第31話 ルール説明
「これで、登録完了よ。最後に確認だけど、リーダーはあなたでいいのね?」
黒髪の女性――アザミを仲間に迎え、マスターは尋ねてくる。
三次試験と思わしき依頼を受けるための手続きが終わった後だった。
「……はい。自信ないですけど、頑張ります」
そこで、ジェノは弱々しくも声を張る。
やりたくなかったけど、多数決には勝てなかった。
「素直でよろしい。じゃあ、早速だけど、これを渡しておくわね」
そう言って、取り出したのは白色のカードだった。
「これは?」
渡されたカードを受け取りつつも、用途が分からず、疑問をそのまま尋ねた。
「リーダー用のマスターカードよ。ダンジョン直行の昇降機を操作できるわ」
「なるほど。なくさないようにしないと……」
「次にあなたたちには、これ」
次に取り出したのは、三枚の無色透明のカード。それを一枚ずつ渡していく。
「恐縮です」
「……ど、どうもです」
ギリウスとアザミは素直に受け取り、
「こっちはなんに使えるんすか?」
メリッサが、不審そうな目つきで尋ねていった。
「仲間用のメンバーカードよ。マスターカードに当ててみて」
言われた通りメリッサは、色の違うカード同士を当てていく。
すると、無色透明だったメンバーカードが、白色に変色していった。
「色が変わったっすね。でも、これがなんなんすか?」
「それは、人の意思に反応するカード。相手を信頼しないと色が変化しないわ」
「……いや、変わったからなんなのか、聞いてるんすけど」
「もう、せっかちね。白色は、ジェノ君のパーティに所属している証よ。リーダーによって、色は変わるから自分の色をちゃんと覚えておいて。後は、マスターカードを狙う不届き者への隠蔽工作も兼ねてるから、他の人もちゃんとやっといてね」
「ふん。だったら、それを先に言えっす」
何故か不機嫌そうにしているメリッサを横目に、
「失礼いたしますね」
「す、すごい、ほんとに、変わった……」
残りの二人は、カード同士を当てて、白色に変わっていた。
「できたみたいね。じゃあ、ここからが本題。三次試験について説明するわ」
「お願いします」
「試験地は、中央広場、虚大樹地下にあるダンジョン、コキュートス。目的は、第三樹層にある魔物の卵を回収すること。ただし、注意事項があって、報告できるのはリーダーのみで、アイテムの持ち込みは二次試験の報酬のみだから」
おおよそは、依頼内容通りだった。だけど、少し気になったことがある。
「……どうして、報告はリーダーじゃないと駄目なんですか?」
「統率力と護衛力を見る試験だから、って言いたいけど本音は不正防止のためよ」
「不正って、具体的にはどういうものなんです?」
「前にいたのよねぇ。リーダーを殺して、合格しようとした輩が」
「……あり得るんでしょうね。首輪の恐怖に支配された、この世界なら」
「ええ。だから、リーダーは死ぬ気で守ってねん。死にたいなら話は別だけど」
「仮にですけど、俺が死んでしまった場合、他の人はどうなっちゃうんですか?」
ここまでの話は理解できる。ただ、心配な点はそこだった。
「マスターカードは本人以外使えないから、ダンジョンに取り残されて死ぬわね」
「他のカードだと昇降機が使えないんですね。なにか救済措置はないんですか?」
「当然あるわよ。メンバーカードは、他のマスターカードを持つリーダーと接触すれば、別のパーティとして認められるから、昇降機に乗れるようになるわ。だから、リーダーが死んじゃったら、大人しく救助を待ってねん」
「責任重大だな……」
心臓がきゅっと締め付けられるような感覚になる。
今さらながら、リーダーとしての責任が心に重くのしかかってくる。
「どうしたの? 怖気づいちゃった?」
「……いいえ、いい具合に気が引き締まりました!」
だけど、暗い顔をして、士気を下げるわけにはいかない。
「そう。せいぜい、死なない程度に、頑張んなさい」
「はいっ!」
わざと明るく振舞って、前を向いた。仲間は誰も死なせない、と心に誓って。




