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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第33話 夢は終わらない

 

 コキュートス第五樹層、狂窟の間。

 

 辺りは熱気と、死臭に満ち、黒い骨が無数に転がっている。


(あり得ない、あり得ない、あり得ないっ!! どうして……っ!!)


 ダンジョンなら不測の事態が起こって当たり前。それは分かる。


 未知の魔物による不運な全滅だったなら、実力不足だったと納得してやる。


 ――だけど。


「どうして、未開拓領域の下から来るんだ! ただの人間がっ!!!」


 おかしい。納得がいかない。理解できない。


 赤いハチマキを額に巻いた黒髪の青年は不満をぶつけた。


 魔物ではなく人。局部を毛皮で覆う、白髪の男が襲ってくるのだから。


「……」


 男は答えない。無言で、青年を見つめている。


(無理だ。間違いなく、死ぬ……。僕は、今日ここで……)


 幾多の困難を乗り越えた経験が、死を直感している。


(死ぬなら、せめて、こいつの情報を、後世に伝えないと……)


 伝える手段はあるが、伝える情報は少しでも多い方がいい。


(何か、ないか。噂でも、都市伝説でも、なんでもいい。何か……)


「――ッ!!?」


 直後、脳内に電流が駆け巡り、導き出す。


「まさか……『洞窟男』なのか?」


 これしかないと思える、回答。白髪の男の正体を。


「……」


 男は答えない。返事の代わりに、黄金色の瞳を怪しく輝かせた。


「――――くっ……あぁあああああああああああああああああっっ!!!!!」


 視界が緑色の炎で染まり、遅れてやってくる、想像を絶する痛み。


 楽になりたい。立っていられない。地面にのたうち回りたい。


 死と痛みと絶望の狭間。生への執着心が体を突き動かす。


「……がっ、ぐッッ!!」


 それを耐えた。歯を噛み砕いて、踏みとどまった。人の形を保つための一線。


(生に媚びて、なんになる。僕は、死ぬ……いや、僕のまま死にたいんだ!!)


 一度、火がつけば終わり。転げ回っても意味がない。見苦しいだけだ。


(――だから、倒れてやる前に、見せてやる。最後の意地をっ!!)


 人の形が保てなくなる前に、しなければいけないことがあった。


「……うぁぁぁあああっ!!!」


 皮膚が焼けただれる中、選んだ行動は、アンダースロー。


 握り締めていた黒い草を、男に向けて、投げつけた。


 恐らく、これが、冒険者としての最後の抵抗だ。


「――」


 だが、男は首を逸らして、避ける。


「……す、ざくっ!!!」


 無駄死にはしない。


 その思いで、叫んだ。相棒の名を。


『――』


 すると、天井から、小石が落下し、外れた黒い草と接触。


「……っ!!?」


 瞬間、爆発。生じる爆風と爆熱が男を襲う。


(この程度で、やつは倒せない。――だから、後に、託す)


 直後、急速に接近する一羽の赤い鳥がいた。


「――どう、くつ、男が、くる」 


 すれ違いざま、確かに、告げた。やり遂げた。果たすべき役目を。


(後に続く者がいる限り、冒険は、夢は、終わらない……)


 薄れゆく視界。動かない体。崩れる足元。白い骨。

 

 死が、目の前まで迫ってきているのが分かる。


 冒険者として、最高の末路だ。だけど。


 一つだけ、言いたいことがあった。


「おぼえて、いろ……。同胞が、必ず、お前を、たお、す――――」


 立ち上がってくる敵に送る、報復の遺志。


 恐らく、これが、人としての最期の悪あがきだ。


 ◇◇◇


 一人の人間の見事な最期を、見届けた者がいた。


「……ミザ」


 白い骨のまま朽ち果てた亡骸に向かい、洞窟男は賞賛の言葉を送る。


『『『『――――ガガ、ギ』』』』


 その背後には、黒い骨の集団。穢れたまま散った人間の末路がそこにはあった。

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