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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第40話 拮抗状態


「――はぁ、はぁ、行き止まり、だと……」


 異変を察知したパオロは足を止め、辺りを見渡していく。


 輝晶石のおかげで、幸い暗くはないし、鏡のような壁は未だ健在。


 だが、出口に通じるはずの道が、黒い影に塞がれ、先に進めなくなっていた。


「……これも、ダンジョンの性質なのか?」


 パオロは、興味本位で影に触れようとしながら、隣にいるマクシスに尋ねた。


「安易に触れるな。こんな現象今まで見たことがない」


 目を眇め、影を見つめるマクシスは、強い口調で言い放つ。


「なんだよ、偉そうに……。このまま、立ち止まるわけにもいかないだろ」


 発言は認めるが、態度が気に食わない。


 影には触れず、軽く口論に発展しそうになると。


「――ぜぇ、ぜぇ……。あ、あにきぃ! 後ろで、大変なことが!」


 卵を抱えたルーカスが現れ、肩で息をしながら、軽く息を整え、報告した。


「無事だったか……後方で一体、何があった?」


「そ、それが――」


 ◇◇◇


「無事ですか、ギリウスさんっ!」


 影が閉じ、ジェノはすぐさま、ギリウスのそばに駆け寄っていた。


 骸骨が中まで侵入した様子はない。だけど、手傷を負っている可能性はあった。


「……申し訳ありません、ジェノ様。文字通り、足を引っ張ってしまったようで」


 冗談交じりに、ギリウスは答える。命に別状はないみたいだ。


 ただ、火傷の影響か、体から蒸気が出ている。動くのは当分無理だろう。


「その調子なら大丈夫そうですね。ゆっくり休んでください」


「ええ、お言葉に甘えさせてもらいます」


「さて、後は……」


 アザミは腰を抜かし、ミザリーはギリウスのそばにいる。


 後ろを振り返り、見えたのは鏡の反射に移る、曲がり角に立つ人影。


「……よく分かったっすね。うちの能力のこと」


 次の展開のことを考えていると、横にいたメリッサから声をかけられる。


「半年前に、とあるイタリアンレストランで見たことがあったからね」


「……っ!? じゃあ、うちが元々、敵だったってことを――」


「その話はいいよ。気にしてない。……それより、盗み聞きはよくないですね」


 今はそれどころじゃない。


 話を終わらせ、奥にいる人たちに向け、言い放つ。


「……気付いていたのか。どういう状況か、説明してもらおうか」


 角から現れたのはパオロ。ルーカス。そして、冒険者たちだった。


 運んでいた魔物の卵と思わしき物はない。恐らく、奥に隠してきたのだろう。


「……相手にするべき敵は、他にいるってわけっすか」


 臨戦態勢になるメリッサに対し、


「おっと、動くんじゃねぇ。変な動きを見せたら、撃つぜぇ」


 ルーカスは、肩のホルスターから、拳銃を取り出し、銃口を向けている。


「はっ、そんな単発式のアンティーク。一発外したら、終わりじゃないっすか」


 特に顔色を変えないメリッサは、煽るようにそう言った。


 確かに、昔の海賊が使うような、単発式の古いタイプの銃だった。


「――悪いが、一発じゃ済まない」


 しかし、パオロは片手を上げ、かちゃりと冷たい音が鳴る。


 それは、他の冒険者が持つ様々な銃が、一斉にこちらへ向いた音。


 数の有利を起点に脅してくるのは、正直分かっていた。本題はこれからだ。


「撃てば、あの影を解除します。そうなればどうなるか、分かりますよね?」


 場の有利はこっちにある。あの時と同じようにはさせない。


「そんな安い脅しが通用すると思うのか?」


「通じているから、すぐに撃てないんじゃないですか」


 パオロは一切動揺せずに、そう返してくる。


 でも、仕掛けてこない。


