第38話 群れ
コキュートス第二樹層、水窟の間、中腹。
遠くない距離から、爆発音と、地響きが聞こえてくる。
「――っ!? はぁ、はぁ……なんの、音だ」
走りながら、息を切らし尋ねるのは、パオロだった。
「湖の外れにある爆破草だな。音からして一つ。人か魔物の誤爆だろうよ」
並列して走るマクシスは涼しい顔で、返事をしてくる。
一つ程度の起爆なら、逃げ道が崩落している心配はないだろう。
「誤爆、か……」
「どうする? 後ろも限界みたいだぞ」
最後方には、卵を抱えたルーカスの姿。
ぜぇぜぇ、と荒々しい呼吸がここまで聞こえてくる。
入口まで逃げ切るというのは、あまり賢い選択ではなさそうだった。
「一つ、考えがある」
それなら、策を巡らせるしかない。例え、どんな犠牲を払ったとしても。
◇◇◇
コキュートス第二樹層、水窟の間、湖の外れ。
薄暗い中、視界の先の壁際には、黒色の草が大量に生えている。
「あれは爆破草。その名の通り、作用すれば起爆します」
ギリウスの説明に顔が青ざめていくのが分かる。
爆発の後、結果的に全員、無事だった。だけど、もし。
「じゃ、じゃあ、俺があの草の処理に失敗していたら今頃……」
「湖側ではなく、壁際に投げていれば、お二人は生き埋めだったでしょうね」
一歩間違えれば、死んでいた。
「……アザミさんに謝らないと」
すぐさま、アザミがいる場所へ足を向けようとする。
「駄目っすよ。今は誰とも話したくないらしいっす」
しかし、立ち塞がってきたのはメリッサだった。
「うー、俺が全部悪い……。謝りたいけど、口より行動で示さないとな」
メリッサが間に入ってくれたことで、なんとか破綻せずに済んだ。
ただ、信用は失ったみたいだ。勘違いとはいえ、ちゃんと誠意を見せないとな。
「それが賢明っすね」
「うん。そうする……。じゃあ、そろそろ行こっか」
重く受け止めながら、そう話を切り出した。
色々あったけど、休憩終わらせるにはいい時間だ。
「あー、それなら、先、行っててくださいっす。少しお花摘みに」
◇◇◇
湖を抜けた、鍾乳洞の道中。
「お待たせしたっす~。何か問題はなかったっすか?」
何事もなかったかのように、メリッサは合流した。
「不気味なぐらい何もなかったよ。何もなさすぎて怖いぐらい」
と、なんでもない会話をしていた。
――その時。
地鳴りがして、足音が幾重にも重なったような音が聞こえてくる。
「……ミザ」
「なに、この音……」
「ただごとではなさそうですね」
「お、ここに来て、ようやく魔物っすか」
「ち、違う。こ、この感じ……。ま、魔物じゃない」
各々が反応を示し、警戒感から、表情を硬くしている。
「あれは……」
すると、見えてくる。パオロと、大量の冒険者の姿があった。
後ろは、暗くてよく見えなかったけど、何かに追われているように見えた。
「……嫌な予感がする。逃げ――」
と、瞬時に事態を判断して、指示を飛ばそうとするけど。
「そこの冒険者! 僕たちが通るまで、動くな! 動けば撃ち殺す!!」
それを上回る声でかき消され、パオロは銃口を突き付けながら、そう言った。
(脅しだ。冒険者同士の殺しはご法度。手出しはできないはず……だけど)
「どうされます、ジェノ様? 私はどちらでも構いませんが」
思考を重ねる中、問いかけるのはギリウスだった。
あくまでリーダーの選択に任せる、ということだろう。
(万が一にでも、撃ってくる可能性があるのなら、俺は……)
「待機してください! 責任は、俺が取ります!」
人命が優先だ。後ろのことは見てから考えればいい。
「「「……」」」
腹をくくったのか、三人は、無言で頷き、覚悟を決める中、
「……ミザミザっ!」
一人、ミザリーだけが、首を横に振り、嫌がる素振りをしていた。
「メリッサ様、彼女はなんと?」
「生きてたんすね、その設定。まぁ、『嫌だ』とかじゃないっすか?」
「ふむ。だそうですが、どうなさいますか?」
「それでも、待機でお願いします。脅しだとしても、皆さんの命が第一ですから」
「承知しました。では、ミザリーにお伝え願えますか?」
「ミザミザ……って、できるか! 設定に乗ってあげただけっすよ!!」
ミザリーは納得してなかったけど、待つしかなかった。
パオロのパーティと入れ違い、後ろにいる何かと対面する時を。
「悪いが、ここで――死んでくれ」
そして、パオロは目の前まで迫り、耳元で不穏な言葉を言い残した。
「それって、どういう――」
聞き返そうとするが、冒険者たちの雑踏に言葉は消されてしまう。
「……背中は、任せたぜぇ」
続けて、卵を抱えたルーカスがそう言うと、列が終わる。
(一体、後ろに何が……)
そのすぐ後、嫌でも、思い知ることになった。奥にいたもの。
「――黒い、骸骨の、群れ……っ!?」
骸骨の群れが押し寄せている絶望的な状況と、脅してきた意味に。
(やられた……このままじゃ、全滅する……っ!)
戦うにしても、数があまりにも多すぎる。
仲間の実力を知らない今、戦うのはリスクしかなかった。
「逃げましょう!! 出口まで!!」
僕たちが通るまで動くな。彼は確かにそう言った。
約束は守ったし、引き返して撃ってくる可能性は低いはずだ。
ただ、その考えを伝える余裕も猶予もない。結論を伝えるしかなかった。
「「「「……っ!!」」」」
言うが早いか、行うが早いか、思考は一致し、骸骨に背を向けて走り出した。




