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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第36話 逃走


 崖上。ルーカスと骸骨との攻防も佳境を迎えている。


(もう、手も足も限界が近けぇ。諦めるしかねぇのかよ……っ!)


 卵を抱えるルーカスは、いまだに、骸骨の束縛から逃れられないでいた。


「ルーカス! 事情は把握した! 今から骸骨を狙撃する! そこを動くなよ!」


 救いのない絶望の中、聞こえてきたのは救いの声だった。


(嘘だろ、おい! なんで状況が伝わってんだ!? ……まさか、あの鳥公か?)


 不可思議な現象の回答を求めて、浮かぶのは、ふとした疑問と、予想。


「第一射、行くぞ! 姿勢をできるだけ低くして、備えろ!!」


 そう考えていたところに、鬼気迫る声が響く。


(なんにせよ、今は兄貴を信じるしかねぇっ!!)


 邪念を振り払い、今、できることをやるしかなかった。


「……っ」


 指示通り、身をできるだけ屈め、備える。


 直後、発砲音が鳴り響き、パチュンという風切り音と共に、崖際をかすめた。


『――ガ、ガ、ガ』


 しかし、敵はいまだ健在。煽ってくるおまけ付きで。


(外れた……っ!? この角度じゃ、さすがの兄貴でも無理なのか……?)


『ギギギッ!!』


 暗雲立ち込める中、左足を締め付ける握力が増していく。


「――――ぐっっ!!」


 肉を食い込んでくる爪に、顔が苦痛で歪む。


(これ以上、足を痛めたら、逃げられねぇ……。死ぬ、死んじまう……)


 痛みに、心が恐怖で支配されそうになる中、


「当たったなら顔を出せ。まだなら、諦めるな! 僕が助けてやる! 絶対に!」


 心に響いてくるのは、力強い激励の言葉だった。


(なに弱気になってんだ、俺っちは……)


 馬鹿らしくなってくる。骸骨ごときにびびってた、自分が。


「……くそっ、外したか。第二射目だ! 次は外さない! 確実に決めてやる!」


 そして、次に聞こえるのは、パオロの明確な意思表示。


(……情けねぇよ。兄貴が頑張ってんのに、声を殺して、助けを待つだけか?)


 必ず成し遂げる。その揺るがない意思に、劣等感を覚えてしまう。


(ちげぇだろ!! 兄貴のためになることは他にあるだろうが!!)


 やるべきことは、一つ。己を鼓舞させ、奮起させ、大きく息を吸い――そして。


「やってくだせぇ、兄貴ぃっ!!!」


 力一杯、叫んでやった。絶対的な信頼を示すための意思表示として。


 ◇◇◇


 ルーカスの熱のこもった声が聞こえてくる。


(もう、外せないな……。いや、外してやるかよ!)


 心地いいプレッシャーが、緊張感が、体に満ちて、力に変わる。


「神の導きよ。我に有れ」


 パオロは祈る。必中必殺の一撃を。


 祈りを済ませ、構え、アイアンサイト越しに覗き込む。


(外したが、感覚は掴んだ。そして、相手は恐らく、もっと、奥。それなら――)


 距離は高低差も合わせれば300メートル弱。


 反省し、修正し、狙いを定め、引き金に指をかける。


 次は、当てる。必ず、当てる。当たりさえすればいい。――いや。


「――当たれっ!!!」


 引き金を絞り、神の加護を受けた弾丸が、今、放たれた。


 ◇◇◇


 運命を決める銃声が響く。


 今のルーカスにできることはたった、一つ。


(兄貴が、当てると言ったら、必ず、当たる……。信じろ、兄貴を信じろっ!)


 パオロを信じる。それだけだった。


 そこに、放たれた一発の弾丸が迫る。迫る。迫る。


 目視は確認できない。が、再びパチュンという、風を切るような音が鳴る。


(この音……。そうか、そういうことか……)


 そこで、ようやく意図を察する。パオロの狙いは、


(――跳弾だ。兄貴は、跳弾で、見えない敵を狙ってるんだ!)


 弾は、洞窟の天井に当たり、反射。そのまま、ルーカスの足元へと迫った。


『――ガ、    ギ』


 見事、砕ける。黒い骸骨の頭蓋が。


 すると、同時に、拘束していた手が緩んだ。


「さすが、兄貴! 当たりやしたよ!」


 溢れんばかりの感情が、思考を経由せず、口に出る。


「当たった、のか……。いや、当然だ。それより、いいから、はやく降りてこい!」


 だが、なぜか、違う方向を見て、パオロは声を荒げている。


「……? まぁ、早く降りるに越したことはねぇか。――ざまぁみろ」


 沈黙した骸骨に罵声を浴びせ、卵を抱えたままルーカスは、崖を下る。


 岩の突起がちょうどいい階段状になっていて、下りるのは容易かった。


「――よし、と」


 何度目かの跳躍で、ようやく、地に足がつき。その実感を確かめる。


「着きましたよ、兄貴!」


 ルーカスの緩んだ表情とは対照的に、パオロの表情はなぜか、強張っていた。


「出口へ走れ。いいから!」


「はい、はいっと――」


 人遣いが荒い人だと思いつつも、悪くはない気分だった。


 だが、その時、視界の端に映ったものを見て、察する。パオロが急かす意味が。


「――うぇぇえぇぇえええぇぇぇぇえ!? なんなんですか、あれ!?」


 視界に映るのは押し寄せる大群。黒い骸骨の群れ。


 それが、一歩、また一歩と、少しずつ近寄ってきていた。


「知らん。いいから、走るんだ!」


「ひえぇぇぇえええぇぇえええ!」


 情けない叫び声が響き、冒険者たちの逃亡劇が始まった。


 そんな中、二人は気付かない。その最後方に、白髪の男がいたことに。


『――どう、くつ、男が、くる』


 近くを飛翔する赤い鳥が、小さな鳴き声で、警告し続けていたことに。

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