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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第51話 夢か幻か


 聞こえる。冒険者と骸骨が抗戦する音が。――それなのに。


(恐らく、目的は洞窟男の解放……。早く、止めないと……っ!)


 最悪の状況が面白いという思想なら、それ以外なかった。


 ギリウスの元へ体を這いずるジェノだったが、一向に距離は縮まらない。


『ガ、ギ?』


 すると、そのわずかな衣擦れ音に、気付かれてしまう。一匹の黒い骸骨に。


(くそっ、気付かれた……。どうにかしないと……)


 使えそうな装備は、〝悪魔の右手〟と破邪の指輪だけ。


(破邪の指輪は……駄目だ。使えるか分からない。それなら――)


「――っ!」


 意を決し、右手を動かそうとするも、頭が熱い。


 脳の神経回路の一本が焼き切れる。そんな感覚があった。


(血を使い過ぎた? いや、関係ない。――やるしかないんだ!!)


 目の前にいる骸骨へ、明確な敵意と血液を右手に込め、放つ。赤い光。


「――っ!?」


 だけど、その時。視界が明滅し、ノイズが聞こえる。


「お見事です。手間が省けましたよ」


「……ミザ」


 それは、近くにいないはずの人の声。


(何か、おか、しい……)


 違和感がそのまま、視界に現れ、歪み、乱れていく。


(なんだ、これ……どうなって――)


 理解ができなかった。なぜか、目の前にいたはずの骸骨が消えている。


「――ッ!!?」


 目に火花が散り、瞳に映る光景が変わる。


 まるで、テレビのチャンネルが切り変わっていくように。


「やら、れた……」


 目の前には、セバス、ミザリー、洞窟男の姿。


 すぐ近くには、黒い影で覆ったはずの、大穴があった。


(痺れ草なんて、嘘だ……。たぶん、幻を見せる草……っ!!)


 怒る気にすらなれなかった。だって、騙されたのは自分なんだから。


「おや? 思ったより早く、目が覚めたようですね」


 ミザリーの首元にナイフを当てたセバスは、一瞥し、言う。


 洞窟男は、娘を人質に取られているせいか、その場から動けずにいた。


「……そうか。あなたの目的は、ミザリーを囮にして洞窟男を倒すこと」


「ええ。馬鹿正直なあなたのおかげで、我が目的の一部は今、果たされる!」


 セバスは洞窟男に、刃を突き立てようとしている。


(洞窟男がこれで倒れたら、願ったり叶ったり……だけど)


 視界には、ひどく怯えた様子で涙をこぼすミザリーの姿。


(泣いている女の子がいる。洞窟男を助ける理由は、それで十分だ!)


 体は動けないはずだった。だけど、奥底から溢れ出す。得体のしれない力が。


「――させ、るかっ!!」


 地に伏したまま右手を掲げ、狙いを定める。


 失った血の量は限界に近い。これが、正真正銘、最後の一撃。


「これでぇぇぇ―――っっ!!!!」


 生命維持に必要な血液以外を全て、絞り出すイメージで、力を込める。


「無駄ですよ」


「――ッ!!!?」 


 しかし、止まる。


 言葉に力が宿ったように、急に体がぴくりとも動かなくなった。


「……なん、で」


「草の副作用。それをお忘れですか?」


 残酷な答え合わせと共に、刃が刺さり、生々しい音が聞こえる。


「……ッ」


「ミザっ!」


 突き刺されても無言を貫く洞窟男とは対照的に、ミザリーは叫び声をあげる。


「私の、勝ちです!」


 興奮冷めやらぬといった様子で、熱く語る。


 その手には、黄金色に輝く二つの魔眼が握られていた。


「――」


 同時に、洞窟男は悲鳴すらあげず、バタンと地面に倒れ込んでいく。


「ミーーザっ!」


 そのわずかな隙に、ミザリーはセバスの腕に噛み付こうとしていた。


「――おっと。あなたは少し、大人しくしていただけますか」


 セバスはそれをひらりとかわし、柄による打突を放つ。


「み、ざ……」


 首に直撃したミザリーは、否応なくそのまま気絶していった。


(終わっ、た……)


 あっけなくついてしまう決着。何もできなかった。見ているだけだった。


「さて……」


 近付いてくる足音。それなのに、体は動かない。


(くそ……なんで、なんで)


 砂利と石を手で力いっぱい握り込む。それが精一杯だった。


「目撃者は生かしておけませんね」


 足音が止む。すぐそばにいるセバスは切っ先を向け、静かに言った。


(なんで、俺はこんなにも弱いんだ……)


 言い返す資格なんてなかった。止められなかった、弱い自分が全部、悪い。


「さようなら。ジェノ・アンダーソン。これで、終わりです」


 そうして、一方的に振るわれる、凶刃。


 ここに来てから何度目か分からない、窮地。


 数少ない味方は倒れ、助けを期待できない、局面。


(ごめんなさい……リーチェさん……)


 言い訳の余地なんてなかった。強ければ、勝てていたんだから。


「――さ、させま、せんっ!」


 その時、ガキンと音を立て、刃は止まる。


 目の前には、白黒の袴を着た見知った人物が立っている。


「アザミ、さん……?」


 夢か幻か分からない光景を、ジェノは動かぬ体で、見守った。

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