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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第58話 人狼


 明朝、逆さに生えた樹――虚大樹の前のある中央広場。


 そこには、生き残った十三人の冒険者と、一人の神父が立っていた。


「これより、最終試験の説明を始める」


 神父の発した一言に、場の空気が引き締まる。


「お前が、お前がぁ……」


 冒険者の一人が明確な殺意を込め、言った。


 その手には、突撃銃を持ち、照準を神父に合わせている。


「やめておけ。死にたくないならな」


「うぜぇな。俺に指図すんじゃねぇ!!!」


 血走った眼で、その冒険者は引き金に指をかける。


「――」


 即座に、神父は懐から分厚い本を取り出し、開き、手をかざした。


「やめろ!!」


 嫌な予感が走り、ジェノは声を張り上げた。


「――ッ!?」


 その瞬間、首が弾け、辺りは鮮血色で染まる。


 きっと、首輪が起爆したんだ。


 謀反を企てた冒険者は、見るも無残な状態になっている。


「くっ……」


 思わず目を逸らしてしまう。


 また人が死んだ。こんなにも近くで。


 何度経験しても慣れない、最悪の気分だった。


「これから残った十二人を二つのグループに分け、あるゲームをしてもらう」


 何事もなかったかのように、神父は進行。


 フルフェイスマスクをつけた数人の黒服が死体を片付けている。


「「「「…………」」」」


 雰囲気は最悪。その場にいた全員が無言で神父を睨みつけている。


「ゲームの名は人狼。共に戦った仲間から、裏切り者を見つけ出してもらう」


 そんな空気をもろともせず、神父はただ一言だけ、残酷なルールを告げた。


 ◇◇◇


 説明とグループ分けが終わった、中央広場北。


 石造りの椅子が円状に六席置かれ、見知った人物が集まっていた。


「……奇遇ですね」


「悪いが、その冗談は笑えないな」


 ジェノが声をかけ、パオロは苦い表情で返事をする。


 他の面子は、メリッサ、アザミ、ルーカス、マクシスを含めた六人。


 指定された椅子にそれぞれ座り、ルーカスは支えにしていた松葉杖を置いた。


「自己紹介は不要だな。早速、討論を開始するぞ」


 そう言って、取り仕切るのはパオロだった。


「待ってください。念のため、ルール確認をしてもいいですか?」


「それなら、端末で確認すればいいだろ。ゲームに必要な情報は全てあるはずだ」


 懐から取り出したのは、黒いタブレット端末。


 ゲームの説明直後に、神父から配布されたものだった。


「足並みを揃えないと、まともな討論ができないかもしれませんよ」


「物は言いようだな。説明するだけならいい。余計なことはしゃべるなよ」


 こくりと頷き、ジェノはなるべく食い違いが出ないように説明を開始する。


「この中に一人だけ人狼がいて、人側は人狼を排除できれば勝ち。人狼側は人側を一人以下に減らせれば勝ち。昼は誰が人狼か討論して、夕方に投票。投票で過半数に選ばれた人は首輪が起爆。過半数集まらなければ無効でしたよね」


「おおまかなルールはその通りだな。後は役職の説明だ」


「役職は、全部で六つ。能力なしの村人を除いた役職には、夜に能力が使えます。人狼、人を一人減らせる。狩人、人狼から一人守れる。占い師、役職を一人分知れる。盗賊、役職を誰かと入れ替えられる。役職に重複はありません」


「ああ。問題ない。ただ、一つ忘れているぞ」


「え?」


「役職は、このゲームが始まる前からすでに決められていたということだ」


 そうだった。ここへ来る前の一連の動作を思い出す。


『測定完了。職業――盗賊』


 機械に触れ、職業を自動的に判定された時のことだった。


「この中に人狼だった人がいて、嘘をついていたってことですよね」


「ああ。試験で、人狼が選ばれる前提で動いていたやつがいるはずだ」


 その発言に、場はしんと静まり返る。


 それもそうだ。ここで発言すれば真っ先に怪しまれる。


「さて、本題に入らせてもらうが、一人ずつ前世を話してくれないか?」


 そこで、話を切り出したのはパオロだった。


(……これなら、揉めないし、自然な流れだ)


