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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第56話 小さなお節介


 古臭い木造りの学校のような場所。研究工房。


 ミシミシと音を立てる廊下を進み、その突き当たり。


「主任。グレゴリでごぜえやす。お目通し願えやすか」


 鉄製の大扉を前にして、グレゴリは声を張る。


 その後ろには、卵を持ったジェノと、付き添いのパオロがいた。


「構いません。入ってください」

 

 感情のない声が響き、グレゴリは扉に手をかける。


 そこは、理科室のような場所だった。


 等間隔に並ぶ長テーブルに、丸椅子、奥には大きな黒板が見える。


「若いな。あの年で、主任か……」


 気になるけど、卵を持っているせいで正面がよく見えない。

 

 体勢を変えて確認にしてみると、黒衣を着た短い紫髪の女性が見えた。


(あれが、メリッサの母親……。幼すぎるような……)


 丸椅子に座る後ろ姿だったけど、確かに若い。


 十代前半の小柄な少女、と言い切ってもいいぐらいだった。


「話は聞いてますので、卵はその辺に置いてください」 


 すると、女性は黒板とにらめっこし、テーブルを指で叩いている。


 黒板は複数のモニターになっていて、近くには白スーツを着た人形が見えた。


「……ここに置いておきますね」


 納期に追われている仕事人間。そんな冷たい印象を受ける。


 大人特有の空気を感じ取り、言われた通り、卵を適当な場所に置いた。


「ご苦労様でした。用が済んだなら、帰っていただいて結構です」


 やけにあっさりとした対応に、気が抜けてしまう。


「あの、リーダーの件は……」


「馬鹿。ここで話すことじゃないだろ」


 敵だったパオロが隣に立っているのには理由がある。


 結果を焦り、うっかり言いそうになったけど止められた。


「いい発想だと思います。合否の判断はマスター次第ですが」


 しかし、女性はこちらの事情を把握しているかのように、反応してくる。


「お前に何が分かる。知ったような口をきくな」


「すみませんが、見ていました。そちらのドローンで」


 と言うと、パオロの懐から、蝿のような何かが飛んだ。


 すると、辺りを俯瞰した映像が、黒板の一部に映っていた。


「あの時か……。さぞ楽しかっただろうな。安全な場所で見る地獄は」


「楽しいかはともかく、興味深くはありました」


「……ちっ。皮肉も分からないのか。不愉快だ。先に帰らせてもらう」


 いかにも不快そうにしているパオロは、そう言って足早に去っていった。


「主任、この件でやすが――」


 次にグレゴリは手に持つ黒いアタッシュケースを見せ、言った。


「分析班に回しておきます。置いといてください」


「承知いたしました。では、あっしもこれで失礼いたしやす」

 

 そして、ケースをそのまま地面に置いて、その場から去っていった。


「……」


 部屋に残されたのは二人。


「用が済んだら、帰ってくださいと言いましたよね」


 本来なら、何もせずに帰るつもりだった。


「用ならあります」


 でも、どうしても聞いておきたいことができてしまった。


「それなら、手短にお願いします」


「あなたは、メリッサの母親、なんですよね?」


「はい。それが、何か?」


「――メリッサのこと、どう思ってるんですか」


 その問いに、せわしなく動いていた手が一瞬、止まった。


「生物学上、私の遺伝子配列を半分受け継いだ子供、というだけです」


 すぐに何事もなかったようにタイピングを始め、冷たく言った。


(……なんだ、それ)


 最初は、家出するメリッサ側にも問題があると思っていた。


 でも、たぶん、違う。こんな環境で育っていれば、誰だって家出したくなる。


「……自分の子供をなんだと思ってるんですか!!」


 気付けば、声を荒げていた。メリッサの気持ちを代弁してあげるために。


「ただの実験材料です。それ以上でも、それ以下でもありません」


「この――っ」


 気付けば、体は勝手に動き出す。


「それ以上、動かないことをおすすめします」


 しかし、目の前には、大量のドローンが現れる。


 そして、ドローンに積まれた銃口がこちらに向いていた。


「……メリッサにも、今みたいに、接していたんですか?」


 怖くはない。ただ、どうしようもないほどの怒りが湧いてくる。


「見て分かりませんか? 私は子供に構えるほど、暇ではないんです」


 お節介かもしれない。いらないお世話かもしれない。――だとしても。


「……ふざけるな!! だったら、こんな壁、俺がぶっ壊してやる!!!」


 関係ない。後先考えず、突っ込んだ。目の前の冷たい壁に。


「――こんなものが、あるからっ!!!」

  

 けたたましい物音が鳴り響く。それは、発砲された音じゃない。


 壁を突き破られ、その勢いで、ドローン同士がぶつかり合う音だった。


「……それで、気が済みましたか?」


 音が鳴り止むと、聞こえてくる。背を向けて語る女性の声が。


(また、背中を向けてる)


 物理的な壁は破った。だけど、まだ何も解決してはいないらしい。


「……」


 だから、迷わず突き進んだ。次は、目に見えない壁を突き破るために。


「最終警告です。止まってくださ――」

 

 静止を振り切り、掴むのは、女性の肩。


 そのまま椅子を回転させ、こちらに振り向かせる。


(目の隈がひどい……。仕事しかしてこなかったんだろうな……)


 そこで初めて目と目が合い、気付く。幼げなのに、不健康そうな見た目に。


「――」


 目が合ったまま、沈黙の間が続き、息を呑む音が聞こえる。


 表情に動きはない。だけど、頬は怒りで紅潮しているように見えた。


「親ならいつか、娘と向き合ってください」


 怒っていようが、関係ない。思ったことを伝える。それしか頭になかった。


「……」


 しかし、返ってきたのは重い沈黙だけ。


「……無理にとは言いませんから」

 

 これ以上は赤の他人じゃ介入できない。


 諦めて、彼女に背を向け、そのまま帰ろうとする。


「いえ、あなたに初めてされた、お願いですから。必ず守ります」


 後ろから聞こえてきたのは、快い返事。


 もう足を止めることはない。ただ、その足取りは軽かった。

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