が味方にいて勝つ、なんて暴論に」


「それは……」


 言い返せない正論に困っていると、


「ジェノさんに惚れたっす。惚れた男を勝たせるために死のうとしたんすよ」


 なんの恥じらいもなく、メリッサはさらっと本心を告げた。


「ちょ……メリッサっ!?」


「事実を言っただけっすよ。何を驚いてるんすか?」


「そうかもだけど、そうじゃなくて!」


 予想の上をいく内容に、頭が処理し切れないでいると。


「……何かと思えば下らん。僕には一生かけても、理解できない理由だな」


 パオロは真っ向からメリッサの意見を否定していった。


 合理的ではない。彼にとってはその一言に尽きるんだろう。


「分かってるっす。だから、うちを殺して終わりにしていいっすよ」


「馬鹿。これから、そうならないための話し合いをしようって言ってるんだよ」


 火に油を注ぐような発言に、止めに入ろうとする。


「……だが、協力できないとは言ってない」


 そんな中、返ってきたのは、なぜか好意的な反応だった。


「「え?」」


「――お前たちの馬鹿な企みに加わってやると、言ってるんだ」


 そして、言い切った。今までのパオロらしくない、非合理的な発言を。


「どうしてっすか……」


「理由か。――おい、お前。ジェノとか言ったな」


「は、はい。改まって、なんですか?」


「人狼が味方にいて勝つために、必要なことを言ってみろ」


「……えっと。なんとなくは考えてますけど、実現できるか分かりませんよ」


「内容が固まってなくてもいい。目的をシンプルに言語化するだけだ」


 考える。余計な思考は切り捨て、やりたいことを明確にする。


 すると、不思議と答えはすぐ見つかった。単純でシンプルな目的。


 それは。


「――あの神父に一泡吹かせます」


 心を読まれ、言わされているような気がした。


「それが理由だ。僕がこいつらに乗っかる、ただ一つのな」


 でも、今はいい。彼はもう、敵じゃない。頼りになる味方なんだから。


「いいんすか? そんな理由で」


「こいつなら、やる気がするんだ。僕はその景色が見たくなった」


「ふーん。じゃあ、うちと大体同じじゃないっすか」


「お前と一緒にするな。……それより、命知らずの馬鹿は他にいるか?」


 旗色が悪くなったからか、すぐに話を切り上げ、パオロはそう問いかけていく。


「兄貴が乗るなら俺っちも、当然、馬鹿にならせてもらいますよ」


「私も一口乗らせてもらおうか。なにせ、この腕の礼がまだだからな」


 ルーカスとマクシスは、快く賛同する。


「最後はお前だな。どうする?」


「……」


 一人残ったアザミの表情は暗く、今にも断りそうな様子だった。


 それもそうだ。いきなり無茶なことを言われ、混乱しないわけがない。


「沈黙か。ある意味、お前が一番利口かもな。――よし、この五人の馬鹿で」


 すると、早々に見切りをつけたパオロは、皮肉を言い、話を進めようとする。


「ま、待ってください!!」


 その時、人一倍に張り上げられた声が響き渡った。


「なんだ。意見があるなら早く言え」


「……な、な、なります! わ、私も馬鹿に!」


 戸惑い、言葉に詰まりながらも、アザミ、賛同。


(まさか、この展開を作るために、俺を……)


「だそうだ。後は任せるぞ、ジェノ」


 そう考えていたところで、急に肩を軽く叩かれる。


「え? 俺、ですか? パオロさんが仕切った方がいいんじゃ……」


 発案したのは自分だけど、まとめたのはパオロだ。


 だからこそ、混乱した。二つ返事で返せる立場じゃなかった。


「神父に一泡吹かせてやるんだろ。お前がやらなくて、誰がやる」


 確かに言った。でも、具体的な案は浮かんでいない。


 口先だけの夢物語だ。だから、不安だった。自信がなかった。


「いや、でも、俺なんかじゃ……」


 仕切る能力は断然、パオロの方が上だ。


 だったら、そのまま任せた方が良い。そう思っていた。


「いいや、お前がやれ。言いたくはなかったが、僕では、役者不足だ」


「でも、実際、まとめてくれたのは、パオロさんだし……」


「はぁ、こんなやつに僕は負けたのか。いいか、一度しか言わないからよく聞け」


「は、はい」


「リーダーはお前が適任だ。仲間を信じ続けて、結果を出したんだからな」


 すとんと、心の奥深くまで染み渡る。


 なぜだかは分からない。ただ、妙に腑に落ちた。


「なんだろう……よく分からないけど、分かったような気がします」


 ダンジョンで命令をしていた時とは何かが違う。


 違和感でも、忌避感でもない、本当に心地いい感覚だった。


「歯切れが悪いな。決めたなら、宣言しろ。人の上に立つ気があるならな」


 そこで、ようやく理解した。


 ダンジョンで感じた、違和感の正体。


 そして、パオロの言葉が妙に刺さった、その理由を。


「……皆さん、首輪のケーブルを、右隣りの人に接続してもらえますか?」


 だとしたら、言わなければならない。


 宣言を果たす前に伝えなければいけないことがある。


 各々が不思議そうにしながらも、ジェノの指示に従っていく。


 ほどなくして、繋がるケーブルは輪となり、一つの円卓が、完成していた。


『俺は皆さんの上に立つ気はありません』


 秘匿通信機能を使い、ジェノは宣言する。己の意思を。


 その言葉に、それぞれが動揺し、困惑の表情を浮かべていた。


『はぁ? 何言ってるんだ、お前。じゃあ、この後、どうするんだよ』


 当然、突っかかってくるのは、話を振ったパオロだった。


『話には続きがあります。どうか、最後まで聞いてください』


『ふん。だったら、さっさと言え』


 と食い下がり、ジェノは話を続けた。


『アーサー王物語における円卓の騎士は、それぞれが王であり、名だたる騎士でしたが、そこに上下関係はなく、対等でした。それを成り立たせていたのは、何か。――円卓です。丸いテーブルには、上座も下座もありませんでしたから』


『待て、その話と、今の僕たちと関係があるのか?』


『あります。今の俺たちって、円卓の騎士と同じになっていると思いませんか』


 そう言われ、パオロを含めた聞き手の全員が、辺りを見渡し、察していた。


『皆さんは、俺が持っていないものをたくさん持つ、言わば、王であり、騎士なんです。そんな人たちを従えるような真似はしたくない。この円卓は、皆さんに対する敬意の表明であり、俺の意思表示です。だから、俺は上に立つ気はありません』


 敵だったパオロに認めてもらった時、その瞬間に分かった。


 上下関係でも敵対関係でもなく、二人の関係は対等だった。


 居心地が良かった。それが、目指すべき場所だと理解した。


 それならば、後はその理想を口にして、現実にするだけだ。


『その上で問います。ここでの発言は、対等なものにすると誓ってくれますか?』


 ただ、考えを押し付けるだけでは意味がない。


 だから、問うた。その是非を。


 もし、否定されれば、席を譲ろうという意図も込めて。


『お前らしいな。仕方ない――誓ってやる』


『聞くまでもないっすよ。うちも誓うっす』


『全員対等なら文句はねぇ。俺っちも誓う』


『言うまでもない。私も、誓わせてもらう』


『………………ち、誓います。わわ、私も』


 それぞれが対等を誓い、拳を前に突き出し、ここに整った。


『ありがとうございます、皆さん。では、これより』


 上下関係も、敵味方の区別もない、誰もが自由に発言できる環境。


『――円卓会議を始めます』

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