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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第52話 紳士対剣士


『――ジェノさんを、守ってあげて欲しいっす』


 そんなメリッサの願いが、アザミの脳裏によぎる。


(――わたしが、守る)


 本当は、やりたくないことだった。迷っていたことだった。


 だけど、アザミは見ていた。ジェノの人柄を、生き様を、行動を。


 虐殺事件の犯人でも関係ない。自分で考えて、自分で出した、答えだった。


「誰かと思えば、アザミ様でしたか」


 納刀された鞘で迫り合いながら、その相手――ギリウスは声をかけてくる。


「……た、倒します! あ、あなたは、ここで!!」


 立ち向かう勇気と、言いようのない力が湧いてくる。


 初めてかもしれない。こんなにも負けたくないと思うのは。


「……面白い。受けて立ちましょう。勝つのは、この私でしょうが」


 そう言って、ギリウスは刃を弾き、互いに距離を取る。


「――――っ!!」


 これ以上話し合う必要なんかない。眦を決し、アザミは駆け出した。


「――北辰流【燕子花カキツバタ】」


 一足で、懐に入り込み、刀、ではなく、鞘を振るう。


 逆袈裟。右薙ぎ。唐竹。糸を紡ぐような、三連撃を放った。


「――その程度、ですか」 


 火花が散り、甲高い音が奏でられる。その全てが、短剣に捌かれた音だった。


(強い……)


 手合わせして初めて分かる。ギリウスの強さ。


(でも、負けない――っ!)


 そう自分に言い聞かせ、もう一度、距離を詰めた。


「甘いですよ」


 対し、ギリウスは両手に持つ短剣を勢いよく振り下ろす。


(……かかった)


 これは、陽動。相手を誘い込む、罠。次に繰り出す技は決まっている。


「――北辰流【雲竜柳ウンリュウヤナギ】」


 鞘で受け、刃を流し、腕を絡めとる。


 一切の淀みない動作で、当身技を仕掛けていった。


「……ほう。剣術と体術との調和。見事ですね」


 鞘と手で関節を固め、短剣が手からこぼれ落ちる。それなのに、この余裕。


「――北辰流」


 何かあると思いながらも、そのまま、次の技へ移行しようとする。


「ですが、まだ、未熟っ!」


 でも、絡み取ったはずの腕に背負い、投げられる。


「――っ!?」


 即座に腕を振り払い、体を反転し、すぐさま着地。


 受け身は取れたけど、相手は落ちた短剣をすでに回収していた。


「ふむ、反応は上々。ですが、決め手にかけますね」


 ギリウスは冷静に状況を分析し、感想を述べていた。


 実力が違う。たった数合の打ち合いでも、力の差を感じてしまう。


「刀を抜けば、埋められるかもしれませんよ。このいかんともしがたい実力差を」


 差があると分かった上で、相手はそんな提案をしてくる。


「……」


 安い挑発だった。そう分かっているからこそ、乗るわけにはいかない。


「無粋、だったようですね。――それなら、せめて、華々しく散ってください」


 勝気な言葉と共に、ギリウスは一直線に駆けてくる。


(……真っ向から、迎え討つ)


 余計なことは考えない。ただ、待ち構えて、叩き伏せるだけ。


「――北辰流【不知火シラヌイ】」

 

 柄と鞘を真一文字に構え、左足を軸に、円を描く。


 放たれたのは、足払いと鞘払い。


 下段を避けた敵に、遅れて中段がやってくる二手詰めの攻撃。


「甘い――ですよっ!」


 しかし、ギリウスは想定以上の跳躍。

 

 鞘をかわし、上段から、両刃を振り下ろす。


(それならっ!!)


 鞘払いの回転を軸に、さらにアザミは加速。


 遠心力が加わった鞘を、上段に放つ。三手詰めの攻撃。


「――」


 甲高い剣戟音が鳴り響く。


「――っ!?」


 手応えはあった。なのに、目がそれを認識できない。


(気持ち、悪い……。なに、これ……)


 何がどうなったか、分からない。ただ、倒れることしかできなかった。


「返し技を持っているのは、あなただけではありませんよ」


 揺れる視界の中、セバスはジェノの元へ近付いていくのが辛うじて見える。


(――わたしが、まもら、ないと……)


 刀を棒代わりに、なんとか立ち上がるけど、それが限界。


 足元と視界がぐらつき、とてもじゃないけど、戦うなんて無理だった。


「……ま、まって、くだ、さい」


 それでも、一歩、また一歩と、ふらつく足で歩み続け、ギリウスを呼び止める。


「なんでしょう。決着はすでについたはずですが」


「ま、まだ、お、わって、ません……っ!」


「理解しかねますね。この大罪人をかばう理由が、どこにあるんですか」


「……ま、守るって……や、約束、しました、から」


「他人が理由ですか。つまらない人間ですね。あなたには、自分の意思がない」


「……ち、違う! わ、わたしが、決めた、こと、です!!」


「そう思い込んでいるだけです。自分の頭で考えて出した答えではない」


「……そ、それはっ」


 そうかもしれない。――だけど。


「……あ、あなたが、決めることじゃ、ない!」


「ほう。では、何をもって証明するんです。自分で出した答えだと」


「お、男の人を……ジェノさんを、守り、抜きます。こ、この、刀を使って!!」


 男性恐怖症の自分が、誰かに言われたから男の人を守るなんて理屈が通らない。


 だからこそ、行動で示せば、証明可能だった。それが、命懸けなんだとしても。


「……面白い。ぜひ見せていただきたいですね。あなたにできるものなら」


 それをギリウスは煽り立てるようにして、言う。


(あの時は、自分のためだけに力を使って失敗した。でも、今度は違う)


 手にはひと振りの刀。アザミの背負う罪がそこにはあった。


 蘇る嫌な記憶。赤い血に染まる青い神社。この地獄に落ちた理由そのもの。


「駄目だ、アザミさん。罠に決まってる。口車に乗っちゃ、いけないっ!」


 もしかしたら、相手の思う壺なのかもしれない。罠なのかもしれない。


 ――だけど。だけど。


(誰かを守るために、この力を使うんだっ!)


「――っっ!!!」


 意を決し、心を決し、眦を決し、柄に手をかける。


(そのためなら、そのためになら――)


 そして、禍々しく輝く赤黒い刀身を鞘走らせ、


(人間だって、やめてやるっ!!)


 抜刀。一瞬で抜かれた刃が、空を断つ。


「――北辰流【風信子ヒヤシンス】」


 太刀風。刀を振るった際に生じるただの風。


 しかし、研ぎ澄まされた居合の極致が、可能とする。


 ――飛ぶ、斬撃を。


「……」


 一閃に集約する風は、一振りの刃と化す。


 ギリウスはとっさに地面を蹴り、紙一重でかわしていた。


 ――しかし。


「……っ!!?」


 巻き起こる風。直撃を避けたはずの相手ごと、吹き飛ばしていった。


「……ぐっ」


 意識が濁る。脳が揺れる。心が蝕まれる。


 だけど。伝えなければならない、意識が乗っ取られてしまう前に。


「……じ、ジェノさん、き、聞いてください」


 それは、一度、見放した仲間へのお願い。


 届かないかもしれない、意味が伝われないかもしれない。


「わ、わたしを、殺して、ください……」


 でも、口にした。勇気を出し、脇差と言葉を託した。


「ど、どうか、これで――」


 それが、見放した罪に対する、せめてもの償いになると信じて。

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