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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第34話 初めてのダンジョン


「こちらが、コキュートス第一樹層、鏡窟の間、でごぜえやす」


 昇降機の扉が開き、グレゴリは解説する。


 そこは、万華鏡の中にいるような、鏡の空間だった。


 壁から生える紫水晶が光源となっていて、辺りを淡く照らしている。


「ミザ!」


「き、綺麗……」


「……これが、ダンジョン」


「見慣れた光景ですが、やはり何度見ても美しい」


「遊園地のアトラクション……にしては、よく出来過ぎっすね」


 ダンジョンに足を踏み入れた五人は、神秘的な光景を前に、各々が反応を示す。


「では、あっしはこれにて失礼しやすが、一つ、ご忠告を」


 そんな中、昇降機に残るグレゴリは、声をかけてくる。


「――黒い骸骨だけは、何があっても、直に触れないよう、お願いしやす」


 そして、重苦しい口調で、そう言うと、扉は閉まっていった。


「……うわ、なんか、鳥肌立ってきた」


 怖すぎる。まるで、ホラー映画のような演出に、寒気が走る。


「ビビりすぎっすよ。アザミを見習えっす」


「……え?」


 言われて見てみると、目を見開き、微動だにしていない。


「――ほんとだ。アザミさんって、肝が据わってるんですね」


 意外だった。怖い話とか、ここにいる誰よりも苦手そうなのに。


「……」


「あの、聞いてます?」


「……」


「おーい、アザミさん。大丈夫ですか?」


 なぜか、一向に返事がなく、顔の前で手を振るけど、反応がない。


(まさか、死んでる……? いやいや、そんなはずは……)


 馬鹿みたいな予想が浮かび、耳を傾けると、かすかに呼吸音があった。


(息がある……。生きてるってことだよね。でも、じゃあ、これって……)


「立ったまま、気絶してる……っ!?」


 仲間の気絶。それが、初めてのダンジョンで起きた、初めてのトラブルだった。


 ◇◇◇


 コキュートス第三樹層、巣窟の間。


 洞窟内に自然にできた崖。その頂上にルーカスはいた。


「でっけぇ……。こいつが、魔物の卵……」


 見たこともない巨大な卵を前に、心が躍った。


(……っと、いけねぇ、いけねぇ。まずは、報告っと)


 そこで、はっと我に返り、やらなければいけないことを思い出す。


「ありましたよぉ、旦那ぁ!」


 振り返り、崖下に向かって、目一杯、声を張り上げた。


 下までの距離は、約百メートルはある。よくここまで、登ってきたもんだ。


「よし、なら、とっと戻って来い! こっちは片付いた!!」


 すると、崖下にいたパオロはボルトアクション式のライフルを握り、叫んだ。


 周りには五十人の冒険者と、大量の薬莢と狼型の魔物の死骸が転がっている。


(さすが、旦那だ。あれだけの魔物を、一人の犠牲もなしで……)


 あの若さで一個小隊程度の人数を統率し、射撃の腕もピカイチときた。


(あれで発展途上だってんだからバケモンだよな……。俺っちじゃ、敵わねぇよ)


「おい、返事はどうした! 何かあったのか!?」


 と、ぼんやりしていたら、帰りを急かす声が聞こえてくる。


「いえ、なんの問題ねぇです! すぐ、持っていきますんで!!」


 すぐさま声を張り、安全を知らせた。怒らせたら、おっかねぇからな。


「さぁって、兄貴がお待ちなんで、早速、盗らせてもらいますかっと」


 巣の中は、木の枝だらけで、足場が悪い。


(外側から回り込んで、後ろ側から持ち上げた方がよさげか)


 思い付くまま、ひょいひょいと、枝を避け、巣の裏側へ回り込んでいく。


「――うぉっ!? とと。あぶねぇ、あぶねぇ……」


 すると、何かにつまずき、転んじまいそうになるが、踏みとどまった。


「……なんだこれ、黒い……骨か? 薄気味わりぃ。動いたりしねぇよな?」


 足元には、黒い骨が転がっている。これに引っかけちまったんだろう。


(そういやぁ、あの怪しげな男に何か言われたような……)


 ふいに、頭ん中で何かがよぎる。


 思い出そうとするが、すぐには浮かばなかった。


「いや、んなことより、回収、回収っと――」 


 考えたところで意味がねぇ。卵の両端を掴み、ゆっくりと持ち上げる。


 重さは大したことなかった。せいぜい、生後半年ぐらいの赤ん坊ってところだ。


「――っ。なんだ……? 足が、動かねぇ」


 さっさとずらかろうとする。

 

 が、何かに足をがっちりと掴まれたように、動けなくなる。


「また、なんか引っかけて……っ!?」


 足元に視線を向けると、目を疑った。


 黒い骸骨人間がいて、肉のない手が、左足の足首を握っていやがった。


「ぐっ!!」


 考える暇もないまま、足首に、鋭い痛みが走る。 


「このっ、放せ、放し、やがれっ!!」


 空いた右足で、何度も何度も蹴りつけるが、ひるみすらしない。


『ガ    キギ』


 笑った。この骸骨は確かに笑っていた。非力な人間を馬鹿にするように。


「骸骨風情が……俺っちを舐めやがって」


 頭にきた。肩の銃を取るため、卵を手放そうとするが。


「間違っても、卵は割るんじゃないぞ、ルーカス!!」


 状況を知らないパオロの声が響き、理性が歯止めをかける。


(あぶねぇ。危うく割っちまうとこだった。でも、どうする……?)


 こっちは、死角になっていて、下からの援護は期待できねぇ。


 かといって、両手を離すと、卵が砕けて、ここまでの労力が全部ぱぁだ。


(卵を取るか、命を取るか。いや、両方だ。卵を持ち帰らねぇと首輪で死ぬ……)


 卵を取って、命も取る。そんな無茶な要望に応えないと明日はなかった。


(だったら、助けを呼ぶしかねぇ。兄貴なら、なんとかしてくれるはずだ!)


 そう言い聞かせ、息を吸って、精一杯、声を張り上げようとする。


「……あ、に……き。…………たすけ……たすけ、て、くれ……」


 ようやく出たのは、搾りカスのような、か細い声。


(声が、出ねぇ……。怯えてるってぇのか。こんな骸骨、ごときに……っ!)


『ギ、  ギギ』


 それを嘲笑うように、黒い骸骨の魔の手が迫ってくる。


(……ちくしょう。来んじゃねぇ。くそっ、くそっ、くそっ!!!)


 迫る左手を蹴飛ばして、現状維持。


 それが今できる、最大限の抵抗だった。


(くっ、終わり、なのかよ……。こんな中途半端なところで……)


 しかし、骸骨の手は着実に確実に迫って来る。


 どうしようもない残酷な現実を前に、思わず目を閉じた。


『――――ピィィィッ!!』


 その時。突如として、笛のような音が響き渡る。


 恐る恐る目を開くと、そこには、赤い鳥が羽ばたいていた。

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