 数の有利と場の有利が、拮抗しているのは間違いなかった。


「だとしたら、なんだ。お前は何がしたい」


「――手を組みませんか。外の問題が解決するまで」


 この状況を利用しない手はない。外には共通の敵がいるんだから。


「何を言うかと思えば、馬鹿馬鹿しい。逃げ切れば勝ちなんだ。巻き込むな」


 だけど、簡単には聞き入れてくれない。戦いは始まっていた。


 影が解除された後、どちらが覇権を握るか。その見えない戦いが。


「それは、冒険者の人たちを捨て駒にする前提の話ですよね」


「言いがかりだな。なんの根拠もない妄言は、その辺にしておけ」


 思い出す、パオロたちに裏切られた、あの時を。


(他の冒険者の人たちを、俺みたいな被害者には絶対にさせない)


 強い思いを胸に秘め、虚勢を暴くため、口を開いた。


「地上へ行く昇降機は一つ。収容できる人数は約二十人。乗れない人はどうなります? あの骸骨にやられて終わりじゃないですか。自分だけは生き延びて、他の冒険者は、切り捨てるつもりだったんですよね。――あの時の、俺みたいに」


 大事なのは相手を論破することじゃない。


 事実を伝えて、周りの冒険者を味方につけることだ。


「……まさか、俺たちをハメるつもりだったのか」


 すると、一人の冒険者が呟くと、ざわめきが広がっていく。


(よし、この調子だ。もう少しで――押し切れる)


 周りの状況を見て、確かな手応えを感じ、言葉を重ねようとする。


「いいか、よく聞け、お前たち。リーダー権は僕にある。お前たちが卵を持ち帰ろうと報告はできない。つまり、試験は不合格扱いになる。次の試験はいつだ? 準備を整える時間はあるのか? 次で合格できる保証はあるのか? いや、ないね。呑気に待っている間に、首輪の寿命で誰かが、死ぬ。本当にそれでもいいのか?」


 だけど、先に口を開いたのは、パオロだった。とんでもない発言を添えて。


(リーダーの権限を人質に……。なんてことを考えるだ、この人は……)


 三次試験の注意事項の一つ。


 依頼の報告はリーダーが行わなければならない。


 リーダーに報告義務がある以上、仲間の命を掌握できることになる。


「死にたくないなら、僕につけ。それが、一蓮托生のパーティってもんだろ!!」


 空気が凍り、流れが変わっていた。


 強引で、傲慢で、非人道的な論理展開によって。


(たった一手で、全部、持っていかれた……。勝てるのか、こんな人に)


 立ち向かう意思が揺らぎ、不安で心が折れそうだった。


「「……」」


 そこで、ふと、メリッサとアザミの不安げな顔が目に入ってくる。


(いや、勝てるかどうかじゃない。こんな人に負けちゃいけない)


 同じリーダーとして。同じ人間として。


 パオロのやり方を認めるわけにはいかない。


(――乗り越えないといけない、敵なんだ)


 敵として認める。


 認めた上で、乗り越える。


 人としての正しさを、証明するために。


「じゃあ、交渉は決裂ってことでいいか? 僕たちは逃げるだけでいいから」


 思考による沈黙。そして、周りの冒険者の心身掌握。


 それらが重なり、パオロは強気な態度で話を終わらせようとしていた。


「少し待ってください。――メリッサ、ちょっといい?」


 だけど、相手は影がある以上、待たざるを得ない状況。

 

 状況は良くもなければ、悪くもない。完全な拮抗状態。


 だからこそ、この拮抗を作ったメリッサに声をかけた。


「なんすか。……まさか、全面戦争するとか言わないっすよね」


 メリッサは不安げな表情のまま、小声で尋ねてくる。


「ある意味ではそうかもしれない。ただ、それには策が必要なんだ」


 そう言って、メリッサに差し出すのは、首輪から伸びる一本のケーブル。


 首輪同士を繋げば使える秘匿通信機能。これを使って、必ず好転させてみせる。

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