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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第44話 人事を尽くした結果


 コキュートス第一樹層、鏡窟の間、最奥。


「敵性存在、全て沈黙。お見事でございました、ジェノ様」


 賞賛の声を送ってくれたのは、ギリウスだった。


 だけど、なんだか気が乗らない。嬉しさ半分、虚しさ半分だった。


「いえ、俺なんか、見てただけですよ」


「ご謙遜を。もう少し周りを見てごらんなさい」


「……え?」


 そう言われて振り返ると、冒険者たちの視線がこちらに向いている。


 前みたいな、冷たい視線じゃない。仲間の雄姿を見守るような熱い視線だった。


「やるなぁ、アンタ。司令塔になってなかったら、仲間の誰かが死んでたぜ」


 その中で一人、金髪の冒険者は、肩にぽんと手を置き、そう言ってくれる。


「……ど、どうも」


 気恥ずかしいような、むずがゆいような奇妙な感覚だった。


「なーに固くなってんだ。終わったんだろ? 戦いは」


「ええ、恐らく」


「だったら、景気のいい一言を頼むよ。その資格がアンタにはあるはずだ」


 場は静まり返っている。誰もが、まだ気を抜いていない様子だった。


(元はと言えば、俺が無理やり巻き込んだ形だもんな……)


 だから、首を縦に振って、肯定の意を示した。特に断る理由がなかったから。


「骸骨の残党は、掃討しました。……俺たちの、勝利です!!」


 こんな時に気の利いた台詞が言えたらな、と思いつつ、終戦を告げる。


「あいつら、やりやがった」


「勝った……勝ったんだな、俺たちは!」


「まぁまぁ、やるじゃない。八割方、私たちのおかげだけど」


 それを皮切りに、勝利を実感し始めた冒険者たちの歓声が聞こえてくる。


「いつかアンタは、もっと、すっげぇ、リーダーになるよ。仲間を、大切にな」


 すると、金髪の冒険者は笑顔でそう言い残し、同胞の元へと戻っていった。


(『良い人』だな……。違うパーティの俺を、わざわざ褒めてくれるなんて)


 見ず知らずの『良い人』に認められたことで、勝った実感が湧いてきた。


「……あ、あの」


 そう感慨にふけっていると、声をかけてきたのは、アザミだった。


(話しかけてくれた……? あの一件から、ずっと喋ってくれなかったのに……)


 畳みかけるようないい展開の連続に感情が追いつかず、軽く動揺してしまう。


「み、み、見直し、ました」


 そんな中、アザミは視線を逸らしながらそう言うと、そそくさと去っていった。


(良かった……。ちゃんと、行動で示せたんだな……)


 それが決め手となって、ようやく結果が実感できたような気がした。


「これでも、まだ、実感は湧きませんか?」


 すると、ギリウスが再び、からかうようにして、同じ質問をしてくる。


「答え、分かってて言ってますよね、それ」


「さぁ、なんのことでしょう」


「……はぁ。意地悪ですね。正直言うと、人に命令するの、嫌でした」


「それで、勝っても気乗りしなかったと?」


「ええ。……でも、間違ってなかったのかもしれませんね。俺の選択は」


 まだ、もやもやするけど、結果として、誰も死ななかった。それが、一番だ。


 自分の気持ちなんて、人命に比べたら大したことない。


 そう言い聞かせようとした時。


「……いない。うちのリーダーはどこに行ったんだ?」


 一人の冒険者が気付く。パオロがいなくなったことに。


 その情報はすぐに、冒険者の間で広がり、騒がしさが増していく。


「皆さん、聞いてください。パオロさんは、恐らく、俺たちを裏切りました」


 いい頃合いだった。逆転の一手を打つには。


 ◇◇◇


 嫌な予感が当たった。当たってしまった。


「嘘、だろ……」


 パオロの目の前には、黒い影が立ちふさがっていた。


「道は……道は確かだったのか!?」


 そんな認めたくない現実を前に、藁をもすがる思いで確認していく。


「ええ、間違いねぇですが、一体、なに、が……っ!?」


 しかし、返ってきたのは、思っていた通りの最悪の回答。


 卵で視界をさえぎられているルーカスは、前方を確認し、絶句していた。


「――またあの影っ!? どうして、ここにも!?」


「馬鹿が……見て分からないのか? まんまと泳がされたんだよ、僕たちは!!」


 ◇◇◇


「――以上が、彼らが行った信用詐欺の手口と、俺が取った対策です」


 ジェノは自身の経験談を踏まえた説明をすると、冒険者のどよめく声が響いた。


「理解したが、この後はどうする。またリーダー権を盾にされるだけだと思うが」


 冒険者の代表。薄茶色の髪に右腕がない隻腕の男が、冷静にそう尋ねた。


「一つ策があります」


「内容をお聞かせ願えるか?」


「言えません。ただ、彼を殺さないでください」


「仲間が暴走したら止めろ、ということか。……やってみよう」


「話が早くて助かります。あなたがリーダーの方が良かったんじゃないですか?」


 理解力の早さと、機転の利く対応を見て、素直にそう思う。


「トップを目指すのは諦めた口でな。ナンバー2ぐらいがちょうどいいのよ」


 隻腕の男は、なくなった右腕辺りをさすり、なんでもないように言った。


(昔、何かあったんだろうな……)


 そう思いつつも、これ以上話を広げるのは、意味がないだろう。


「……それより、さっきの件、頼みますね?」


「それは構わんが、いいのか? 返せるものはないぞ」


「いりません。こちらとしては、試験を突破できるだけで十分です」


「ふっ、無欲な男だ。よろしく頼む」


「任せてください」


 左手で握手を交わし合う。万全の状態で、彼らを待った。


 ◇◇◇


 急かすような足音が響く、響く、響く。


「まだだ。まだ、終わってない」


 パオロはルーカスとともに引き戻ることを余儀なくされていた。


「ですが、兄貴。このまま戻れば、殺されるんじゃ……」


「リーダー権がある以上、僕は殺せない。それに、一つ考えがある」


「なんです、考えって」


「その卵が鍵だ。細心の注意を払って運べ。お前の命より重いぞ、その卵は」


 こんなところで、諦めていいわけがない。


 追い込まれたことを実感しながらも、パオロは勝ちを見据えていた。

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