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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第35話 敵か味方か

 

 笛のような音が頭上から、響き渡る。


「警笛っ!? そんなもの、あいつが持ち込んでいた覚えは……」


 パオロは反射的に音のする方へ視線を向けると、一羽の赤い鳥が飛んでいた。


(赤い鳥……? 新手の魔物か? だとしたら……まずいっ!!)


 すぐさまアイアンサイト越しに狙いを定め、ライフルの引き金に手をかけた。


「だから、言ったろう。一人で行かせるべきではないと」


 そんな中、口を挟むのは薄茶色の髪に右腕がない隻腕の男――マクシス。


「うるさい! 今、集中してるんだ。僕に話しかけるな!」


 イライラする。こんな切羽詰まった状況で、話しかけてくるか、普通。


「憤るのは勝手だが、あの鳥。敵じゃなかったら、どうする」


「魔物は敵だ。それに今のリーダーは僕だ。元リーダー風情が指図するな」


「ダンジョンの経験は、私の方が上だ。あんな魔物みたことがない。様子を見ろ」


「僕に、命令するな!!」


 いちいち癇に障る野郎だ。こいつの言うことなんか聞いてやるか。

 

 あのうるさい鳥に狙いを定め、引き金にかかる指に力を込めていく。


(撃ってもいいのか、本当に……。もし、取り返しのつかない状況になったら)


 引き金を引く一歩手前で頭によぎるのは、最悪の想定。


 いつだってそうだ。重要な決断をする時に、迷ってしまう悪い癖だ。


(いや、迷うな。僕が正しい。状況が悪化する可能性だってある。――撃て!)


 対立する二つの意見を受け止め、わずかな葛藤の末、パオロは選ぶ。


「……くっ」


 撃たない、選択を。


「賢明な判断だ。それでこそ、リーダーを任せた甲斐がある」


「だが、待ってどうなる。さっきから一向に、返事がないんだぞ」


「あの鳥次第だろうな。行動を起こすのは、その後からでもよかろうよ」


 視線は自然と、赤い鳥に向く。


 すると、鳥はこちらに気付き、一直線に飛んできた。


(来る……っ! 賭けるしかないのか、あれが敵じゃないことを……)


 見渡せば、命令が行き届いていない冒険者が、鳥に銃口を向けている。


「撃つな!! 責任は僕が持つ!!」


 撃たないと決めた以上、意見を曲げるわけにはいかない。


 だから、必死で声を張り上げた。あの出所の知れない鳥を守るために。


「……了解」


 指示を受けた冒険者は、不服そうだったが、銃口は下がっていった。


(鬼が出るか、蛇が出るか……さて、どうなる)


 赤い鳥は、目の前で止まると、その場で羽ばたいている。敵意はないようだ。


「敵じゃないみたいだな。何か持っていれば、上の状況が掴めるかもしれ――」


『骸骨風情が……俺っちを舐めやがって』


 と言いかけた時、赤い鳥はルーカスの声を録音していたかのように垂れ流した。


「なっ!!」


「予想的中、というわけだな」


 九官鳥のような類なんだろうか。


 どちらにせよ、上で問題が起きているのは間違いない。


「続きはないのか。続きは!」


 今はとにかく情報が欲しい。意味があるか分からんが急かしてやった。


『……あ、に……き。…………たすけ……たすけ、て、くれ……』


 すると、効果があったのか、次に聞こえてきたのは、小さくかすれた声だった。


「あの馬鹿。声が出なくなったのか……」


「ただ、これで、上で襲われているのは確実だろうな」


「それは、分かってる。問題は、今から行って間に合うのか、だ」


「やめた方がいい。見捨てるか、狙撃で助けるかのどちらかが現実的だろうよ」


 正論だった。断片的な情報だが、明らかに時間が差し迫っている。


 さっきみたいに悩んでいる時間はない。ここは、即断即決が求められる局面。


「狙撃だと? 正確な位置も分からず、この距離だぞ?」


「まさか、できないとは言わんだろうな?」


「……あぁ、僕にしかできないだろうよ! 是が非でもやってやるっ!!」


 今度は迷ってやるものか。絶対に助けてやるぞ、ルーカス。

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