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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第41話 逃げるか戦うか


「整いましたよ。この状況をひっくり返す、算段が」


 数分後。ジェノはパオロの前に立ち、そう言い放った。


「ほう。だったら、聞かせてみろ。どうせ口だけだろうからな」


 パオロは、座したまま、いかにも馬鹿にしたような物言いで反応する。


(見てろ。絶対にどうにかしてやる。この状況を)


「――この影、敵がいる前方だけ解除できるとしたらどうします?」


 出した答えは一つ。抗戦不可避な状況を作り出すことだった。


「……っ」


 パオロは表情が強張り、下唇を噛んでいる。


 その反応を見て、確かな手応えを感じながら、ジェノは続ける。


「俺たちは戦いたい、そちらは逃げたい。それなら、戦いを強制するまで」


 ギリウスの体の問題と、昇降機の定員数の問題。


 その二つがある以上、戦わなければ、誰かが必ず犠牲になる。


 だから、退路を断った。全員が生き残る選択は、戦って勝つ以外ないから。


「バラバラな状態で戦うか、まとまった状態で戦うか、どちらがいいですか?」


 これは、脅しだ。最悪、誰かに恨まれる可能性だってある。


 でも、それを承知の上で、誰かの悪になる覚悟をもって、押し付けた。


 ――二択のように見えた、半強制的な一択を。


「待て。逆はどうなる。後方だけ解除して、全員逃げるという手もあるだろう」


 当然、パオロは反論してくる。でも、それは想定済みの回答だった。


「あの影は距離に限界があります。逃げ切れません」


「……いや、逃げ切れるだろ。そこの女を切り捨てれば」


 確かに可能かもしれない。


 一人を切り捨てれば、それ以外の全員を救うことが。


 ――でも。


「それは無理なんです。彼女を能力目的で死なせないって、約束しましたから」


 約束は破れない。

 

 守らないと全部嘘になる。


 今までした約束も、これからの約束も。


「ふざけるな! なぜ、リスクの高い方を選ぶ! たった一人のために」


「たった一人の約束も守れない人間に、俺はなりたくない。理由はそれだけです」


 譲れない一線。それを守るための話し合いなのに、心はどこか冷めていた。


(なんで、こんなに冷静なんだろう。感情的になってもおかしくないのに)


 不思議だった。前、大統領と意見をぶつけあった時とは、まるで、真逆だった。


「この中で、殺し合いを始めてもいいって言うんだな……」


「もし、その気なら、影を解除させます。困るのは、そっちですよ」


「……くっ」


「バラバラな状態で戦うか、まとまった状態で戦うか、どちらがいいですか?」


 自分が今、正しいことをしているのか分からない。


 でも、このやり方は間違ってない。そう言い聞かせるしかなかった。


「…………後者しか、ないだろうが」


 すると、わずかな沈黙の末、選んだのは、共に戦う選択だった。


(ひっくり、返った……?)


 最悪、殺し合いになる覚悟をしていただけに、驚きの方が勝ってしまう。


「あ、兄貴!? どうして……っ!!」


 そこに、口を挟んできたのは、今まで大人しくしていたルーカスだった。


「お前は背負えるのか? ここにいる全員の命を」


「そ、それは……」


「だったら、僕の選択を信じろ」


 しかし、パオロは揺るがない。


 むしろ、確固たる意志をもって言い切っていた。


「……分かりました。俺っちは、兄貴の選択を信じますぜ」


 その態度と言葉に触発されたのか、ルーカスは同意する。


「お前らもそれでいいな? 僕の決定に文句があるなら、遠慮なく意見しろ」


 次にパオロは、後ろにいた冒険者たちに、発言を求めていった。


「「「…………」」」


 返ってきたのは沈黙のみ。


 代わりに、冒険者たちの冷たい目線が向けられていた。


(これじゃあ、俺が悪者だな……。覚悟してたけど、思ってたより辛いかも)


 誰も切り捨てないため。

 

 とはいえ、無理強いしたことに引け目を感じてしまう。


(たぶん、心のどこかで分かってたんだろうな。悪者に回ることが……) 


 そこで、ようやく理解した。気持ちが入らず、心が冷たくなっていた原因に。


「――というわけだ。仕方ないから、僕たちはお前らの傘下に入ってやる」


 そう考えていると、正式にパオロは快い返事をしてくれていた。


(……いや、受け入れよう。俺には俺の成すべきことがある)


 気にしないことはできない。


 でも、受け入れた上で、前を向くぐらいはできる。


「ありがとうございます。では、勝つための話と勝った後の話をしましょうか」


 そうして、ジェノは開始した。未来を見据えた討論を。

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