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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第60話 暴走


 メリッサが、人狼だとカミングアウトした瞬間。


「「「「……っ!!?」」」」


 肌を突き刺すような殺意が満ちて、それぞれが得物に手をかけた。


「――待ってください! まだ、メリッサの話を聞いてない!!」


 止める以外の選択肢がなかった。この最悪の流れを。


 その言葉に全員が動きを止め、何を言うわけでもなく、沈黙していく。


「…………どうして、止めたんすか」


 その沈黙を破ったのは、場を乱した張本人。今にも泣きそうなメリッサだった。


「止めるに決まってるでしょ。仲間なんだから」


 説得できるかもしれない。


 そんな希望を感じつつ、慎重に接していった。


「仲間……薄っぺらい言葉っすね。反吐が出そうっすよ」


「言葉じゃない、状態だよ。そうなったんだから、今さら変えられない」


「詭弁っすね。うちにとってはもう、必要のないものっすよ」


「……必要ないならなんで、あの時、助けてくれたの」


「当然、利用するためっすよ。それ以上何があるって言うんすか」


「これが利用した結果? 分かるでしょ。このままじゃ負けることぐらい」


「何の勝算もないとでも思ってるんすか。勝てるんすよ。こいつを使えばっ!」


 そう言って、胸元から取り出したのは黒い草――爆破草だった。


(あれで、どうやって……。いや、そうかっ!)


 それを見て、察しがついてしまう。メリッサがやろうとしている愚行に。


「――このっ!!」


 勝手知らないパオロはライフルの銃口を向け、引き金に手をかけている。


「撃っちゃ駄目だ!! メリッサは一人で死ぬつもりなんです!!!」


「は? 何を言って――」


 動揺し、わずかに銃口が揺らぐ。


「やら、せない!!」


 その隙に、ライフルの銃口を手で掴み、ずらした。


「――くっ!」


 同時に、乾いた音が鳴り響く。放たれた弾丸は遥か上空へ消えていった。


(ひとまず、なんとかなった……後は、説得するだけだ)


 そう思い、視線を戻すと、


「……っ」


 メリッサが爆破草を口の中に入れ込むのが見えた。


(……くっ、先を越された! このままだと、メリッサは!)


 草の効果は胃に落とし込んだ瞬間に発動する。一刻の猶予もなかった。


「あいつ、爆破草を!!」


 遅れて気付く、ルーカスは、声を荒げる。


「離れて、早く!!!!!」


 それに被せるように必死に叫んだ。


 その場にいた全員が距離を取り、安全な位置に逃げていく。


「後はっ!」


 そんな中で、ただ一人。


 ジェノだけが、メリッサの方へ足を向けた。


「吐け、メリッサ!!!」


 目の前には、口元を抑え、うずくまるメリッサの姿。


「……」


 地面に視線を向けたまま、ふるふると首を横に振る。


「馬鹿っ!!」


 顎を指で掴み、無理やり顔をこちらに向けさせる。


 向けられた双眸には零れんばかりの涙を浮かべ、体は小刻みに震えていた。


「……っ……ん」


 それでも、必死に喉を動かし、飲み込んでいった。


「逃げる、っす」


 そうして、絞り出すように紡がれた言葉は、逃げろ、だった。


「逃げるわけ、ないだろ!」


 感情が心の奥底から溢れ出す。


 メリッサは誰よりも死ぬのを怖がっていた。


 何度も死を経験した彼女だからこそ、誰よりも死を恐れいていた。


 それなのに、取った行動はまるで、真逆。自ら死に向かって突き進んでいる。


 ――なぜか。


 そんなの、決まっている。


「俺のために死のうとするな!!!」


 他人を生かすために自害する。という愚かな行為だった。


「吐いて、お願い!!」


 そんな行為を断じて許すわけにはいかない。


 感情のままに、指をメリッサの口の中へ突っ込み、舌元を揺さぶる。


「う……ぐ……」


 そんな状態でさえも、吐き気を抑えようとするメリッサ。


 まだ、口は開いてくれない。まだ、心を開かせるには足りていない。


 それなら――。


「失敗したら、一緒に死んでやる! だから、気にせず、吐き出せっ!!!」


 それぐらいの覚悟をもって接してあげるしかなかった。


「……っっっっっっっ」


 直後、喉が動き、せり上がり、えずき。


 ――吐き出す。吐き出す。吐き出す。吐き出す。


 これまで抱えていた負の感情をさらけ出しているかのように。


「――よしっ! 後はっ!!」


 その吐瀉物をジェノは真っ向から浴び、手で受け止める。


 狙いは、爆破草の起爆を未然に防ぐこと。地面に落ちたら、終わりだ。


(――失敗はできないっ! ここに流れて、こいっ!!)


 思い出すのは、ダンジョンで起きた爆破草の事故。


 あの時は、水辺があったから助かった。でも、今回はそれも頼れない。


「――おえっ」


 すると、メリッサは嗚咽し、吐瀉物を出し切る。


 と同時に、落ちる。黒い塊。間違いなく、爆破草だった。


「これを!!」


 指し示したかのように、差し伸べた手に落ちてくる。


 ――後は掴むだけ。


「なっ」


 そう思っていた。が、掴めない。


 たやすく手から滑り落ち、爆破草は地面に落ちていく。


(まずい、落ちたら、俺たちは……)


 背筋が強張り、身の毛がよだち、戦慄が走る。


 死。という明確な恐怖が脳内を巡り、思考が鈍くなる。


 と、思いきや、ジェノの頭はその刹那、急激に冴えていった。


(探せ、探せ、探せ……何か、ないか、何か――)


 生きたい。という明確な願望が全細胞を刺激し、呼び起こす。ある記憶。


(――あったっ!)


 閃きを頼りに、腰のホルスターに手をかけ、装着。


 その間にも、爆破草が地面と接触し、表面が赤みを帯びていく。


 爆発の前兆。失敗したら、助からない。だけど、今さら、引き下がれない。


「――――――消えろっ!!!」


 生と死の狭間で振りかざすのは、〝悪魔の右手〟。


 物質を破壊する光と、物質を分解する光が今、重なり合った。


「……」


 場は静まり返っていた。


 恐る恐る足元を見遣ると、手足はついている。


「生き、てる……?」


 夢を見ているような感覚で妙な浮遊感があった。


「……ばかっす」


 目元を赤く腫らしたメリッサは言った。


「ばかっす、ばかっす、ばかっす、ばかっす、おおばかやろうっす!!」


 震えた声で、震えた体で、震えた手で。


 全身で、表現した。生の実感を。吐瀉物と涙に包まれながら。


「馬鹿だから、助けたんだよ」


 そこで、ようやく理解する。生きている。助かったんだと。


「でも、このままじゃ、ジェノさんが……」


「分かってる。だから、一緒に考えよう。味方に人狼がいても勝つ方法を」

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