 互いを疑り合う討論だと、喧嘩になる可能性が高い。


 でも、情報を共有しておくのは、角が立たないし、自然だった。


「いいっすけど、話すなら、先に言い出した、あんたからにしてくださいっす」

 

 それにやや不機嫌な様子で反応したのはメリッサだった。


 パオロは納得した様子で、「それもそうだな」と言い、語り始める。


「前世は王子で、生き別れた妹がここにいると踏んで落ちてきた」


「放浪しながら父親を探してたら、冤罪で捕まって、今に至るっす」


「ひ、人を、い、いっぱい…………こ、ころし…………ました……」


「俺っちは金に目がねぇもんで、詐欺を繰り返した末、ここに流れ着いた」


「前世はシリアで傭兵部隊の隊長をしていたが部隊は全滅。気付けばここだ」


「前世は盗みとジャンク屋で生計を立て、色々あり虐殺事件の犯人になりました」


 パオロ、メリッサ、アザミ、ルーカス、マクシス、ジェノの順に、経緯を語る。


「質問はないな。これで、前世を共有できたというわけだ」


「それはいいんすけど、こんなので、何が分かるっていうんすか」


「真偽はさておき、面白いことが分かった。冤罪で落ちたやつが三人もいる」


 虐殺事件を止められなかった一因はあるけど、冤罪だった。


 だから、厳密には三人ではなく、四人。


 この中で冤罪なのは、ジェノ、メリッサ、パオロ、マクシスになる。


「僕が運営なら、冤罪からは人狼を選ばない。というより、選べないな」


「どういうことっすか?」


「ゲーム開始時に職業を選択された時のことを覚えているか?」

 

 思い返すとすぐに浮かぶ。


 端末に手を当て何かを測定される光景。


「もしかして、カルマ値……?」


 ある可能性が頭に浮かび、その断片がぽつりとこぼれる。


「そうだ。カルマ値は、前世の行いが役職に反映されると考えている」


「つまり、どういうことっすか?」


「冤罪で落ちた善人は、人狼になるとは考えにくい。前世が悪人のやつが人狼だ」


 たった一手で身の潔白を示し、他者へ疑いを向けている。


(上手い……)


 と素直に感心してしまう。そう思えるほどには説得力があった。


「言ってることは分かります。ただ、一ついいですか?」


「なんだ」


「俺の寿命は、明日の夕方ごろです。二日目の討論の後までしか命はもちません」


 だけど、納得はできない。じっくり議論を交わすには時間がなかった。


「……悪いが、僕はお前を切り捨てるつもりでいる」


 その踏み込んだ発言に、場の空気は凍りついた。


 やっぱり切る前提で、話を進めようとしていたのか。


「待つっす。ここまで来られたのは誰のおかげだと思ってるんすか!」


「関係ない。ここで負ければ、これまでの苦労は全て無駄になるんだぞ」


「無駄にならないよう、ちゃんと討論して、今日決着をつけるべきっすよ」


「不可能だ。初日で役職も使えないまま、狼を見つけられるわけがないだろ」


 あくまで、合理的に、パオロはその心情を告げ。


「……それは」

 

 メリッサは言い返す余地のない正論に、舌を巻いている。


 確かに、言ってることは間違ってないし。正しい。――だけど。


「いいえ。その不可能、俺なら可能にできます」


 ここで諦めていい理由にはならない。


「……根拠はあるんだろうな」

 

 怪訝な目つきで、パオロはこちらを鋭く睨みつける。

 

 疑われて、当然だった。パオロの理論では、悪人が人狼。


 虐殺事件の犯人だと思われている以上、一番疑われる立場になる。


 だからこそ。


「ええ。その根拠として、人狼はこの中に存在しないと、これから証明します」


 ――その前提を覆してみせる。

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