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銃と魔法のダンジョン世界でクリアするまで出られないデスゲームが始まりました  作者: 木山碧人
第二章 ガンズオブインフェルノ

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第26話 ストリートファイト


 走る、走る。よく知りもしない商店街通りを。


(なんで、一言も相談しないんだ。あの馬鹿……っ!)


 言いようのない焦燥感に駆られていると、通りの中心には人だかり。


 ヤジが飛び交い、熱狂している様子で、異様な盛り上がりを見せていた。


「ここで、何をやってるんですか?」

 

 ジェノは囲うようにできた人だかりの一人に話しかける。


「ストリートファイトだよ。お兄さんも賭けるか?」


 前歯が抜けた浮浪者のような男は、にかっと笑い、質問に答える。


 手には二つの空き缶。中は黒貨が溢れている。賭けの胴元なんだろう。


「……っ! すみません、ちょっと、通してください」


 嫌な予感が脳裏をよぎり、無理やり人混みの中に、体を割り込ませていく。


「おい、ちょっと、あんた、危険だよ――」


 呼び止めようとする声が聞こえるけど、関係ない。


 とにかく前に、前に、突き進み、抜けて出る。人混みの中央へ。


(やっぱり、いた……っ!)


 見えるのは、見知った顔と、見知らぬ顔。


 メリッサと、バーテン服に顔に黒い包帯を巻いた男だった。


「こんの、大人しく当たれっす」


 メリッサは一方的に拳を振るい、包帯男はひらりとかわしている。


「困りますね。私が何をしたというんです」


「その目つきが、気に入らないんすよ。その目つきがっ!!」


 確かに包帯男の目は、刃のように鋭い。


 けど、それは到底、殴っていい理由にはならない。


(くっそ……。これ以上、見てられるかっ!)


 いても立ってもいられず、体は勝手に動き、間に入り込んだ。


「なっ」


「――」


 拳と骨がかち合う音と「うおおおおおっ!!」という外野の歓声が響く。


「……」


 ぽたりと血が滴り、ジェノの前に立つのは、包帯男だった。


 拳を受けたせいで、包帯の下の火傷の痕と、左頬の刃物傷が見えている。


「お怪我はありませんでしたか?」


 振り返り、男は言った。この世界では、異常とも言える、紳士的な態度で。


「……どうして、俺なんかをかばったんですか!」


 今までの動きを見る限り、この人だったら簡単に避けられたはず。


 それなのに、わざわざ他人をかばって負傷した。その意味が理解できなかった。


「見ず知らずの人を、巻き込むわけにはいきませんから」


 ハンカチで口を拭い、乱れた衣服の襟を正し、答える。


 その首元には、プレイヤーの証である首輪を覗かせていた。


「あなたは、一体……」


 得体の知れなさに、心の声がそのまま漏れる。


「ただのバーテンダーですよ。それより気が済みましたか? お嬢さん」


 包帯男は己の職業を告げ、拳を振るった相手に気遣う言葉を投げかけた。


「……なんで、きたんすか。追って来たら、殺すって言ったっすよね」


 その相手。涙を滲ませるバニーガールは、ぽつりと言う。


 一目見て、言葉を聞いて、肌で感じ取って、すぐに分かった。


(嘘だったんだな。追いかけてきたら殺す、なんてのは……)


 だったら、答えないといけない。思いを口にしないといけない。


「殺されるより、仲間を失う方が俺にとっては怖い」


「……」


 瞳が揺れた。わずかに。でも、確かに。


「だから、事情を話してよ。メリッサが何と言おうと俺は味方なんだから」


 お節介でも、的外れでも、なんでもいい。


 気持ちを素直に伝える以外方法なんてなかった。


「……うちの気も知らないで」


 手で涙を拭い、メリッサは答える。


 その顔は何かの覚悟を決めているように見えた。


「私の出番はこれまでのようですね」


 今ので決着がついたと思ったのか、包帯男はその場を去ろうとしている。


「待ってください。後で謝りにいくので、お店の場所を教えてもらえませんか?」


「結構ですよ。気にしていませんから」


「駄目です。俺の気が済まないので、教えてください」


「ふっ、強情なお方だ。分かりました、場所はこちらに書いてありますので」

 

 柔和な笑みをこぼし、男は懐から名刺を出し、渡してくる。


 名刺には、お店の場所が図で描写され、名前の欄にはギリウスと書かれていた。


「ありがとうございます。ギリウスさん。後で、必ずいきますから」


「ええ、お待ちしておりますよ。夜まで仕込みで暇ですから」


 ギリウスは、そう言い残すと、人混みの中へ溶け込むようにして消えていった。


「ほら、いくよ、メリッサ」


「どこ、いくんすか」


「知らないよ。とりあえず、人がいないとこ」


 これ以上は、大衆の面前で話すことじゃないだろう。


 メリッサの答えは聞けていないけど、それが、最善のように思えた。

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